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一方的に退職を要求する社員への対応

一方的に退職を要求する社員への対応

相談事例

当社で1年間の有期契約で入社したドライバーAは、無断で遅刻や早退を繰り返したり、勝手に運送ルートを変更したりするなど、問題行動ばかり繰り返していました。

当社としてもこれ以上は見過ごすことができず、厳重に注意したところ、Aは、激昂し、「こんな会社では仕事はできない。今日付けで辞めさせてもらう。」と怒鳴って出ていってしまいました。

当社では、すでにAに配送業務のシフトを組んでおり、明日から突然にAに辞められてしまうと、取引先にも多大な迷惑をかけてしまうことになります。

Aにはいつか辞めてもらうしかないとは思っていましたが、だからといって突然に退職することは問題ないのでしょうか。

解説

退職の自由

①退職とは、労働者からの一方的な解約であり、使用者の承諾の問題は生じません。原則として辞めることは自由とされていますが、以下の規制があります。

退職の制限

無期雇用の場合

辞職は、解雇と異なり、正当な理由は必要ありません。もっとも、原則として2週間前の予告が必要となります(民法627条)。辞職の意思表示が使用者側に到達してから2週間後に労働契約が終了することになります。

それでは、予告期間が2週間以上に設定された就業規則や労働契約の定めがある場合はどうでしょうか。この場合、学説は分かれているところではありますが、ある程度の期間(例えば1ヶ月程度)を設定することは有効とされる可能性はあります。

有期雇用の場合

損害賠償責任の可能性

有期雇用の場合、無期雇用とは異なり、契約期間中の辞職については、「やむを得ない事由」(民法628条)がある場合に限り、直ちに解約することができます。

但し、「やむを得ない事由」を故意又は過失によって生じさせた当事者は、相手方に対して、解約により生じた損害について賠償責任を負う可能性があります。なお、「やむを得ない事由」がないにもかかわらず辞職の意思を明らかにし、以降実際に就労しなかった場合も、労働者の意思に反して労働を強制することはできないので、損害賠償の問題となります。

「やむを得ない事由」とは何か

このように、「やむを得ない事由」があるかどうかによって、契約期間中での解約が認められるかどうかが判断されます。

「やむを得ない事由」とは具体的にどのようなことを指すのか、実務上もあまり議論されていないところではありますが、辞職が原則として自由であることからすれば、「やむを得ない事由」は、就業環境や労働者の健康、生活環境も加味して、緩やかに解される可能性があることに留意が必要です。

損害賠償請求ができる場合

以上を踏まえると、無期雇用の場合には退職の意志表示から2週間は退職ができないことになり、有期雇用の場合には雇用期間が満了しておらず、かつ「やむを得ない事由」がない場合には、社員は退職することができないことになります。

それにもかかわらず、社員が退職届を一方的に提出した後に出勤をしない場合には、無断欠勤ということになり、社員の債務不履行責任が生じることになります。

社員の無断欠勤の結果、会社が損害を被った場合には、会社は社員に対して債務不履行責任に基づく損害賠償請求をすることが可能です。

ただし、会社から社員に対する損害賠償請求が認められるとしても、認められる損害の範囲は、無断欠勤による労務不提供という債務不履行から通常生ずる損害として相当因果関係のあるものに限られるほか、信義則上相当な範囲に限られる可能性があることには留意が必要です。

ご相談のケースについて

相談事例でも、Aが突然に退職をすること自体を止める方法はありません。

もっとも、Aは有期雇用契約であるところ、突然に退職の意思表示をしたことによって会社に不測の損害が生じた場合、「やむを得ない事由」があるとは言い難いことから、会社からAに対する損害賠償請求をすることが考えられます。

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