はじめに
複数の美容室・サロンを展開すると、店舗ごとに割引率やキャンペーン、SNSでの打ち出し方が少しずつ異なってきます。現場の裁量に任せること自体は機動的な集客につながりますが、放置すると、ブランドイメージの不統一による顧客の混乱や信頼低下を招きます。さらに、表示の内容によっては景品表示法に違反し、行政処分や課徴金の対象となるおそれもあります。
本稿では、多店舗展開において店舗間の広告・価格設定のバラつきがもたらすブランド毀損と法的リスクを整理し、優良誤認・有利誤認やステルスマーケティング規制の要点、そして本部による統一ガイドラインの整備方法までを解説します。
Q&A
Q1. 店舗ごとに割引やキャンペーンを自由に決めさせると、何が問題になりますか?
第一に、価格やサービスの打ち出しが店舗ごとに食い違うことで、ブランドイメージが不統一になり、顧客の信頼低下や客層の混乱を招きます。第二に、表示の内容によっては景品表示法上の優良誤認表示や有利誤認表示に当たり、行政の措置命令や課徴金の対象となるおそれがあります。本部が広告・割引の方針を承認し、一元的に管理する体制が必要です。
Q2. 「他店より絶対お得」「地域最安値」といった広告は問題になりますか?
合理的な根拠がないまま品質や価格の優位性を強調すると、優良誤認表示や有利誤認表示に該当する可能性があります。消費者庁は表示の裏付けとなる資料の提出を求めることができ、根拠を示せない場合は不当表示と判断されます。「最安値」「No.1」などの表現は、客観的な調査に基づく根拠がない限り使用を避けるのが安全です。
Q3. インフルエンサーに依頼したPR投稿は、どのように扱えばよいですか?
2023年10月から、広告であることを隠した投稿(ステルスマーケティング)が景品表示法上の不当表示として規制されています。サロンが費用や商品提供を行って投稿を依頼した場合は、広告であることを明確に示す必要があります。依頼時の契約で「広告」「PR」等の明示を義務付け、投稿内容を事前に確認する運用が求められます。
解説
1. 多店舗展開で生じる「ブランドのバラつき」
【図】店舗間の広告・価格のバラつきが招くリスクと、本部による統一管理の流れ
サロンを複数店舗に拡大すると、各店舗が独自に割引を打ち出したり、SNSで異なるトーンの発信を行ったりするようになる場合もあり得ます。現場の判断による機動的な集客は利点もありますが、価格や品質の打ち出し方が店舗ごとに食い違うと、顧客は「同じ看板なのに店によって扱いが違う」という印象を持ちます。これはブランドへの信頼を損ね、口コミやレビューを通じて他店舗にも影響が及びます。
とりわけ問題となりやすいのが、過度な値引き競争です。ある店舗が大幅な割引で集客すると、近隣の系列店も追随し、結果としてブランド全体の価格帯や価値が下がってしまいます。ブランドは事業の重要な資産ですので、その毀損は売上だけでなく、人材採用や事業承継の局面にも響きます。
2. 景品表示法の基本(優良誤認表示・有利誤認表示)
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)は、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選べるよう、実際よりも著しく優れている、あるいは著しく有利であると誤認させる表示を禁止しています。サロンの広告もこの規制の対象です。
| 類型 | 内容 | サロン広告での例 |
| 優良誤認表示(5条1号) | 品質・内容を実際より著しく優良に見せる表示 | 効果の根拠がない「白髪が生えなくなる」等の施術効果の断定 |
| 有利誤認表示(5条2号) | 価格・取引条件を実際より著しく有利に見せる表示 | 実態のない「通常価格」からの値引きを装う二重価格表示 |
| ステルスマーケティング(5条3号・告示) | 事業者の広告であることを隠した表示 | 広告であることを示さないインフルエンサー投稿・自作自演の口コミ |
消費者庁は、表示の裏付けとなる合理的な根拠資料の提出を事業者に求めることができます(不実証広告規制)。求められてから原則15日以内に根拠を示せない場合、その表示は優良誤認表示とみなされます。施術の効果や安全性をうたう際は、客観的な裏付けを確認してから表示することが重要です。
3. 二重価格表示・割引表示の注意点
「通常価格8,000円のところ今だけ4,000円」といった二重価格表示は、比較対象の「通常価格」が実際に相当期間販売されていた価格である必要があります。ほとんど販売実績のない価格を「通常価格」として打ち出すと、有利誤認表示に当たるおそれがあります。
店舗ごとにキャンペーンを乱発すると、こうした二重価格表示の管理が行き届かなくなりがちです。割引の根拠となる価格設定や実施期間を本部が把握し、表示のルールを統一しておくことが、法令違反の予防につながります。
