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【企業法務】テレワークの労働時間管理はどうすべき?始業・終業の打刻、中抜けの扱い、法的な留意点を弁護士が解説

はじめに

働き方改革の推進や感染症対策を経て、テレワーク(在宅勤務)は多くの企業で標準的な働き方の一つとして定着しました。しかし、オフィス勤務とは異なり、社員の姿が直接見えない環境下での労務管理に頭を悩ませている経営者様や人事担当者様は少なくありません。

特に課題となりやすいのが「労働時間の管理」です。

「始業・終業の報告だけで、本当に仕事をしているのか不安だ」
「途中で家事や育児のために抜けた時間は、どのように扱えばよいのか」
「気付かないうちに深夜まで業務を行っており、後から残業代を請求されないか心配だ」

こうした悩みは、単なるマネジメントの問題にとどまらず、労働基準法違反や未払い賃金リスクに直結する重要な法的課題です。テレワークであっても、使用者が労働時間を適正に把握する義務は免除されません。むしろ、物理的な監視が及ばない分、より厳格なルール作りと運用が求められると言えます。

本稿では、テレワーク特有の労働時間管理に焦点を当て、始業・終業の打刻方法、中抜け時間の法的な取り扱い、業務報告書の活用法などについて解説します。

Q&A

Q1. テレワーク中の社員から、PCの起動時間と実際の作業時間が異なると申告がありました。どのように扱えばよいでしょうか?

原則として、客観的な記録(PCログ等)と自己申告に乖離がある場合は、実態調査を行う必要があります。

労働安全衛生法の改正により、企業には労働時間の客観的な把握義務があります。PCのログオン・ログオフ時刻は有力な証拠となりますが、テレワークでは「PCを起動したまま私用で離席していた」といったケースも考えられます。

乖離がある場合は、社員に理由をヒアリングし、業務を行っていなかったことが明らかであれば、その時間は労働時間から除外することが可能です。ただし、その理由や修正内容を記録として残し、恣意的な労働時間削減とみなされないよう注意が必要です。

Q2. 在宅勤務中に「子供の送迎」で1時間ほど業務を離れる社員がいます。この時間は休憩時間として扱っても問題ありませんか?

はい、適切に制度を整えれば可能です。

労働基準法上、休憩時間は一斉に付与するのが原則ですが、労使協定を締結することで一斉付与の原則を適用除外とすることができます。これにより、社員個々の事情に合わせて休憩時間を分割したり、付与時間をずらしたりすることが可能になります。

ただし、単に「休憩」として処理するだけでなく、その分の終業時刻を繰り下げるのか、あるいは給与から控除するのかなど、賃金計算上のルールも明確にしておく必要があります。

Q3. テレワークであれば「事業場外みなし労働時間制」を適用して、残業代計算を簡略化できますか?

適用には厳しい要件があり、多くのケースでは認められないリスクが高いです。

「事業場外みなし労働時間制」は、会社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合にのみ適用されます。昨今のテレワーク環境では、チャットツールやメール、Web会議システム等で「随時使用者の指示を受けられる状態」にあることが多く、この要件を満たさない(=労働時間の算定が可能である)と判断される可能性が高いです。安易に導入すると、後から多額の未払い残業代を請求されるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。

解説

テレワークにおける労働時間管理の原則

まず前提として、テレワーク(在宅勤務)を行っている場合でも、労働基準法をはじめとする労働関係法令は全面的に適用されます。

(1) 使用者の労働時間把握義務

労働安全衛生法第66条の8の3に基づき、事業者は労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においても、タイムカードやPC使用時間の記録など、客観的な方法による把握が原則とされています。

「自宅だから管理できない」という言い訳は通用しません。自己申告制を採用する場合でも、その申告内容が実態と合っているかを確認する措置が求められます。

(2) 事業場外みなし労働時間制の適用可否

Q&Aでも触れましたが、テレワークにおいて「事業場外みなし労働時間制」を適用するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におかれていないこと。
  2. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。

例えば、「回線を切って集中作業を行い、その間は電話やメールへの即時応答義務がない」といった状況であれば適用できる可能性がありますが、一般的な「チャットで常に連絡が取れる状態」では適用は困難です。原則通り、実労働時間に基づいた管理を行うべきでしょう。

始業・終業時刻の打刻・確認方法

オフィスに出社しないテレワークでは、タイムカードの打刻に代わる方法を確立する必要があります。

(1) 勤怠管理システムの導入

最も推奨されるのは、クラウド型の勤怠管理システムの導入です。

スマートフォンやPCから打刻ができ、GPS機能で打刻場所を特定できるものもあります。リアルタイムで勤務状況が可視化されるため、管理者の負担も軽減されます。

(2) メール・チャットによる報告

システム導入が難しい場合、メールやビジネスチャット(Slack, Teams, Chatwork等)での始業・終業報告をルール化します。

このように報告させることで、単なる時間の記録だけでなく、業務内容の確認も同時に行うことができます。ただし、管理者が手作業で集計する必要があるため、ミスや漏れが発生しやすい点には注意が必要です。

