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【建設業・労務管理】「従業員50人の壁」を超えたら必須!衛生管理者・産業医の選任と安全衛生委員会の実務運用ガイド

はじめに

建設業における「安全」といえば、これまでは現場での墜落・転落事故や重機災害を防ぐための「労働安全」が中心的なテーマでした。しかし、近年の働き方改革の進展や労働環境の変化に伴い、従業員の心身の健康を守る「労働衛生」の重要性が飛躍的に高まっています。

特に、事業場の規模が拡大し、常時使用する労働者が50人を超えると、労働安全衛生法に基づく様々な義務が一気に発生します。いわゆる「50人の壁」です。衛生管理者の選任、産業医の選任、安全衛生委員会の設置、そしてストレスチェックの実施義務などがこれに該当します。これらは、本社や支店といった「店社」だけでなく、一定規模以上の「現場事務所」にも適用されることをご存知でしょうか。

また、2025年(令和7年)の法改正により、これまで努力義務であった従業員50人未満の事業場におけるストレスチェック実施が、今後全事業場で義務化されることが決定しています。もはや、企業規模にかかわらず、組織的な健康管理体制の構築は避けて通れない経営課題です。

本記事では、建設業の経営者や人事労務担当者が必ず押さえておくべき労働安全衛生法の基本、特に衛生管理者・産業医の選任要件や職務、そして形骸化させないための安全衛生委員会の運用実務について解説します。

Q&A

Q1:建設現場の「安全衛生協議会」を行っていれば、法律上の「安全衛生委員会」を開催したことになりますか?

いいえ、なりません。両者は別のものです。

建設現場で元請業者が主催し、関係請負人が参加する「安全衛生協議会(災害防止協議会)」は、労働安全衛生法第30条などに基づく現場特有の調整組織です。

一方、今回解説する「安全衛生委員会」は、同法第19条に基づき、事業者(会社)が従業員の意見を聴くために設置するものです。常時50人以上の労働者がいる事業場(本店、支店、大規模現場事務所)ごとに設置義務があり、構成メンバーの半数は労働者代表の推薦が必要であるなど、法的要件があります。現場の協議会とは別に、自社の委員会を開催する必要があります。

Q2:従業員が50人未満の小さな営業所や現場事務所では、特別な担当者を置く必要はないのでしょうか?

いいえ、50人未満であっても義務はあります。

常時10人以上50人未満の労働者がいる事業場では、「衛生管理者」の代わりに「衛生推進者(建設業の場合は安全衛生推進者)」を選任しなければなりません(労働安全衛生法第12条の2)。

資格要件は衛生管理者ほど厳しくありませんが、一定の実務経験や講習修了が必要です。また、50人未満であっても、労働者の健康診断の実施や、医師による健康診断結果のチェック(意見聴取)は義務ですので注意が必要です。

Q3:産業医を選任しましたが、忙しくてなかなか会社に来てもらえません。「名義貸し」のような状態でも問題ないでしょうか?

法的に大きな問題があり、危険です。

産業医には、毎月1回以上(一定の条件を満たせば2ヶ月に1回以上)の職場巡視が義務付けられています。また、近年の法改正により、長時間労働者への面接指導や、健康診断後の就業判定など、産業医の実質的な関与が不可欠な場面が増えています。

もし、産業医が機能していない状態で過労死やメンタルヘルス不調による自殺などが起きた場合、企業は「安全配慮義務」を尽くしていなかったとして、高額な損害賠償責任を問われる可能性が高くなります。実働する産業医を確保することは、企業防衛の要です。

解説

労働安全衛生法の基本構造と「事業場」の概念

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的としています。この法律の特徴は、企業の「本社一括」ではなく、「事業場」単位で義務を課している点です。

(1) 「事業場」とは

原則として、場所的に独立している組織を一つの事業場とみなします。建設業の場合、以下のそれぞれが独立した事業場としてカウントされます。

(2) 規模による義務の違い

各事業場で「常時使用する労働者数」が何人かによって、義務の内容が変わります。ここでいう労働者には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、派遣労働者(派遣先としてカウント)も含まれます。

衛生管理者の選任と役割

常時50人以上の事業場では、衛生管理者の選任が必須です。

(1) 建設業に必要な資格

衛生管理者には「第一種」と「第二種」がありますが、建設業は有害業務を含む可能性がある業種とされるため、「第一種衛生管理者」の免許を持つ者から選任しなければなりません。第二種免許では建設業の衛生管理者にはなれませんので、資格取得を促す際は注意が必要です。

(2) 選任人数

事業場の規模に応じて、必要な選任人数が決まっています。

※これ以降も規模に応じて増加します。

(3) 職務内容

衛生管理者は、週1回以上の職場巡視を行い、設備や作業方法に衛生上の問題がないかを確認します。また、健康診断の実施計画作成、ストレスチェックの事務従事、衛生委員会での事務局的な役割などを担います。

選任すべき事由が発生した日(50人を超えた日)から14日以内に選任し、所轄の労働基準監督署長に報告書を提出しなければなりません。遅延は法令違反(50万円以下の罰金)となります。