4. ステルスマーケティング規制(2023年10月から)
2023年10月1日から、ステルスマーケティングが景品表示法上の不当表示として規制されています。事業者が自ら行う表示であるにもかかわらず、第三者の感想を装うなど、一般消費者が広告だと判別することが困難な表示が対象です。インフルエンサーへの依頼投稿、紹介報酬を伴う口コミ、従業員による匿名のレビュー投稿などが典型例です。
サロンが費用負担や商品提供を行って投稿を依頼する場合は、「広告」「PR」「提供」などの表示で広告であることを明確にする必要があります。依頼時の契約書に明示義務を盛り込み、投稿前に内容を確認する運用にしておくと、規制違反のリスクを抑えられます。
5. 違反した場合のペナルティと管理体制
不当表示が認められると、消費者庁や都道府県から、表示の差止めや再発防止を命じる措置命令が出されます。優良誤認表示・有利誤認表示については、対象商品・サービスの売上額の3パーセントに相当する課徴金の納付命令が出される場合もあります(ステルスマーケティングは現時点で課徴金の対象外です)。措置命令は事業者名が公表されるため、ブランドへの打撃は小さくありません。
景品表示法は、事業者に対して、表示の適正さを管理するために必要な体制の整備(表示等を管理する担当者を定めること等)を求めています。多店舗展開では、この管理体制を本部に置き、各店舗の広告を一元的にチェックする仕組みが有効です。
6. 商標・ブランドの保護と統一
サロン名やロゴは、商標登録によって独占的に使用する権利を確保できます。登録された商標は、他者による無断使用を差し止める根拠となり、フランチャイズ展開の際の使用許諾の基礎にもなります。あわせて、不正競争防止法は、周知・著名な表示と混同を生じさせる行為などを規制しており、ブランドの保護に役立ちます。
店舗が増えるほど、ロゴの色や使い方、店名の表記が現場ごとにずれていきます。商標として登録した表示の使用基準を定め、各店舗・各媒体で統一することが、ブランド価値の維持につながります。
7. 本部による統一ガイドラインの整備
店舗間のバラつきを防ぐには、本部が広告・販促の方針を定め、運用ルールを文書化することが基本です。具体的には、割引やキャンペーンの上限と承認フロー、使用してよい表現と避けるべき表現のリスト、ロゴ・写真・トーンの基準、SNS運用のルールなどを整備します。
さらに、表示を管理する責任者を本部に置き、新しい広告を出す前のチェックと、出稿後のモニタリングを行います。現場スタッフへの景品表示法の研修も、違反の予防に効果があります。こうした仕組みは、法令違反の回避とブランド価値の維持を同時に実現します。
弁護士に相談するメリット
広告・ブランド管理は、表示を出す前の確認と、仕組みづくりが鍵となります。弁護士に相談することで、次のような備えが可能です。
- 広告表現の事前チェック:新しいキャンペーンや広告表現について、景品表示法・薬機法・商標等の観点から事前に確認し、違反リスクを抑えます。
- ブランドガイドライン・社内規程の整備:割引の承認フロー、使用可能な表現、ロゴの使用基準などを文書化し、店舗間のバラつきを防ぐ仕組みを整えます。
- 有事対応:措置命令や行政調査、口コミ・SNSをめぐるトラブルが生じた際の対応方針を、弁護士法人長瀬総合法律事務所がサポートします。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、茨城県内の4拠点(牛久本部・日立支所・水戸支所・守谷支所)及び東京支所で、美容室・サロンの経営に関するご相談を承っております。開業や許認可、店舗運営、労務管理から事業承継・廃業まで、初回のご相談から解決まで一貫してサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
まとめ
店舗間の広告・価格のバラつきは、ブランド毀損と景品表示法違反という二つのリスクを抱えています。要点は次のとおりです。
- 店舗任せの広告・割引は、ブランドの不統一と顧客の信頼低下を招く。
- 優良誤認・有利誤認・ステルスマーケティングは景品表示法違反となり、措置命令等の対象となる。課徴金は原則として優良誤認表示・有利誤認表示が対象であり、ステルスマーケティング告示違反のみの場合は課徴金納付命令の対象外である。
- 二重価格表示やインフルエンサー投稿は、根拠と広告の明示が必要である。
- 本部が統一ガイドラインと表示管理体制を整え、ブランドと法令遵守を両立させることが望ましい。
広告表現やブランド管理に不安がある場合は、表示を出す前の段階で弁護士にご相談ください。早期の確認が、行政処分やブランド毀損の予防につながります。
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