はじめに
インターネット上の心ない書き込みによって名誉を傷つけられたり、プライバシーを侵害されたりした場合、被害者は加害者に対して「損害賠償請求(慰謝料請求)」を行う権利があります。
これは、受けた精神的苦痛や経済的損失を金銭によって償わせる手続きであり、被害回復のための重要な手段です。
しかし、「裁判をするのは大変そう」「いつまでに何をすればいいのか分からない」といった不安から、泣き寝入りしてしまうケースも少なくありません。
本記事では、ネット誹謗中傷に対する損害賠償請求の具体的な手順、見落としがちな「時効」の期限、そして準備すべき必要書類について解説します。
Q&A:損害賠償請求に関するよくある質問
Q1. 相手の名前も住所も分かりませんが、損害賠償請求はできますか?
いいえ、相手が特定できていない段階では請求できません。
損害賠償請求を行うには、「誰に」請求するのかを特定する必要があります。匿名掲示板やSNSでの投稿の場合、まずは「発信者情報開示請求」を行い、投稿者の氏名と住所を突き止めることから始める必要があります。特定が完了して初めて、損害賠償の手続き(示談交渉や訴訟)へ進むことができます。
Q2. 昔の投稿についても請求できますか?「時効」はあるのでしょうか?
はい、時効があります。原則として「3年」です。
民法上、不法行為に基づく損害賠償請求権は、「被害者が損害および加害者を知った時から3年」で時効により消滅します。つまり、犯人が特定できてから3年以内に請求を行わないと、権利を失うことになります(※行為の時から20年経過でも消滅します)。なお、特定にかかる時間も考慮し、お早めの行動が重要です。
Q3. 必ず「裁判」を起こさないとお金はもらえませんか?
いいえ、裁判外の「示談(和解)」で解決するケースもあります。
いきなり裁判を起こすのではなく、まずは相手方に内容証明郵便等で請求書を送り、話し合い(示談交渉)による支払いを求めるのが一般的です。相手が事実を認め、提示した金額(または交渉で合意した金額)を支払えば、裁判を行わずに早期解決となります。相手が無視したり、支払いを拒否したりした場合に、初めて裁判(訴訟)を検討します。
解説:損害賠償請求の基本的な流れと必要書類
損害賠償請求は、法律に基づいた手続きです。ここでは、被害発生から解決(賠償金の獲得)までの標準的なフローを4つのステップで解説します。
ステップ1:証拠の保全と収集
全ての始まりは「証拠」です。裁判所も相手方も、客観的な証拠がなければ動きません。
- URLの確保: 投稿されたページのURL(アドレス)が必要です。
- スクリーンショット: 投稿内容、投稿日時、URLが分かるように撮影します。
- 損害の証拠: 精神的苦痛を証明する「医師の診断書」や、風評被害による売上減少を示す「帳簿・決算書」なども、賠償額を算定する上で重要になります。
ステップ2:投稿者の特定(発信者情報開示請求)
相手が匿名の場合、まず誰であるかを特定します。
- サイト管理者への開示請求: IPアドレス等の開示を求めます。
- プロバイダへの開示請求: IPアドレスを元に、接続プロバイダ(携帯キャリア等)へ契約者情報の開示を求めます。
- 特定完了: 相手の氏名・住所が開示されます。
※この特定手続き自体に数ヶ月〜1年程度かかることがあります。
ステップ3:示談交渉(裁判外での請求)
相手が特定できたら、直接請求を行います。
- 内容証明郵便の送付: 「いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる形式で、慰謝料などの請求書を送ります。弁護士名義で送ることで、相手に事の重大さを伝え、支払いに応じるようプレッシャーをかけます。
- 交渉: 相手方(またはその代理人弁護士)と、金額や支払い方法、謝罪の有無、口外禁止条項などについて交渉します。
- 合意書の締結: 双方が納得すれば「示談書(合意書)」を作成し、解決金を支払ってもらいます。これで解決です。
ステップ4:損害賠償請求訴訟(裁判)
