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M&A後のトラブル回避!競業避止義務の設定ポイントと違反リスクを弁護士が解説

はじめに

M&A(企業の合併・買収)において、買い手企業が最も恐れるシナリオの一つとは何でしょうか。

それは、多額の資金を投じて会社や事業を買収した直後に、売り手(旧経営者)が近隣で全く同じ事業を立ち上げ、顧客やノウハウを奪い返してしまうことです。

もしそのような事態になれば、買い手が支払った「のれん代(営業権)」の価値は瞬く間に失われ、M&Aは失敗に終わります。このようなリスクを防ぐために極めて重要な役割を果たすのが「競業避止義務(Non-Compete Obligation)」です。

しかし、競業避止義務の設定は、単に「今後一切、同業を行ってはならない」と契約書に書けば済むという単純なものではありません。売り手個人の「職業選択の自由(憲法22条)」との兼ね合いから、過度に広範な制限は「公序良俗違反」として無効になるリスクがあるからです。

また、M&Aのスキーム(事業譲渡か株式譲渡か)によって、法律上の根拠や適用ルールが異なる点も正しく理解しておく必要があります。

本記事では、M&Aを検討中の経営者様や法務担当者様に向けて、M&Aにおける競業避止義務の重要性、スキーム別の法的規制、条項が無効にならないための設定ポイント、そして実際に違反が起きた場合の対処法について解説します。

Q&A

Q1. 事業譲渡と株式譲渡で、競業避止義務のルールに違いはありますか?

はい、大きな違いがあります。

「事業譲渡」の場合、会社法第21条により、売り手企業(譲渡会社)は原則として20年間(特約があれば最大30年間)、同一市町村および隣接市町村において同一の事業を行ってはならないという法的な義務を負います。

一方、「株式譲渡」にはこのような法律上の明文規定がありません。したがって、契約書(株式譲渡契約書)の中で明示的に競業避止義務条項を設けない限り、売り手(旧株主)は自由に同業を始めることができてしまいます。そのため、株式譲渡においては契約条項の設計がより一層重要となります。

Q2. 競業避止義務の期間は、どのくらい長く設定しても有効ですか?

無制限に長く設定することはできません。

期間、地域、職種の範囲があまりにも広範である場合、売り手の職業選択の自由を不当に侵害するとして、裁判所で条項自体が「無効」と判断されるリスクがあります。

M&A取引の規模や対価の額、譲渡されたノウハウの性質にもよりますが、一般的には「2年〜5年程度」、長くても「10年以内」が合理的な範囲とされることが多いです。事業譲渡の会社法規定(20年)はあくまで法人間のルールであり、個人の売り手に対して同等の期間を課すことは厳しく判断される傾向にあります。

Q3. 売り手が競業避止義務に違反した場合、どのような対抗措置が取れますか?

主に「競業行為の差止請求」と「損害賠償請求」が可能です。

まずは内容証明郵便等で警告を行い、直ちに事業を停止するよう求めます。それでも応じない場合は、裁判所に対して仮処分の申し立てや訴訟提起を行います。また、M&A契約書において、違反時の違約金(ペナルティ)や、退職金・アーンアウト対価の不支給などを定めておくことで、抑止力を高めるとともに、損害額の立証負担を軽減することができます。

解説

M&Aにおける競業避止義務の重要性

M&Aにおいて、買い手は対象企業の有形資産(設備や不動産)だけでなく、無形資産(顧客基盤、技術力、ブランド、ノウハウ)に対しても対価を支払います。これがいわゆる「のれん(Goodwill)」です。

売り手(特にオーナー経営者)は、その事業の成功の鍵を握る人物であり、顧客との個人的な結びつきや独自のノウハウを持っているケースがほとんどです。もしM&A直後に、売り手がその知識と人脈を使って別会社で同種事業を始めてしまえば、顧客は旧経営者についていってしまい、買い手が購入した「のれん」の価値は毀損されます。

これを防ぎ、買い手の投資価値を保護するために、売り手に対して一定期間、競業行為(ライバルとなる事業を行うこと)を禁止するのが競業避止義務です。

スキーム別:競業避止義務の法的根拠と注意点

M&Aの手法によって、競業避止義務の発生根拠が異なります。

(1) 事業譲渡の場合

事業譲渡においては、会社法第21条が適用されます。

(2) 株式譲渡の場合

株式譲渡においては、会社法のような法律上の競業避止義務規定は存在しません。

したがって、株式譲渡契約書(SPA)において、売り手(譲渡株主)との間で合意形成することが必須となります。契約書に書き忘れると、売り手は翌日から堂々と同業を開始できてしまうため、致命的なミスとなります。

