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美容室の多店舗経営に必要な本部ガバナンス|内部統制・店舗監査・内部通報で不正と法令違反を防ぐ

はじめに

店舗数が増えるほど、経営者一人の目はすべての現場に行き届かなくなります。各店舗の運営を現場任せにしていると、労務管理の不備、経費や売上の不透明な処理、顧客情報の管理の甘さといった問題が、知らないうちに積み重なっていきます。これらは、不正や法令違反、ひいてはブランドの信頼失墜につながりかねません。

本稿では、多店舗経営の安定に欠かせない本部機能(ガバナンス)の強化について解説します。取締役が負う善管注意義務と内部統制の構築、そして規程整備、労務・会計の統制、店舗監査、内部通報という4本柱の具体的な取組みを、サロン経営の視点で整理します。

Q&A

Q1. 小さな会社でも「内部統制」は必要ですか?

会社法は、大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)に内部統制システムの構築を義務付けています。中小企業に同様の明文上の義務はありませんが、取締役が負う善管注意義務の一環として、会社の規模や事業内容に応じた管理体制を整えることが求められます。店舗が増えるほど属人化や不正のリスクが高まるため、規模に応じた仕組みづくりが望まれます。

Q2. 本部ガバナンスとは、具体的に何をするのですか?

大きく4つの柱で整理できます。第一に、就業規則やマニュアル、表示・契約の基準を整える規程の整備。第二に、勤怠・給与や資金・経費を一元的に管理する労務・会計の統制。第三に、定期的な臨店監査やモニタリング。第四に、内部通報・相談体制の整備です。これらにより、店舗任せの放任を防ぎ、本部が横断的に統制します。

Q3. 店舗で不正や横領が起きた場合、経営者の責任はどうなりますか?

不正そのものは行為者の責任ですが、防止のための体制を何ら整えず漫然と放置していた場合には、取締役が任務を怠ったとして責任(会社法423条の任務懈怠責任など)を問われるおそれがあります。内部統制の整備は、会社を守るだけでなく、経営者自身を守る意味も持ちます。

解説

1. なぜ多店舗経営にガバナンスが必要か

【図】本部ガバナンス(内部統制)を支える4本柱

1店舗のうちは、経営者が現場に立ち、すべてを把握できます。しかし、店舗が複数になると、各店舗の運営は店長やスタッフに委ねられ、経営者の目は届きにくくなります。ルールが文書化されていないと、運営が特定の人物の経験や判断に依存する属人的なものになり、その人物が抜けた途端に現場が混乱します。

現場任せの運営は、労務管理の不備による未払い残業、経費精算や売上計上の不透明さ、顧客情報の管理の甘さといったリスクを積み重ねます。これらは表面化しにくく、発覚したときには大きな問題になっていることが少なくありません。多店舗経営の安定には、本部が横断的に統制するガバナンスが不可欠です。

2. 取締役の義務と内部統制の構築

取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)と忠実義務(会社法355条)を負っています。会社の規模や事業に応じてリスクを管理する体制を整えることは、この義務の一内容と理解されています。会社法は、大会社について、取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保する体制(内部統制システム)の構築を義務付けています(348条3項4号、362条4項6号、大会社は同条5項)。

裁判例も、会社の規模や業態に応じてリスク管理体制を整える必要があることを示してきました。中小規模のサロンであっても、店舗が増えれば管理すべきリスクは増えますので、規模に見合った体制を整えることが、経営者の責任を果たすことにつながります。

本部機能(4本柱) 主な取組みと関連する法令・制度
規程・基準の整備 就業規則、各種マニュアル、広告表示・契約書式の基準(労働基準法、景品表示法)
労務・会計の統制 勤怠・給与の一元管理、経費の可視化、職務分掌による不正防止(労働基準法、会社法)
店舗監査・モニタリング 定期的な臨店監査、KPIや苦情の継続的な監視、是正(取締役の善管注意義務)
内部通報・相談体制 通報窓口の設置、不利益取扱いの禁止(公益通報者保護法、パワハラ防止法)

