新しい取引先から取引基本契約書を提示され、内容を十分に確認しないまま署名してしまったが、品質の問題が起きた際に想定以上の責任を負うことになった。製造業では、このような事態を避けるため、契約の段階での確認が重要になります。
製造業の取引基本契約で特に確認したいのは、品質の基準となる仕様、受入検査(検収)の方法と期間、納入後の不良に対する責任(契約不適合責任)の内容と期間、損害賠償の範囲と上限、製造物責任やリコールの費用の分担です。条項の文言だけでなく、自社の実際の運用と合っているかを確認することが大切です。
この記事では、製造業の取引基本契約のチェックポイントを、条項ごとに説明します。
取引類型と契約の範囲
製造業の取引には、既製品の売買と、相手の仕様に基づいて製造する製造委託があり、契約の性質によって適用される法律の規定が異なることがあります。取引基本契約は、継続的な取引に共通する条件を定め、個々の注文は注文書などの個別契約で定めるのが一般的です。基本契約と個別契約の内容が食い違う場合に、どちらが優先するかの定めも確認します。
また、取引の内容や双方の会社の規模によっては、取適法(中小受託取引適正化法)の対象となり、発注内容の明示や支払期日、禁止事項についての規制を受けます。この点は別の記事で説明しています。
仕様・検収・責任期間
仕様書、図面、限度見本などによって、何をもって良品とし、何を不良とするかが決まります。基準があいまいだと、不良かどうかをめぐって争いになりやすくなります。
検収については、検査の期間、合格の基準、期間内に通知がない場合に合格とみなす定めがあるかを確認します。商人間の売買では、法律上、買主は受け取った後に遅滞なく検査し、不良を発見したら直ちに通知しなければ、原則として責任を追及できなくなるとされています。直ちに発見できない種類・品質の不適合は、受領後6か月以内に発見し、発見後直ちに通知することが必要です。売主が不適合を知っていた場合には例外があります。契約でこれと異なる定めをすることもできます。
納入後に不良が見つかった場合の契約不適合責任については、修補や代替品の納入などの対応の方法、代金の減額、損害賠償、解除の条件、そして責任を負う期間を確認します。民法の定めと異なる内容を契約で定めることが多いため、条項の内容を具体的に確認することが必要です。
賠償の上限と例外
損害賠償の条項では、賠償の範囲(直接の損害に限るか、逸失利益なども含むか)と、上限の額(個別契約の代金額までとするかなど)を確認します。故意や重大な過失がある場合には上限を適用しないとする定めがあるかも重要な点です。
製品の欠陥によって第三者にけがなどの被害が生じた場合、製造業者等は、欠陥と損害との因果関係などの要件を満たし、法定の免責事由がなければ、製造物責任法に基づき被害者に対して責任を負います。この責任は、取引先との契約で免れることはできませんが、取引先との間でどのように負担を分けるかは契約で定めることができます。リコールの費用の分担についても確認します。主な条項の確認点は次のとおりです。
| 条項 | 事業上の影響 | 確認資料 | 交渉の論点 |
| 仕様・品質基準 | 何をもって不良とするかが決まる | 仕様書、図面、限度見本 | 基準の明確さ、変更の手続 |
| 検収 | 代金の支払時期や不適合の通知期限に影響。ただし取適法の支払期限は検収ではなく受領が起点 | 受入検査の実態 | 検査の期間、みなし合格 |
| 契約不適合責任 | 納入後の責任の範囲と期間が決まる | 過去の不良の発生状況 | 責任期間、対応の方法 |
| 損害賠償・責任の制限 | 事故の際の負担額が決まる | 取引額、加入している保険 | 上限額、対象外とする損害、故意・重過失の扱い |
| 製造物責任・リコール | 第三者への賠償や回収の費用の分担 | 保険、品質管理の体制 | 原因に応じた負担の割合 |
| 知的財産 | 図面や改良技術の帰属 | 図面、技術資料 | 権利の帰属、利用の範囲 |
交渉と社内運用
取引先が提示する書式の場合、すべての条項の修正を求めることは現実的でないこともあります。事故が起きた場合の負担が大きい条項(損害賠償、契約不適合責任、製造物責任など)から優先順位を付けて交渉することが考えられます。
契約で定めた検査や通知の手続を、実際の現場で行っていなければ、契約上の権利を守れないこともあります。契約の内容を、品質管理や購買の担当者と共有し、運用と一致させることが大切です。契約書の確認は、データの送付とオンライン会議によって、遠方からでも進めることができます。
よくある質問
Q 取引先の書式なので、修正を求めても応じてもらえないのではないでしょうか?
すべての修正が受け入れられるとは限りませんが、負担の大きい条項に絞って修正を求めることは一般的です。取引の内容によっては、法律上問題となる条項が含まれていないかも確認します。
Q 損害賠償の上限を定めた条項は、必ず有効ですか?
事業者間の契約では、上限を定める条項は一般に有効とされますが、故意や重大な過失による損害にまで適用されるかについては、有効性が制限されることがあります。
Q 基本契約と注文書の内容が違う場合はどうなりますか?
基本契約に優先順位の定めがあればそれに従います。定めがない場合は解釈が問題になるため、優先順位を契約で明らかにしておくことが望ましいといえます。
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