(3) 会社分割・合併の場合

会社分割については、会社法上の明文規定はありませんが、リスク回避のためには、吸収分割契約書等で明示的に定めるべきです。

「無効」リスクを避けるための条項設定ポイント

競業避止義務条項は、強力な効力を持つ反面、売り手の「職業選択の自由(憲法22条)」や「営業の自由」を制限する側面を持ちます。そのため、内容が過剰で不合理な場合、民法90条の「公序良俗違反」として無効になる可能性があります。

裁判所は、以下の要素を総合的に考慮して有効性を判断します。

(1) 制限の期間

(2) 制限の地域

(3) 禁止される事業の範囲(職種)

(4) 代償措置(対価性)

契約書における具体的な条項例と工夫

リスクを最小化するために、契約書(株式譲渡契約書や株主間契約書)には以下のような工夫を盛り込みます。

(1) 禁止行為の具体化

単に「競業してはならない」だけでなく、以下のような行為も禁止対象として明記します。

(2) 「みなし競業」への対応

売り手本人が表に出ず、配偶者や友人を名義人にして裏で競業を行う「ダミー会社」を使った抜け道を封じるため、「実質的に経営を支配している法人等を通じて行ってはならない」といった文言を追加します。

(3) 違反時の措置(違約金条項)

実際に違反が起きた際、買い手が被った損害額(逸失利益など)を具体的に立証するのは困難です。

そこで、「本条に違反した場合、売り手は買い手に対し、違約金として金〇〇万円(または譲渡対価の〇%)を支払う」という損害賠償額の予定(違約金)条項を定めておきます。これにより、損害の立証なしに一定額を請求できるようになり、強力な抑止力となります。

役員・従業員に対する競業避止義務

ここまでは「売り手(オーナー)」に対する義務について解説しましたが、M&Aに伴い退任する役員や、キーマンとなる従業員についても対策が必要です。

競業避止義務違反が発覚した場合の対応

万が一、売り手による競業行為が疑われる場合は、迅速かつ証拠に基づいた対応が必要です。

  1. 事実関係の調査・証拠収集
    Webサイト、登記情報、探偵による調査、顧客からのヒアリングなどを通じて、競業の実態(事業内容、関与の度合い)を証拠化します。
  2. 警告書の送付
    弁護士名義で内容証明郵便を送付し、競業行為の即時停止と損害賠償を請求します。
  3. 仮処分の申立て
    裁判所に対し、「競業行為差止仮処分」を申し立てます。正式な裁判(訴訟)は時間がかかるため、緊急性が高い場合は仮処分によって暫定的な差止めを求めます。
  4. 本訴訟(損害賠償請求・差止請求)
    仮処分で解決しない場合や、発生した損害の金銭的賠償を求める場合は、訴訟を提起します。

弁護士に相談するメリット

競業避止義務の設定は、買い手の利益保護と売り手の自由のバランスを取る繊細な作業です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。

  1. 無効リスクを回避する条項設計
    過去の裁判例に基づき、期間・地域・範囲が「合理的」と判断されるギリギリのラインを見極め、有効かつ実効性の高い条項を作成します。
  2. スキームに応じた適切な法的構成
    事業譲渡、株式譲渡、会社分割など、選択されたスキームに合わせて、会社法の規制と契約上の合意を組み合わせた最適な法的枠組みを提案します。
  3. 抜け道を塞ぐ詳細な規定
    ダミー会社の利用や、従業員の引き抜き、ノウハウの流出など、想定されるあらゆる「抜け道」を塞ぐための網羅的な契約条項(勧誘禁止条項、秘密保持条項など)を整備します。
  4. 違反発覚時の迅速な対応
    競業行為が発覚した際、直ちに警告書を作成し、仮処分や訴訟を含めた法的措置を講じることで、被害の拡大を最小限に食い止めます。

まとめ

M&Aにおける競業避止義務は、買収によって得られる価値(のれん)を守るための最後の砦です。

事業譲渡では会社法上の保護がありますが、株式譲渡では契約書での合意がなければ無防備な状態となります。また、契約書に記載してあっても、内容が過剰であれば無効と判断されるリスクが常に付きまといます。

「相手を信用しているから大丈夫」「ひな形にあるから大丈夫」と安易に考えず、M&Aの対価や事業の特性に見合った適切な競業避止義務を設定することが、M&Aの成功には不可欠です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、多数のM&A案件に関与した経験に基づき、買い手・売り手双方の視点から、トラブルを未然に防ぐ契約書の作成とリーガルチェックを行っております。また、実際に競業トラブルが発生した際の交渉や訴訟対応についても豊富な実績がございます。

M&Aをご検討の経営者様、担当者様は、ぜひお早い段階で当事務所にご相談ください。


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