示談交渉がまとまらない場合、または相手が無視した場合は、裁判所に訴えを提起します。
- 訴状の提出: 管轄の裁判所に訴状を提出します。
- 審理: お互いが主張と証拠を出し合い、裁判官が法的に判断します。
- 判決または和解: 裁判の途中で裁判官から「和解」を勧められることも多く、判決まで行かずに和解で終了することもあります。判決が出た場合、相手が支払わなければ「強制執行(財産差し押さえ)」の手続きが可能になります。
【重要】準備すべき必要書類リスト
弁護士に依頼する場合や、自分で手続きを行う場合に必要となる主な書類です。
- 権利侵害の証拠: 投稿のスクリーンショット(紙およびデータ)、URLリスト。
- 相手方の特定情報: 発信者情報開示請求で取得した開示結果(相手の氏名・住所)。
- 被害の実態を示す資料:
- 精神科・心療内科の診断書(通院期間や病名が記載されたもの)。
- 薬局の領収書。
- (企業の場合)売上台帳、取引停止の通知書など。
- 費用の証拠: 発信者情報開示請求にかかった弁護士費用の領収書や契約書(これらの一部も損害として請求できる場合があります)。
- 身分証明書等: 住民票、戸籍謄本(個人の場合)、代表者事項証明書(法人の場合)。
「時効」の壁に注意
ネットトラブルにおける損害賠償請求で最も注意すべきなのが「消滅時効」です。いつでも請求できるわけではありません。
- 3年の時効: 「被害者が損害および加害者を知った時」から3年経過すると、請求権が消滅します。「加害者を知った時」とは、通常、開示請求によって相手の氏名・住所が判明した時点を指します。
- 20年の除斥期間: 加害者を知らなくても、不法行為(投稿が行われた時)から20年が経過すると請求できなくなります。
特に注意が必要なのは、「3年」のカウントダウンが始まるタイミングです。特定が完了してから放置していると、あっという間に時効を迎えてしまいます。また、ログの保存期間(3〜6ヶ月)とは別物ですが、そもそもログが消えて特定できなければ請求もできないため、実質的には最初の数ヶ月が勝負となります。
弁護士に相談・依頼するメリット
損害賠償請求は、ご自身で行うことも法的には可能ですが、相手との交渉や複雑な訴訟手続きを伴うため、弁護士への依頼が推奨されます。
1. 「適正な賠償額」の算定と請求
慰謝料には「相場」がありますが、個別の事情(投稿の悪質性、拡散の程度、被害者の属性など)によって増減します。弁護士は過去の裁判例に基づき、あなたのケースで認められうる「最大限の適正額」を算定し、根拠を持って請求します。自己判断で低い金額で示談してしまうリスクを防げます。
2. 相手方との直接交渉を回避できる
加害者は、自分を正当化したり、感情的に反論してきたりすることが多々あります。被害者が直接交渉すると、精神的なストレスが非常に大きく、新たなトラブル(暴言や脅迫)に発展する恐れもあります。弁護士が代理人となることで、相手と直接話す必要がなくなり、冷静かつ有利に交渉を進められます。
3. 手続きの不備を防ぎ、確実な解決へ
訴状の作成や証拠の提出には、専門的な法知識が必要です。書類に不備があると、裁判所から訂正を求められたり、請求が棄却されたりします。弁護士は、時効の管理を含め、被害回復を目指します。
まとめ
ネット誹謗中傷への損害賠償請求は、傷つけられた名誉と平穏な日常を取り戻すための正当な権利行使です。
基本的な流れは「証拠保全 → 特定 → 交渉 → (必要なら)訴訟」となりますが、それぞれの段階で法的専門知識と迅速な行動が求められます。
特に「時効(3年)」と「ログ保存期間(数ヶ月)」という2つの時間制限があることを忘れてはいけません。「いつか請求しよう」と思っているうちに、手遅れになってしまうのが最大のリスクです。
相手に責任を取らせたい、受けた損害を償ってほしいとお考えの方は、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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