はじめに
ある日突然、裁判所から訴状が届き「被告」となってしまった場合、多くの方は「原告の主張にどうやって反論しようか」「どうやって自分の財産や権利を守ろうか」と、もっぱら防御のことばかりを考えるものです。もちろん、原告の請求を退けるための的確な反論(防御)は重要ですが、裁判は単に相手からの攻撃を防ぐだけの場ではありません。
もし、あなた自身も相手(原告)に対して何らかの法的な請求権を持っているのであれば、現在進行している裁判の手続を利用して、逆に相手を訴え返すことができます。この、被告側からの積極的な反撃手段を「反訴(はんそ)」と呼びます。
反訴を適切に活用することで、単に相手の請求をゼロにするだけでなく、相手から損害賠償を勝ち取るなど、紛争全体を有利に、かつ一挙に解決できる可能性があります。
本記事では、被告側の強力な武器となる「反訴」について、その仕組みやメリット、提起するための法律上のルール、そし効果的なタイミングと戦略について解説いたします。
反訴に関するQ&A
反訴の手続について、よくご相談いただく疑問にお答えします。
Q1. 反訴とは何ですか?答弁書で反論するのとは違うのでしょうか?
大きく異なります。答弁書などでの「反論(抗弁)」は、あくまで原告の請求を「退ける(ゼロにする)」ための防御手段です。一方「反訴」は、被告側から原告に対して「お金を払え」「物を返せ」といった積極的な請求を行う、独立した「訴え」です。自分から別の裁判を起こすのと同じ法的効果を、現在の裁判の中で発生させる手続です。
Q2. 相手に対して文句があれば、どんな内容でも反訴として請求できるのでしょうか?
どんな内容でも良いわけではありません。反訴が認められるためには、現在行われている裁判(本訴といいます)のテーマや、あなたの反論内容と「関連性」があることが法律で求められます。全く関係のない別のトラブルを持ち込むことは、裁判を混乱させるため認められません。
Q3. 裁判の途中からでも反訴を起こすことはできますか?
法律上は、裁判の審理が終わる(口頭弁論が終結する)までであれば提起可能です。しかし、あまりに遅いタイミングで反訴を起こすと、「裁判をわざと遅らせようとしている」と判断され、裁判所から反訴を却下されてしまうリスクがあります。そのため、反訴はできる限り早い段階で検討し、提起することが重要です。
反訴とは何か?単なる反論(抗弁)との違い
裁判手続における「攻撃」と「防御」の違いを理解することは、訴訟戦略を立てる上で欠かせません。
防御手段としての「反論(抗弁)」
原告から訴えられた被告は、まず原告の主張に対して反論を行います。たとえば、原告から「貸した100万円を返せ」と訴えられた場合、被告は「そもそも借りていない」「すでに返済した」と主張します。これが防御です。
仮に被告の反論が全面的に認められ、原告が敗訴したとしても、結論は「被告は原告に100万円を支払わなくてよい」という状態になるだけです。被告の手元に新たなお金が入ってくるわけではありません。
攻撃手段としての「反訴」
これに対し、被告が原告に対して「実は原告が私の車にぶつけて損害が出ているので、修理代50万円を支払え」と主張したい場合、単なる反論ではこの50万円を回収することはできません。
そこで、被告側から「原告は被告に対し、修理代50万円を支払え」という独立した請求を裁判所に申し立てる必要があります。これを現在進行中の裁判の中で行うのが「反訴」です。
(なお、最初から行われている原告からの訴えのことは、反訴と区別するために「本訴(ほんそ)」と呼びます。)
反訴が認められれば、裁判所は「本訴の請求は棄却する(被告は100万円を払わなくてよい)。さらに、反訴の請求を認容する(原告は被告に50万円を支払え)」といった、被告にとってプラスとなる判決を下すことができます。
なぜ反訴を選ぶのか?反訴のメリットと戦略的意義
被告が原告に対して何らかの請求権を持っている場合、反訴をせずに「全く別の新しい裁判(別訴)」を起こすことも可能です。しかし、実務上は多くの場合で「反訴」が選択されます。それには以下のようないくつかの明確なメリットがあるからです。
紛争の抜本的な一回的解決
本訴と反訴は、同じ裁判官の下で、一つの手続としてまとめて審理されます。お互いの言い分や関係する証拠を一度にまとめて調べることができるため、当事者間の複雑に絡み合ったトラブルを、矛盾なく、全体として一挙に解決することができます。
時間と費用の節約
別々に裁判を起こす場合、それぞれで裁判所に出向く日程を調整し、別々の手続を進めなければなりません。これには多大な時間と労力がかかります。反訴を利用すれば、期日(裁判所に集まる日)を本訴と合わせることができるため、時間的なコストを大幅に削減できます。
和解交渉における強力なカードになる
裁判の途中で話し合いによる解決(和解)を目指す際、反訴を提起していることは被告にとって強力な交渉カードになります。