産業医の職務と「働き方改革」による権限強化

産業医は、医学的な専門知識を持って労働者の健康管理を行う医師です。常時50人以上の事業場で選任義務があります。

(1) 専属と嘱託

(2) 働き方改革による機能強化

2019年4月の法改正以降、産業医の権限と独立性が強化されています。

建設業では工期末の長時間労働が発生しやすいため、産業医との連携フローをあらかじめ確立しておくことが重要です。

安全衛生委員会の実務運用

安全衛生委員会は、労使が一体となって労働災害防止や健康保持増進について調査審議する場です。

(1) 設置と構成

建設業で常時50人以上の事業場では、「安全委員会」と「衛生委員会」の両方の設置義務がありますが、通常は統合して「安全衛生委員会」として設置します。

構成員は以下の通りです。

※重要ポイント: 議長以外の委員の半数は、労働者の過半数代表(労働組合や代表者)の推薦に基づき指名しなければなりません。会社側だけでメンバーを決めることはできません。

(2) 運営のポイント

実務上よくある問題は、委員会が「報告だけの場」になり形骸化することです。これを防ぐには、「今月のテーマ」を決めて討議する(例:6月は熱中症対策、11月はインフルエンザ対策など)、産業医からミニ講話をもらう、などの工夫が有効です。

ストレスチェック制度の義務と展望

メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)を目的とするストレスチェック制度は、現在、常時50人以上の事業場に年1回の実施が義務付けられています。

(1) 実施の流れ

  1. 方針表明・規定整備: 衛生委員会での審議を経て、実施規定を策定。
  2. 実施: 質問票の配布・回収(WEBまたは紙)。
  3. 結果通知: 実施者(医師等)から本人へ直接通知(会社は本人の同意なく結果を見られません)。
  4. 面接指導: 高ストレス者から申出があった場合、医師による面接指導を実施。
  5. 集団分析: 職場ごとのストレス傾向を分析し、職場環境改善に活かす(努力義務)。
  6. 報告: 労基署へ実施報告書を提出。

(2) 50人未満への義務拡大

2025年(令和7年)の通常国会で成立した改正法により、これまで当分の間努力義務とされていた従業員50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施が義務化されることが決定しました(公布後3年以内に施行)。

小規模な現場事務所や営業所であっても、今後はメンタルヘルス対策が法令上の必須事項となります。今のうちから、外部EAP(従業員支援プログラム)機関の選定や、産業医との契約内容の見直しを進めておくことを推奨します。

建設業における現場管理の特例

建設業では、有期事業である「建設現場」が多数存在します。

単独で50人以上の労働者がいる大規模現場であれば、その現場事務所で衛生管理者や産業医を選任し、安全衛生委員会を開催する必要があります。

一方、50人未満の現場の場合、直近の支店や本店で一括して管理を行うケースもありますが、その場合でも現場ごとの「安全衛生推進者」の選任や、元請としての「統括安全衛生責任者」による統括管理(下請けとの調整)は別途必要になります。

特に注意すべきは、本社採用の社員だけでなく、現場で働く直接雇用の作業員や事務員も人数カウントに含まれる点です。下請負人の労働者は、元請の事業場の人数には含みませんが(混在作業現場としての統括管理義務は別問題)、自社で雇用しているアルバイト等はカウントしてください。

弁護士に相談するメリット

安全衛生管理体制の整備や労働基準監督署への対応について、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談いただくメリットは以下の通りです。

  1. 安全衛生管理規程等の整備支援
    衛生委員会の運営規定や、ストレスチェック実施規定など、法定要件を満たした規程類の作成・レビューを行います。特に、面接指導後の就業上の措置(残業禁止、配置転換など)に関する規定は、後の紛争リスクを回避するための設計が必要です。
  2. 産業医との連携サポート
    産業医に対してどのような情報をどのタイミングで提供すべきか、また産業医から厳しい勧告を受けた場合に会社としてどう対応すべきか、法的観点からアドバイスを提供します。産業医契約書の内容チェックも可能です。
  3. 労基署是正勧告への対応
    安全衛生管理体制の不備について労働基準監督署から是正勧告を受けた場合、適切な改善報告書の作成を支援し、行政対応をスムーズに進めます。
  4. メンタルヘルス不調による労災トラブル対応
    ストレスチェックの実施不備や、高ストレス者への対応遅れが原因でメンタルヘルス不調(うつ病など)が発生した場合、安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。弁護士が早期に介入し、リスクを最小限に抑える対応策を立案します。

まとめ

労働安全衛生法に基づく管理体制の構築は、単なる「法令遵守(コンプライアンス)」にとどまりません。

衛生管理者や産業医が実質的に機能し、安全衛生委員会で活発な議論が行われている企業は、従業員の健康リスクを早期に発見・対処できるため、結果として労働災害やメンタルヘルス不調による離職を防ぐことができます。これは人手不足が深刻な建設業界において、強力な競争優位性となります。

「50人の壁」は、会社が次のステージへ成長するためのステップです。形式的な選任や開催で終わらせず、実効性のある運用を目指しましょう。自社の体制に不安がある場合や、具体的な運用方法について悩みがある場合は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。貴社の実情に合わせた最適なサポートを提供いたします。


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