企業法務リーガルメディア

訴状が届いたら準備する書類とは?被告側の「訴訟委任状」と「資格証明書」の実務と注意点を弁護士が解説

はじめに

ある日突然、裁判所から「訴状」が届き、ご自身や自社が「被告」となってしまった場合、早急に答弁書を作成し、裁判の手続きに対応しなければなりません。多くの方は、この難しい対応を法廷の専門家である弁護士に依頼することをご検討されるでしょう。

弁護士に対応を依頼し、いざ裁判を進めていくにあたって、最初に裁判所へ提出しなければならない重要な書類があります。それが「訴訟委任状(そしょういにんじょう)」と、法人が当事者の場合に必要な「資格証明書(しかくしょうめいしょ)」です。

「弁護士と契約書を交わしたのだから、あとは全部お任せで裁判が進むだろう」とお考えになるかもしれませんが、裁判所に対しては、所定のルールに従って「この弁護士を代理人としました」という証明を別途行わなければなりません。

本記事では、被告側が初期段階で準備すべき「訴訟委任状」と「資格証明書」について、なぜ必要なのか、どのように準備すればよいのか、そして作成や提出時の実務的な注意点を解説いたします。

訴訟委任状と資格証明書に関するQ&A

弁護士に依頼した直後によくご相談いただく、書類準備の疑問にお答えします。

Q1. 弁護士との間で委任契約書を作りました。これとは別に「訴訟委任状」が必要なのですか?

はい、必要です。弁護士との間で交わす「委任契約書」は、あなたと弁護士との間の約束事(費用の取り決めなど)を記した内部の契約書です。一方、「訴訟委任状」は、「私がこの弁護士に裁判の代理権を与えました」ということを、裁判所および相手方に公的に証明するための書類です。そのため、裁判所へ提出するために別途作成し、押印していただく必要があります。

Q2. 会社が被告として訴えられました。弁護士から「資格証明書」を用意してほしいと言われましたが、これは何ですか?

資格証明書とは、法人の存在や、誰がその法人を代表する権限を持っているのかを証明する公的な書類のことです。具体的には、法務局で取得できる「代表者事項証明書」や「履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)」がこれに該当します。法人が裁判の当事者となる場合、裁判所は「本当に権限のある代表者が弁護士に依頼したのか」を確認するため、この証明書の提出を求めます。

Q3. これらの書類はいつまでに裁判所へ提出しなければなりませんか?

原則として、被告の最初の言い分を記載した「答弁書」を提出するタイミングで一緒に提出します。遅くとも、第1回口頭弁論期日(最初の裁判の日)までには提出が完了している必要があります。提出が遅れると、弁護士があなたの代理人として法廷で発言する権限(訴訟代理権)が認められない状態となってしまいます。

訴訟委任状とは?記載内容と作成時の注意点

裁判所は、法廷に現れた弁護士が「本当に被告本人から依頼を受けたのか」を厳格に確認します。もし無権限の者が勝手に代理人を名乗って裁判を進めてしまえば、被告の権利が大きく侵害されるからです。その確認のための最重要書類が訴訟委任状です。

訴訟委任状に記載される内容

弁護士から渡される訴訟委任状には、主に以下のような事項が記載されています。

  1. 事件の表示: 令和〇年(ワ)第〇〇号 損害賠償請求事件 など、裁判所が付与した事件番号と事件名。
  2. 当事者の表示: 原告と被告の氏名(または名称)。
  3. 受任者(弁護士)の氏名と事務所所在地: 誰に依頼したのかを特定します。複数の弁護士が所属する事務所の場合、担当する複数の弁護士名が記載されることが一般的です。
  4. 委任事項(代理権の範囲): 弁護士にどこまでの権限を与えるかが記載されています。

「特別の委任事項」の重要性

訴訟委任状の中で特に重要なのが「特別の委任事項」と呼ばれる部分です(民事訴訟法第55条第2項)。

法律上、単に「裁判をお願いします」と委任しただけでは、弁護士は以下のような重大な決断を単独で行う権限を持ちません。

これらは当事者にとって影響が大きいため、「特別の委任」が必要とされています。実際の訴訟委任状には、あらかじめこれらの項目が印刷されており、「上記の事項についても委任します」と包括的に権限を与える形になっているのが通常です。