被告が単に防御しているだけの場合、和解のラインは「原告の請求額をどこまで減らせるか」という守りの交渉になりがちです。しかし、反訴で逆に請求を立てていれば、「こちらの反訴請求を取り下げる代わりに、そちらの本訴請求もゼロにしてお互い様で終わらせよう」といった、強気な条件交渉(クロス・クレームの相殺)が可能になります。
「相殺の抗弁」の限界を突破できる
ここが少し専門的ですが、重要なポイントです。
たとえば、原告が被告に「100万円払え」と本訴を起こしたとします。一方、被告も原告に対して「150万円払え」という別の権利(反対債権)を持っていたとします。
このとき、被告が「私の150万円の権利と、あなたの100万円の請求を帳消し(相殺)にする」と主張することを「相殺の抗弁」といいます。これは防御手段として認められます。
しかし、相殺の抗弁をしただけでは、帳消しになるのは「100万円」の部分だけです。被告が持っている残りの「50万円」を取り立てるためには、別途裁判を起こさなければなりません。
ここで被告が「150万円払え」という「反訴」を提起しておけば、裁判所は相殺の処理をした上で、「原告は被告に対し、差額の50万円を支払え」という判決を出してくれます。相殺で残った部分までしっかりと回収できるのが、反訴の大きな強みです。
反訴を提起するための法律上のルール(要件)
反訴は便利な制度ですが、何でもかんでも同じ裁判に持ち込めるわけではありません。民事訴訟法第146条により、いくつかの要件が定められています。
要件1:本訴の目的である請求、または防御の方法と「関連」すること
これが最も重要な要件です。反訴の請求内容が、今行われている裁判(本訴)と何らかの密接な関連性を持っている必要があります。具体的には以下の2つのパターンのいずれかに該当する必要があります。
本訴の目的と関連する場合
たとえば、原告が「交通事故の加害者である被告よ、損害賠償を払え」と訴えてきた(本訴)のに対し、被告が「いや、被害者は私の方だ。原告よ、損害賠償を払え」と訴え返す(反訴)ようなケースです。同じ一つの交通事故から発生したトラブルであるため、関連性が認められます。
防御の方法と関連する場合
たとえば、原告が「お金を貸したから返せ」と訴えてきた(本訴)とします。被告は「すでに全額返済した」と反論(防御)しました。しかし原告は、被告の不動産に設定していた担保(抵当権)の登記を消してくれません。そこで被告が「全額返済したのだから、抵当権の登記を抹消せよ」と訴える(反訴)ケースです。被告の防御理由(返済したこと)と反訴の理由が共通しているため、関連性が認められます。
もし、本訴が「貸金の返還請求」であるのに、被告が「それはそれとして、原告の飼い犬に噛まれた治療費を払え」と反訴を起こしても、両者には全く関連性がないため、反訴は認められません(別途、新しい裁判を起こす必要があります)。
要件2:本訴の手続を「著しく遅滞」させないこと
裁判は適正かつ迅速に進められなければなりません。反訴を提起することによって、本来の裁判(本訴)の進行が大幅に遅れてしまうような場合は、反訴は許されません。この点については、後述する「提起のタイミング」が大きく関わってきます。
要件3:同じ裁判所に管轄があること
反訴は、本訴が行われている裁判所に提出します。原則として、その反訴の内容自体も、その裁判所で取り扱えるもの(管轄権があるもの)でなければなりません。
反訴提起の最適なタイミングと戦略
反訴を成功させるためには、「いつ反訴状を提出するか」というタイミングの戦略が非常に重要です。
法律上の期限は「口頭弁論の終結」まで
法律上、反訴は「本訴の口頭弁論の終結に至るまで」提起することができるとされています。口頭弁論の終結とは、すべての主張と証拠の提出が終わり、あとは裁判官が判決を書くだけ、という段階のことです。したがって、制度上は裁判の最終盤であっても反訴を起こすことは可能です。
実務上の最適タイミングは「なるべく早い段階」
しかし、実務上の戦略としては、「反訴はできる限り早い段階(訴訟の序盤)で提起すべき」というのが鉄則です。
具体的には、被告として最初の答弁書を提出する段階か、その後の争点整理(お互いの主張をぶつけ合って論点を絞る手続)の前半戦までに反訴状を提出するのが理想的です。
なぜなら、本訴と反訴は同時に並行して審理を進めるのが基本だからです。早い段階で双方が「何を請求しているのか」をテーブルの上に出し切ることで、裁判官も事件の全体像を正確に把握でき、スムーズな審理や和解の打診が可能になります。
反撃のタイミングを誤るリスク(反訴の却下)
もし、本訴の審理がかなり進み、お互いの主張が出尽くして「そろそろ証人尋問を行おうか」という終盤の段階になってから、突然被告が反訴を提起したらどうなるでしょうか。
