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法的リスクの分類と対策の優先順位

ポイント

  1. 法的リスクは、6つの種類に分類できる
  2. 法的リスクのうち、「取ってはいけないリスク」と「コントロールするリスク」に分類できる
  3. 法的リスクを分類すれば、対策の優先順位をつけることができる

法的リスクの分類

コンプライアンスリスクのうち、法令違反に基づくリスクとして、法的リスクが挙げられます。法的リスクも、コンプライアンスリスクの一つであり、当然に私たち法務部がコントロールすべきリスクといえます。

それでは、私たちがコントロールすべき「法的リスク」とは、具体的にはどのようなリスクなのでしょうか。

典型的な法的リスクとしては、①自社の取引や契約が法令に違反するリスクが挙げられます(以下「法令リスク」といいます)。そして、法令リスクには、単に契約等が無効になるといった私法上の効力が否定されるにとどまらず、②規制当局から課徴金納付命令が下されたり業務停止命令が下される等の重大な不利益をもたらす行政処分等を受けるおそれ(以下「当局リスク」といいます)もあります。

かかる法令リスク・当局リスク以外にも、たとえば、③不用意な交渉に伴う契約締結上の過失に基づく責任や、交渉過程における秘密漏洩のおそれ、最終契約締結にまで至らないおそれなど、契約交渉過程で生じるリスク(以下「契約リスク」といいます)や、④当該取引先から訴えられるリスクが挙げられます(以下「訴訟リスク」といいます)。また、訴訟リスクのうち、裁判所が自社の解釈と異なる判断を下すことにより、⑤自社が敗訴ないし不利を強いられるリスク(以下「敗訴リスク」といいます)も法的リスクの一つに含めることができます。

さらに、たとえば世間の耳目を集める事件において自社が訴えられた場合、⑥自社のレピュテーション(名声)に重大な影響をもたらすおそれ(以下「レピュテーショナルリスク」といいます)も法的リスクに含めることが可能でしょう。

これら①法令リスク、②当局リスク、③契約リスク、④訴訟リスク、⑤敗訴リスク、⑥レピュテーショナルリスクを総括すると、法的リスクとは、一般に、「法令や契約等に反すること、不適切な契約を締結すること、その他の法的原因により有形無形の損失を被るリスク」のことをいい、企業活動に伴い不可避的に生じるオペレーショナルリスクの一つといえます。

「取ってはいけないリスク」と「コントロールするリスク」の分類

そして、これら法的リスクは、そのリスクに伴う不利益の程度・コントロールの可能性等に応じて、「取ってはいけない法的リスク」と、「取った上でコントロールする法的リスク」の2つに分類することができます。

取ってはいけない法的リスク

「取ってはいけない法的リスク」とは、当該法的リスクが現実化した場合に、企業活動に容易に回復しがたい重大なダメージをもたらすおそれのある法的リスクをいいます。

具体的には、刑事罰を伴うような重大な法令リスクや、企業活動を停止させるような行政処分を伴う当局リスク、大規模訴訟等の重要案件に係る敗訴リスク等がこれに該当します。

たとえば、証券会社の役職員が、大口取引先等の一部の投資家にだけ利益を得させる目的で重要事実を故意に伝達し、インサイダー取引規制に違反した場合、他の一般投資家等に対して民事責任を負うにとどまらず、課徴金納付命令や業務停止処分等の重大な不利益をもたらす行政処分や、刑事罰を科されるおそれがあり、当該証券会社は致命的なダメージを被る可能性があります。

かかる企業にとって致命的なダメージを及ぼすおそれのある「取ってはいけない法的リスク」については、早期かつ未然に防止するとともに、万が一顕在化した場合にはリスクが拡大しないよう全力で対処する必要があります。

取った上でコントロールする法的リスク

これに対して、「取った上でコントロールする法的リスク」とは、当該法的リスクを負担したとしても、その現実化又は影響を一定程度コントロールしうる法的リスクをいいます。

具体的には、私法上の効力が否定されるにとどまるような軽微な法令リスク、契約リスク、訴訟リスク、重要性の低い案件に係る敗訴リスク、及びレピュテーショナルリスクがこれに該当します。

たとえば、契約リスクについては、相手方との力関係等に鑑みて、契約書上、自社のみが一方的に守秘義務を負担せざるを得ない場合がありますが、その場合であっても守秘義務の対象となる「秘密情報」の範囲を限定すること等によってその影響を相当程度限定することは可能です。また、訴訟リスクについては、訴え提起自体は第三者の意思にかかるためコントロールできないものの、訴訟提起された場合に早期に和解で解決すること等によって、その影響をコントロールすることは可能です。

このように、「取った上でコントロールする法的リスク」については、当該リスク自体を必ず回避しなければならないというものではなく、むしろ場合によっては積極的にリスクを取った上で、その影響を軽減すべくコントロールすることが求められるものということができます。

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