もちろん、委任状に書いてあるからといって、弁護士があなたの許可なく勝手に和解を成立させることはありません。和解等の重大な決断は、必ずご本人と協議した上で進められますのでご安心ください。

訴訟委任状を作成・押印する際の実務上の注意点

弁護士から訴訟委任状のフォーマットを渡されたら、以下の点に注意して署名・押印を行います。

法人の場合は必須!資格証明書(代表者事項証明書等)の基本

訴えられた被告が「株式会社〇〇」などの法人の場合、個人の場合とは異なる手続きが必要です。法人には実体がなく、自ら法廷に出向いたり書類を書いたりすることはできないためです。

資格証明書が必要な理由

法人が裁判を行う場合、その法人の「代表者(代表取締役など)」が法人の代わりに裁判行為を行います(これを法定代理人に準ずる扱いといいます)。

しかし、裁判所は「誰がその法人の真の代表者なのか」を知りません。そこで、被告が法人である場合、その法人が確かに存在し、特定の人物が代表権を持っていることを公に証明する書類が必要となります。これが「資格証明書」です。

取得すべき証明書の種類

資格証明書として提出するのは、法務局が発行する登記事項証明書です。主に以下の2種類が使われます。

代表者事項証明書(推奨)

法人の現在の代表者に関する情報(会社名、本店所在地、代表者の役職、氏名、住所)だけがシンプルに記載された証明書です。現在の代表者が弁護士に委任をする場合、裁判所が確認したい情報はこれで十分に網羅されているため、実務上最もよく提出されます。手数料も安く、ページ数も少ないため扱いやすいのが特徴です。

履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)

法人の現在の状態だけでなく、過去(一定期間)の役員の変更履歴や、目的、資本金など、登記されているすべての事項が記載された証明書です。

通常は代表者事項証明書で足りますが、例えば「原告が数年前の代表者と契約を交わしたと主張しており、当時の代表者が誰であったかを確認する必要がある場合」など、過去の履歴が裁判の論点に関わるようなケースでは、履歴事項全部証明書を証拠(書証)として兼ねて提出することがあります。

発行後3ヶ月以内のものを用意する

裁判所に提出する資格証明書は、「作成後(発行後)3ヶ月以内」のものでなければならないという実務上の取り扱いがあります。これは、古すぎる証明書では「現在も代表者であるか」の確認が不十分になるためです。

会社に保管してある古い謄本ではなく、訴状が届いた後に新しく法務局で取得したものをご準備ください。

資格証明書の取得方法

資格証明書は、以下の方法で取得できます。

企業法務においては、日頃から登記情報をオンラインで取得できる体制を整えておくことをお勧めします。

提出のタイミングと、準備が遅れた場合のリスク

訴訟委任状と資格証明書は、作成・取得して終わりではなく、適切なタイミングで裁判所に提出しなければなりません。

答弁書とセットで提出するのが基本

被告側の最初の主張を記載した「答弁書」を裁判所に提出する際、これらの書類も一緒に(添付して)提出するのが基本ルールです。

第1回口頭弁論期日の約1週間前が答弁書の提出期限として指定されることが多いため、それまでに弁護士との打ち合わせ、委任状の作成、資格証明書の取得をすべて完了させる必要があります。

提出が遅れるとどうなるか(無権代理の問題)

もし、第1回口頭弁論期日までに訴訟委任状の提出が間に合わなかったらどうなるでしょうか。

この場合、法廷に出席した弁護士は、法律上「訴訟代理権を証明していない者(無権代理人)」として扱われてしまいます。

厳密には、裁判官の許可を得て一時的に裁判行為を行うこと(一時等の資格での訴訟行為)も例外的に認められる場合がありますが、後日速やかに委任状を提出して追認(後から権限を認めること)しなければならず、手続きが煩雑になります。

最悪の場合、弁護士が出席していても「被告側欠席」と同じ扱いになり、原告の主張をすべて認めたものとみなされて敗訴してしまう(擬制自白)危険性もゼロではありません。

そのような事態を避けるためにも、委任状等の準備は最優先で行う必要があります。

代表者が変更になった場合の注意点(企業法務向け)

