この記事は、従業員からハラスメントの相談を受けた会社の経営者・人事担当者に向けたものです。
従業員からハラスメントの申告を受けたとき、会社は、相談者の安全の確保、事実関係の調査、事実の認定とそれに基づく対応、再発の防止という順序で対応を進めます。事業主には、ハラスメントの相談に応じ、迅速かつ適切に対応するための措置を講じることが法律で義務付けられています。初動の対応を誤ると、相談者の被害が拡大するだけでなく、会社自身の責任が問われることもあります。
この記事では、相談を受けた後の会社の初動から再発防止までを説明します。
安全確保と受付
相談を受けたら、まず相談者の話を丁寧に聞き、日時、場所、行為の内容、目撃者、証拠の有無を記録します。相談者が調査を望むかどうか、行為者に相談者の名前を伝えてよいかといった希望も確認します。
相談者と行為者とされる従業員が近くで働いていて、接触を避ける必要がある場合は、配置や勤務の調整を検討します。その際、相談者に不利益な扱いにならないよう配慮します。相談したことや調査に協力したことを理由に、不利益な扱いをすることは禁止されています。相談の内容は関係者のプライバシーに関わるため、情報を共有する範囲を必要最小限にとどめます。
関係者の聴取と資料
調査の担当者は、中立の立場で調査できる人を選びます。行為者とされる従業員の上司や親しい同僚が担当すると、調査の公正さに疑いが生じることがあります。役員が行為者とされる場合や、事案が重大な場合は、外部の専門家に調査を依頼することも検討します。
聴取は、一般に、相談者、行為者とされる従業員、目撃者などの第三者の順に行います。行為者とされる従業員には、申告の内容を具体的に示して弁明の機会を与えます。メール、チャットの記録、業務日報など、客観的な資料も収集します。各段階で行うことと、記録することを整理すると次のとおりです。
| 段階 | 主な対応 | 記録すること |
| 初動 | 相談の受付、相談者の安全の確保、調査の方針の決定 | 相談の日時と内容、相談者の希望 |
| 調査 | 相談者・行為者・第三者からの聴取、資料の収集 | 聴取の日時、聴取者、発言の内容 |
| 判断 | 事実の認定、ハラスメントに当たるかの評価 | 認定した事実と根拠、認定できなかった事実 |
| 対応 | 行為者への措置、相談者への配慮、関係者への説明 | 措置の内容と理由 |
| 再発防止 | 方針の周知、研修、相談窓口の見直し | 実施した内容と日付 |
事実認定と対応
調査の結果をまとめる際は、申告された事実と、調査によって認定できた事実を区別して記録します。関係者の説明が食い違う場合は、客観的な資料との整合性や、説明の具体性、一貫性などから判断します。
認定した事実がハラスメントに当たるかどうかは、法律や指針の定義に照らして評価します。たとえばパワーハラスメントは、職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものとされています。
行為者に懲戒処分を行う場合は、就業規則に根拠があること、処分の重さが行為の内容に照らして相当であること、弁明の機会を与えるなど手続が適正であることが必要です。重すぎる処分は無効とされることがあります。ハラスメントと認定できなかった場合でも、職場の環境に問題があれば、改善の措置を検討します。
説明と再発防止
調査の結果と会社の対応は、相談者と行為者に説明します。説明の範囲は、関係者のプライバシーに配慮して決めます。
再発防止のためには、ハラスメントを行ってはならないという方針を改めて周知し、研修を行い、相談窓口の運用を見直します。顧客などからの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)への対応についても、改正労働施策総合推進法による防止措置義務が2026年10月1日から施行されます。本稿の確認日である2026年9月26日時点では施行前ですが、安全配慮義務や適用される条例も踏まえて、防止措置の実施に向けた体制を整える必要があります。
よくある質問
Q 相談者から「調査はしないでほしい」と言われました。
相談者の意向は尊重する必要がありますが、会社には適切に対応する義務があります。相談者の特定につながらない方法での職場全体への注意喚起など、意向に沿った対応を相談者と話し合って検討します。
Q 行為者とされる従業員を、調査中に自宅待機にしてもよいですか?
調査のために必要な場合には検討されますが、待機中の賃金の扱いや、就業規則上の根拠を確認する必要があります。
Q 調査を外部の弁護士に依頼したほうがよいですか?
役員が行為者とされる場合、事案が重大な場合、社内に中立の担当者がいない場合などは、外部に依頼することを検討します。会社の顧問弁護士が調査を担当する場合は、中立性をどのように確保するかも検討が必要です。
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