(3) PCログ等の客観的記録との照合

どのような打刻方法を採用するにせよ、それが正しいかを検証するために、PCのログオン・ログオフ時刻などの「客観的記録」を保存し、定期的に打刻時間と照合することが重要です。

「打刻は定時だが、PCは深夜まで稼働している」といった矛盾が見つかった場合、隠れ残業(サービス残業)の疑いがあります。放置すれば、使用者の黙認があったとして残業代支払い義務が生じる可能性があります。

「中抜け」時間の法的な扱いと実務対応

在宅勤務では、宅配便の受け取り、子供の送迎、通院、あるいは少し長めの家事など、業務を一時的に中断する「中抜け」が発生しがちです。この中抜け時間を曖昧にすると、給与計算上のトラブルになります。以下のいずれかの方法で明確に処理しましょう。

(1) 休憩時間として扱う

中抜けした時間を「休憩時間」として扱い、その分労働時間から除外する方法です。

労働基準法では休憩時間は一斉付与が原則ですが、労使協定を結べば個別に付与できます。

(2) 時間単位年次有給休暇を利用する

労使協定を締結し、年次有給休暇を時間単位で取得できるようにする方法です。

(3) 不就労時間として給与から控除する(ノーワーク・ノーペイ)

中抜けした時間分だけ、給与をカットする方法です。あるいは、始業・終業時刻を変更(スライド)することを認めず、単に労働時間が短くなったものとして扱います。

(4) フレックスタイム制の活用

中抜け対応と最も親和性が高いのがフレックスタイム制です。

「コアタイム(必須勤務時間)」さえ勤務していれば、始業・終業時刻や中抜けについて社員が自律的に決定できます。中抜けした時間は労働時間としてカウントされませんが、精算期間(1ヶ月など)の総労働時間で調整すればよいため、都度の給与控除や細かい申請手続きが不要になります。

業務報告書の活用とフォーマット

「見えない」場所での勤務におけるサボり防止や、成果の評価のために、業務報告書の提出を義務付けることは有効です。

(1) 業務報告書の目的

(2) 業務報告書のフォーマット(記載項目の例)

過度な負担にならないよう、簡潔かつ要点を押さえたフォーマットにします。

項目 記載内容の例
日時 202X年〇月〇日(〇曜日)
勤務時間 9:00 〜 18:00(休憩 12:00〜13:00)
主な業務内容
  • 〇〇社向け契約書レビュー(2時間)
  • 社内会議(Web)(1時間)
  • 企画書作成(3時間)
成果・進捗
  • 契約書修正案送付済み
  • 企画書構成案完成(進捗率50%)
課題・共有事項
  • 〇〇の件で確認が必要な点があります。
  • 体調不良のため明日は通院予定です。

(3) 運用上の注意

毎日詳細な日報を書かせることが目的化してしまうと、業務効率が低下します。「箇条書きでOK」「チャットでの報告で代用可」とするなど、運用負荷を考慮した設計が必要です。

また、報告内容と実際の労働時間に著しい不整合がある場合(例:簡単な作業に長時間かかっている)は、業務遂行能力の問題として指導を行うか、あるいは業務配分の見直しを検討するきっかけとします。

長時間労働(隠れ残業)の防止策

テレワークでは、「いつでも仕事ができる環境」であるがゆえに、長時間労働が常態化しやすい傾向があります。企業は「知らない」では済まされず、黙示の残業命令があったと認定されるリスクがあります。

弁護士に相談するメリット

テレワークにおける労働時間管理は、人事労務の実務と法的判断が密接に絡み合う領域です。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。

法的リスクを低減する制度設計と規程整備

「中抜け」や「移動時間」の取り扱いなど、トラブルになりやすいポイントを網羅したテレワーク規程を作成します。また、フレックスタイム制や裁量労働制の導入を検討する際にも、適法な導入手続き(労使協定の締結など)をサポートします。

未払い残業代リスクの診断と対策

現状の勤怠管理方法(自己申告とログの乖離など)に法的リスクがないかを診断します。既に潜在的な未払い賃金が発生している可能性がある場合には、将来の紛争リスクを最小限に抑えるための具体的な改善策を提案します。

トラブル発生時の迅速な解決

「テレワーク中に連絡が取れず業務を行っていない疑いがある社員」への指導や懲戒処分、「残業代を請求された」といったトラブルが発生した際に、代理人として適切な対応を行います。

まとめ

テレワークにおける労働時間管理は、企業の法的責任を果たすための守りの策であると同時に、社員がメリハリをつけて働き、生産性を最大化するための攻めの策でもあります。

「姿が見えないから管理できない」のではなく、「姿が見えないことを前提とした新しい管理手法」を確立することが求められています。始業・終業の明確化、中抜けルールの整備、そして業務報告を通じた成果管理。これらを組み合わせることで、労使双方にとって快適で納得感のあるテレワーク環境を実現できます。

自社の運用が法的に適切か不安がある、あるいはより効率的な管理方法を模索されている企業様は、ぜひ一度、企業法務に強い弁護士にご相談ください。貴社の実情に合わせた最適な労務管理体制の構築を支援いたします。


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