ドライバーの残業代について、固定残業代を支払っているから問題はないと考えている運送会社は少なくありません。しかし、固定残業代を導入していることだけで、未払い残業代の請求を防げるわけではありません。

固定残業代が有効とされるには、通常の賃金と残業代に当たる部分を区別できること、その部分が時間外労働の対価として支払われていることが必要です。さらに、実際の時間外労働で計算した残業代が固定残業代を超える場合は、差額を支払わなければなりません。そのため、まず実際の労働時間を正確に把握し、賃金の項目と計算の方法、就業規則や雇用契約書の記載が整合しているかを点検することが出発点になります。

この記事では、運送会社が点検したい勤怠と賃金制度のポイントを説明します。

勤怠と実労働時間

労働時間とは、会社の指揮命令のもとにある時間をいい、運転している時間に限られません。荷待ちの時間、荷積みや荷下ろしの時間、車両の点検や洗車の時間も、会社の指示のもとで行われていれば労働時間に当たります。荷待ちの間であっても、指示があれば直ちに作業しなければならない状態であれば、休憩ではなく労働時間とされることが多いと考えられます。

労働時間の記録は、デジタルタコグラフ、運転日報、点呼の記録など複数の資料にまたがります。これらの資料の間で時間が食い違っていると、残業代の請求を受けた際に、会社の主張を裏付けることが難しくなります。

また、自動車の運転の業務にも2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。原則は月45時間・年360時間であり、臨時的な特別の事情について特別条項付き36協定を結ぶ場合の上限が年960時間です。この960時間に法定休日労働は含まれません。拘束時間や休息期間については改正改善基準告示も適用され、労働時間の管理は残業代の問題だけでなく、法令遵守の観点からも重要です。

賃金の項目と計算

残業代(割増賃金)は、基礎となる1時間当たりの賃金額、割増率、対象となる時間数を用いて計算します。基礎から除外できる手当は、家族手当や通勤手当など法令で定められたものに限られ、名称ではなく実態で判断されます。

月60時間を超える時間外労働の割増率は5割以上とされ、中小企業にも2023年4月から適用されています。歩合給を採用している場合は、歩合給についても割増賃金を計算する必要があります。

固定残業代の設計

固定残業代については、雇用契約書や就業規則、給与明細で、通常の賃金と区別できる金額、対象となる時間外・休日・深夜労働の範囲、計算方法を明確にし、実際の運用を一致させます。対象時間数の明示も紛争予防上重要ですが、時間数の記載の有無だけで民事上の有効性が決まるわけではありません。求人・募集時には、固定残業代を除く基本給、時間数と金額等の計算方法、超過分を追加支給する旨の明示が求められます。実際の法定割増賃金額が固定残業代を上回る場合は、その差額を支払います。

残業代に当たる部分と通常の賃金が区別できない仕組みや、歩合給から残業代に相当する額を差し引くような仕組みは、無効と判断されるおそれがあります。勤怠・賃金・就業規則の整合を点検する際の主な項目は次のとおりです。

点検項目 確認する資料 確認のポイント
労働時間の把握 デジタルタコグラフ、運転日報、点呼の記録 荷待ち・荷役・点検の時間が記録され、資料の間で整合しているか
拘束時間・休息期間 運行計画、勤務表 改善基準告示の基準に沿っているか
割増賃金の基礎 賃金規程、給与明細 基礎から除外している手当が、法令上除外できるものか
固定残業代 雇用契約書、就業規則、給与明細 金額と対象となる時間が明示され、超過分の差額が支払われているか
歩合給 賃金規程、計算表 歩合給について割増賃金を計算しているか
時間外労働の上限 36協定、勤怠の集計 協定の内容と実績が合っているか

是正と説明の手順

点検の結果、問題が見つかった場合は、過去の未払いの可能性を把握したうえで、制度の見直しを検討します。賃金の請求権の時効は、当面の間3年とされているため、過去3年分が請求の対象になりうることを前提に検討します。

賃金制度の変更が従業員にとって不利益になる場合は、原則として従業員の同意が必要です。就業規則の変更による場合も、変更後の就業規則を周知し、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などに照らして合理的であることが求められます。変更の理由と内容を従業員に丁寧に説明し、その経過を記録しておくことが大切です。

記録を実態と異なるように修正したり、休憩を形式的に付けたりする方法は、法令違反になるだけでなく、紛争の際に会社にとって不利に働きます。

よくある質問

Q 固定残業代を導入していれば、未払い残業代の問題は防げますか?

防げません。固定残業代が有効とされる要件を満たし、実際の時間外労働に基づく残業代との差額を支払っている必要があります。

Q 荷待ちの時間は労働時間になりますか?

会社の指示があれば直ちに作業しなければならない状態であれば、労働時間とされることが多いと考えられます。荷待ちの実態を記録で把握することが必要です。

Q 賃金制度を変更する場合、従業員の同意は必要ですか?

従業員にとって不利益な変更は、原則として同意が必要です。就業規則による変更の場合も、変更後の就業規則の周知と、変更内容の合理性が求められます。


東京支所へのご相談

弁護士法人長瀬総合法律事務所東京支所では、直接の来所相談のほか、オンライン相談にも対応しております。

【相談予約】 | 【東京支所へのアクセス】 | 【相談の流れ】


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、様々な分野の法的問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。ご興味をお持ちの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【チャンネル登録はこちら】


NS News Letter|長瀬総合のメールマガジン

当事務所では最新セミナーのご案内や事務所のお知らせ等を配信するメールマガジンを運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


ご相談はお気軽に|全国対応

長瀬総合法律事務所は、お住まいの地域を気にせず、オンラインでのご相談が可能です。あらゆる問題を解決してきた少数精鋭の所属弁護士とスタッフが、誠意を持って対応いたします。

【お問い合わせはこちら】


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

企業が法的紛争に直面する前に予防策を講じ、企業の発展を支援するためのサポートを提供します。
複数の費用体系をご用意。貴社のニーズに合わせた最適なサポートを提供いたします。

【顧問サービスはこちら】