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【使用者向け】労働時間—休憩時間中の待機対応と労働時間

【使用者向け】労働時間—休憩時間中の待機対応と労働時間

【質問】

当社では、セキュリティ上の観点から、交代制でビル管理者を配置しており、ビル管理社は仮眠室で待機し、警報が作動したり電話が鳴ったりしたときには24時間態勢で必要な対応をとることとしています。
このたび、ビル管理者Xから「仮眠室での待機時間も労働時間に当たるはずなので、その分の賃金を払って欲しい」との要求を受けました。たしかに仮眠時間中でも電話が鳴ることはちょくちょくありますし、電話ほどではないにせよ、警報が作動したことも一度や二度ではありません。しかし、基本的には仮眠時間として休憩してもらっているのですから、その分の賃金を支払う必要はないと考えているのですが、当社は賃金支払義務を負うのでしょうか?

【回答】

Xは、警報が作動したり電話が鳴ったりしたときには24時間態勢で必要な対応をとることが義務づけられていたことからすると、仮眠時間中も労働からの解放が保障されていたとはいえず、過去の判例に照らしても仮眠室での待機は労働時間に該当する可能性が高いといえます。
したがって、会社には、Xの仮眠時間に相当する賃金を支払う義務を負う可能性が高いと思われます。

【解説】

1. 労働時間とは

労働時間とは、使用者の指揮命令下で、労働力を提供した時間をいいます。
三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決(最高裁平成12年3月9日労判778号)によれば、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に決まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めいかんにより決定されるべきものではない」と判示しています。
したがって、実作業に従事している時間だけでなく、作業の準備や後処理を行っている時間、また、待機している時間も実労働時間に含まれます。

2. 休憩時間とは

休憩時間とは、勤務時間の途中で、社員が精神的、肉体的に一切の労働から離れることを保障されている時間をいい、労働時間には含まれず(労基法32条)、賃金支払い義務の対象とはなりません。
他方、現実に作業はしていないものの、会社からいつ就労の要求があるかもしれない状態で待機している、いわゆる手待時間は、完全に労働から離れることを保障されている時間とはいえないため、休憩時間には該当せず、労働時間となります。

3. 仮眠室での待機と休憩時間

仮眠室での待機が労働時間に該当するのか、それとも休憩時間に該当するのかの判断基準について、大星ビル管理事件最高裁判決(最高裁平成14年2月28日労判822号)は、「労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」としつつ、「労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が・・・労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる」と判示しています。
続けて、最高裁は、「仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務づけられて」いて、「その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務づけがなされていないと認めることができるような事情」がないとして、労働時間にあたる、と結論付けています。
なお、行政解釈も、電話や来客対応のために待機している時間は労働時間になる、と解しています(平成11年3月31日基発168号)。

4. ご相談のケースについて

Xは、警報が作動したり電話が鳴ったりしたときには24時間態勢で必要な対応をとることが義務づけられていたことからすると、仮眠時間中も労働からの解放が保障されていたとはいえず、過去の判例に照らしても仮眠室での待機は労働時間に該当する可能性が高いといえます。
したがって、会社には、Xの仮眠時間に相当する賃金を支払う義務を負う可能性が高いと思われます。

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