3. 第1の柱:規程・基準の整備

ガバナンスの出発点は、ルールを文書化することです。就業規則や賃金規程、各種の業務マニュアルを整え、全店舗で同じ基準が適用されるようにします。あわせて、広告表示の基準や、雇用契約書・業務委託契約書などの書式を標準化することで、店舗ごとのばらつきや法令違反を防ぎます。

規程は、作って終わりではなく、全スタッフへの周知と定期的な見直しが重要です。法改正や事業の変化に合わせて更新し、現場で実際に運用される状態を保つことが、実効的なガバナンスの基礎となります。

4. 第2の柱:労務・会計の統制

労務面では、勤怠と給与を本部で一元的に管理し、各店舗の労働時間や残業の状況を把握できるようにします。これにより、未払い残業などの労務リスクを早期に把握し、是正できます。シフトや休暇の管理も、統一した仕組みで運用することが望まれます。

会計面では、売上の計上や経費の精算のルールを定め、資金の流れを可視化します。発注・支払・記帳などの権限を一人に集中させない職務分掌は、横領や不正な処理を防ぐ基本的な仕組みです。現金を扱う場面が多いサロンでは、この点の管理が特に重要になります。

5. 第3の柱:店舗監査・モニタリング

規程を整えても、現場で守られているかを確認しなければ意味がありません。本部が定期的に店舗を訪問する臨店監査や、内部監査の仕組みを設け、運営状況を点検します。衛生管理や表示、労務の状況、現金の取扱いなど、確認すべき項目をチェックリストにして運用すると効果的です。

あわせて、売上や客数などの指標(KPI)や、顧客からの苦情を継続的にモニタリングし、異常の兆候を早期にとらえます。問題が見つかった場合は、原因を分析して是正し、再発を防ぐ改善のサイクルを回すことが、ガバナンスを実効的なものにします。

6. 第4の柱:内部通報・相談体制

不正やハラスメントは、現場の従業員が最初に気づくことが多いものです。安心して声を上げられる内部通報窓口を整えることで、問題の早期発見と是正が可能になります。公益通報者保護法は、常時使用する労働者が300人を超える事業者に、内部通報に対応する体制の整備を義務付けています(300人以下の事業者は努力義務)。

窓口は、通報者が不利益な取扱いを受けないことを保証し、相談内容の秘密を守ることが前提です。社内の窓口に加えて、弁護士などの外部窓口を用意すると、通報のしやすさが高まります。内部通報制度は、ハラスメント相談の受け皿としても機能します。

7. ガバナンス強化を事業承継・M&Aにつなげる

本部ガバナンスの整備は、日々のリスク管理にとどまらず、会社の価値そのものを高めます。労務や会計、コンプライアンスの体制が整い、運営が仕組み化されている会社は、特定の人物に依存しないため、事業承継やM&Aの局面で高く評価されます。

買い手は、隠れた労務リスクや不適切な会計がないかを慎重に確認します(デューデリジェンス)。日頃からガバナンスを整えておくことは、将来の選択肢を広げ、安定した成長の基盤となります。店舗拡大を目指す段階から、本部機能の強化に取り組むことが望まれます。

弁護士に相談するメリット

本部ガバナンスの構築は、会社の規模や事業に応じた設計が重要です。弁護士に相談することで、次のような備えが可能です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内の4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で、美容室・サロンの経営に関するご相談を承っております。店舗運営、労務管理から事業承継・廃業まで、初回のご相談から解決までサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

まとめ

多店舗経営の安定には、本部による横断的なガバナンスが欠かせません。要点は次のとおりです。

  1. 店舗任せの放任は、労務・会計・情報管理のリスクを積み重ね、不正や法令違反を招く。
  2. 取締役は善管注意義務を負い、規模に応じた内部統制の整備が求められる(大会社は構築義務)。
  3. 規程整備、労務・会計の統制、店舗監査、内部通報という4本柱で本部機能を強化する。
  4. ガバナンスの整備は、不正の予防にとどまらず、事業承継やM&Aでの企業価値を高める。

本部機能やガバナンス体制の整備でお悩みの際は、店舗拡大を進める前に弁護士へご相談ください。早期の体制づくりが、不正の予防と安定した成長につながります。


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