原告は、その新しい反訴に対して反論を準備しなければなりませんし、新たな証拠調べが必要になるかもしれません。結果として、終わりかけていた裁判が大きく長引くことになります。
このような場合、裁判所は前述の要件2(手続を著しく遅滞させないこと)を満たさないと判断し、せっかく起こした反訴を「却下」してしまう可能性が高くなります。
相手の出方を見極めようとして反訴のタイミングを遅らせすぎると、強力な反撃のカードを失うことになりかねません。「やり返す」と決めたのであれば、迅速に準備を進める決断力が求められます。
反訴が効果的に機能する具体例
裁判実務において、反訴がよく活用される代表的なケースをいくつかご紹介します。
交通事故(双方が損害を主張するケース)
交差点での出会い頭の衝突事故など、お互いに過失(落ち度)がある交通事故では、反訴が非常に多く用いられます。
原告(Aさん)が「被告(Bさん)の過失割合が大きい。車の修理代と治療費を払え」と訴えを起こします。これに対し、被告(Bさん)も「Aさんにも過失がある。私の車の修理代も払え」と反訴を提起します。
裁判所は、事故の状況を一つの手続で審理し、「Aさんの過失〇割、Bさんの過失〇割」と認定した上で、双方の損害額を計算し、最終的な差額の支払いを命じる判決を下します。
離婚訴訟
家庭裁判所での離婚訴訟でも反訴はよく利用されます。
夫(原告)が「性格の不一致で婚姻関係は破綻している。離婚を認めてほしい」と訴えを起こしたとします。妻(被告)は「婚姻関係が破綻したのは、夫の不倫が原因だ。離婚には応じるが、慰謝料を支払え」と反訴を提起します。
離婚の成否と、その原因を作ったことに対する慰謝料請求は密接に関連しているため、併合して審理されます。
建築請負契約のトラブル
建築業者(原告)が、施主(被告)に対して「建物を完成させたので、残りの工事代金1,000万円を払え」と本訴を提起します。
しかし施主(被告)は、「建物には雨漏りなどの重大な欠陥(瑕疵)がある。工事代金は払えないし、逆に修繕費用として500万円の損害賠償を払え」と反訴を提起します。
工事代金の支払い義務と、欠陥に対する損害賠償義務は表裏一体の関係にあるため、反訴によって一挙に解決を図るのが合理的です。
反訴に関するその他の実務的な注意点
- 反訴状の提出と印紙代: 反訴を提起するには、本訴と同じように「反訴状」という書面を作成し、裁判所に提出する必要があります。また、反訴の請求額に応じた手数料(収入印紙)を納めるのが原則です。ただし、本訴とその目的が同じ場合(例:原告が「この土地は私のものだ」と確認を求め、被告も反訴で「いや、この土地は私のものだ」と確認を求める場合など)は、印紙代が免除される特例もあります。
- 反訴を取り下げる場合: 反訴を提起した後で「やっぱりやめたい」と思った場合、反訴を取り下げることは可能です。ただし、本訴の原告が反訴に対して本案の答弁(反論)をした後に取り下げる場合は、原告の同意が必要になります。
反訴の検討や初期対応を弁護士に相談するメリット
訴状を受け取り、防御の反論だけでなく「反訴」という反撃を検討する場合、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
反訴すべきかどうかの戦略的判断
そもそも、あなたの持っている請求権が反訴の要件(関連性など)を満たしているのか、別訴にすべきなのかを法的に正確に判断します。また、反訴を提起することが、和解交渉を含めた裁判全体の戦略として本当に有利に働くのかを、過去の実務経験から客観的にアドバイスします。
最適なタイミングでの的確な手続
前述のとおり、反訴はタイミングを誤ると却下されるリスクがあります。弁護士は、本訴の進行状況を見極め、反論(答弁書・準備書面)の提出と併せて、最も効果的なタイミングで反訴状を作成し提出します。
本訴の防御と反訴の攻撃のバランス調整
反訴を提起したからといって、本訴への防御をおろそかにしては本末転倒です。弁護士は、原告の主張を崩すための緻密な防御線を張りつつ、反訴による攻撃を論理的に展開し、裁判官に対して説得力のある主張を構築します。
まとめ
裁判における「反訴」は、被告という守りの立場から一転して、自らの権利を積極的に主張し、紛争の全体的かつ有利な解決を目指すための強力な戦略です。
「相手から訴えられたが、こちらにも言い分がある」「むしろ相手から支払いを受けるべき正当な理由がある」とお考えの場合、単に反論するだけでなく、反訴という選択肢を念頭に置くことが重要です。
しかし、反訴の手続には厳格な法律上の要件があり、提起するタイミングを誤るとせっかくの反撃の機会を失ってしまいます。効果的な反訴戦略を立案するためには、訴状を受け取った直後の初期段階での見極めが肝心です。
訴状が届き、対応にお悩みの方は、決してご自身の判断だけで進めず、お早めに弁護士にご相談ください。
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