質問
近年競争環境が激化していることに伴い、過大な人件費を削減する観点から、当社ではIT部門について外部へアウトソーシングすることとし、同部門でIT業務に従事していた社員Xについては当社の子会社のIT部署へと出向を命じることとしました。
出向に関する諸手続については当社就業規則中でも詳細に規定しており、出向期間は3年間に限定しています。
当社子会社は当社から1駅しか離れておらず、勤務時間や給料等の待遇もほぼ同じ水準を維持するつもりですが、Xはこの出向命令を拒んでおり、対処に苦慮しています。
Xに対する出向命令は有効に認められるでしょうか?
回答
使用者である会社は、労働者である社員に対して当然に出向を命令できる訳ではないことに注意が必要です。
ご相談のケースにおいては、出向に関する詳細な規定が就業規則中に規定されているとのことですので、Xに対する出向命令が強行法規や就業規則等に違反しておらず、権利濫用に該当しなければ有効に認められることとなります。
出向命令の権利濫用該当性については、出向の業務上の必要性の有無・程度、対象労働者の選定の合理性、その他の事情(出向によって労働者が被る不利益の程度等)を総合考慮して判断することになります。
解説
出向及び出向命令とは
出向とは、雇用先企業の従業員としての地位を保持したまま、他企業の事業所において相当長期間にわたり当該他企業の労務に従事させる人事異動のことをいいます。
たとえば、親会社の従業員の地位を保持したまま、子会社や関連会社に出向して労務に従事する場合が該当します。
そして、会社が社員に対して一方的に出向を命じることを「出向命令」といいます。
出向命令の有効要件
会社による出向命令が有効に認められるための要件は、概要以下のとおりです。
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以下、各要件について個別に検討していきます。
1 出向命令権の根拠があること
会社間の人事異動である出向は、労務提供の相手方が変更されるため、原則として労働契約によって当然に認められる配置転換権と異なり、会社による出向命令権が労働契約の内容になっているというためには、単に就業規則上、一般的に「出向を命じうる」等の規定があるだけでは足りず、就業規則・労働協約上の根拠規定や採用の際等における同意等の明示の根拠が必要となります(日東タイヤ事件(最高裁昭和48年10月19日労判189号)、新日本製鐵(日鐵運輸第2事件)(最高裁平成15年4月18日労判847号))。
「会社は、社員に対して当然に出向を命じることができる」と誤解している会社も少なくありませんが、上記のとおり、出向命令は会社の当然の権利ではなく、契約上の根拠が必要であることにご留意ください。
2 強行法規違反がないこと
たとえば、出向が組合活動の妨害を目的とするような不当労働行為(労働組合法7条)に当たる場合や、思想信条による差別(労基法3条)に当たる場合は無効となります。
3 労働協約違反、就業規則違反もないこと
労働協約等の人事協議条項や同意条項に違反してなされた出向命令は、通常は無効となります。
4 権利濫用でないこと
出向命令に契約上の根拠が認められたとしても、権利濫用に当たる場合は出向命令は無効となります(労働契約法14条)。
労働契約法14条は、「使用者が労働者に出向を命じることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と規定しているところ、出向の業務上の必要性の有無・程度、対象労働者の選定の合理性、その他の事情(出向によって労働者が被る不利益の程度等)を総合考慮して、権利濫用になるか判断することとなります。
なお、同一企業内部における配転命令と比べて、出向の場合は労働者側の事情に相当の配慮を行うことが必要と解されていることに注意が必要です。
ご相談のケースについて
ご相談のケースにおいては、出向に関する詳細な規定が就業規則中に規定されているとのことですので、Xに対する出向命令が強行法規や就業規則等に違反しておらず、権利濫用に該当しなければ有効に認められることとなります。
出向命令の権利濫用該当性については、出向の業務上の必要性の有無・程度、対象労働者の選定の合理性、その他の事情(出向によって労働者が被る不利益の程度等)を総合考慮して判断することになります。
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