企業が被告となる裁判は長期間に及ぶことがあります。裁判の途中で、社長交代などにより「代表者」が変更になることは珍しくありません。このような場合、特別な手続きが必要です。

手続の「中断」と「受継(じゅけい)」

法人の代表者が死亡したり、退任して資格を喪失したりした場合、原則としてその時点で裁判の手続きは一時「中断」します。そして、新しい代表者が就任した後に、新代表者が裁判所に「私が新しい代表者として手続きを引き継ぎます」という申し立て(受継の申し立て)を行う必要があります(民事訴訟法第124条)。

弁護士に委任している場合は中断しない

しかし、訴訟代理人(弁護士)を選任している場合は、代表者が変わっても手続きは中断しません(民事訴訟法第124条第2項)。弁護士がそのまま裁判を続けることができます。これは弁護士に依頼する大きなメリットの一つです。

ただし、手続きは中断しなくても、裁判所や相手方に対し「代表者が変更になったこと」を知らせる必要があります。そのため、新しい代表者が就任した時点で、以下の対応を行います。

社長が交代した場合は、裁判を担当している弁護士に速やかにその旨を報告し、指示を仰ぐことが重要です。

初期対応や書類準備を弁護士に依頼するメリット

突然の訴状に対する初期対応は、時間的な猶予がなく、精神的にも大きな負担となります。弁護士に依頼することで、書類準備を含めて以下のようなメリットがあります。

手続きの漏れや期限遅れを完全に防ぐ

弁護士は裁判手続きのプロフェッショナルです。訴訟委任状や資格証明書といった必須書類の案内から、答弁書の作成、証拠の提出まで、何を・いつまでに・どのように行うべきかを的確に管理します。これにより、「書類が足りなくて代理人として認めてもらえない」といった致命的なミスを防ぐことができます。

企業の負担軽減と本業への集中

特に法人の場合、資格証明書の取得や、代表者印の押印稟議など、社内での手続きに時間がかかることがあります。弁護士が早めにスケジュールを提示し、必要な書類を明確に指示することで、企業の担当者様は無駄な調査や迷いから解放され、本業に集中することができます。

最適な代理権の範囲の設定

事案によっては、あえて「和解をする権限は付与しない(和解する場合は必ず都度相談する)」といった形で、委任状の「特別の委任事項」を調整することが適切な場合もあります。弁護士は、依頼者様のご意向や事案の性質に合わせて、代理権の範囲を適切に設定し、透明性の高い事件処理を行います。

まとめ

裁判は、定められた厳格なルールと手続きに則って進められます。弁護士があなたの正当な権利を守るための活動を開始するには、まず「訴訟委任状」という通行手形が必要です。法人の場合は、これに加えて「資格証明書(代表者事項証明書など)」も不可欠です。

訴状が届いた直後は、相手の主張に対する怒りや不安で頭がいっぱいになり、形式的な書類の準備は後回しになりがちです。しかし、これらの書類がなければ、弁護士は法廷であなたを防御することができません。答弁書の提出期限(通常は第1回期日の1週間前)に確実に間に合うよう、弁護士の案内に従って速やかに準備を進めることが、有利な裁判進行の第一歩となります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご依頼いただいた直後から、複雑な裁判手続きを分かりやすくナビゲートし、依頼者様の負担を抑えるようサポートいたします。突然の訴状への対応でお困りの際は、速やかに当事務所の初回相談をご利用ください。


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、様々な分野の法的問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。ご興味をお持ちの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【チャンネル登録はこちら】


NS News Letter|長瀬総合のメールマガジン

当事務所では最新セミナーのご案内や事務所のお知らせ等を配信するメールマガジンを運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


ご相談はお気軽に|全国対応

長瀬総合法律事務所は、お住まいの地域を気にせず、オンラインでのご相談が可能です。あらゆる問題を解決してきた少数精鋭の所属弁護士とスタッフが、誠意を持って対応いたします。

【お問い合わせはこちら】


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

企業が法的紛争に直面する前に予防策を講じ、企業の発展を支援するためのサポートを提供します。
複数の費用体系をご用意。貴社のニーズに合わせた最適なサポートを提供いたします。

【顧問サービスはこちら】

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了