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美容室の多店舗展開とフランチャイズ契約|ロイヤリティ設定とトラブル防止の法務

はじめに

美容室の経営が軌道に乗り、地域の人気店としてブランドが確立されてくると、次のステップとして「多店舗展開」を検討される経営者様は少なくありません。その際、直営店方式だけでなく、資金や人材のリスクを分散しながら拡大できる「フランチャイズ(FC)方式」は非常に魅力的な選択肢です。

しかし、美容業界におけるフランチャイズ展開は、単に看板を貸すだけでは成功しません。技術の均質化、接客サービスの維持、そしてオーナー(本部)と加盟店(フランチャイジー)との間の金銭的な取り決めなど、極めて複雑な権利義務関係を調整する必要があります。安易な口約束や、インターネット上の雛形契約書を流用しただけの契約締結は、後の重大な紛争の火種となります。

本稿では、美容業の多店舗展開におけるフランチャイズ契約の重要性、ロイヤリティ設計の法的留意点、そしてブランド毀損や解約トラブルを防ぐためのポイントについて解説します。

Q&A

Q1. 美容室のフランチャイズ契約書を作成する際、最も注意すべき点は何ですか?

「ブランドの統一性維持」と「ロイヤリティの対価性」の明確化です。

美容室は技術とサービスが商品の主体であるため、加盟店が独自の判断で質の低い施術を行ったり、指定外の安価な薬剤を使用したりすると、本部(本店)のブランド価値が一瞬で毀損されます。これを防ぐための指導権限やマニュアル遵守義務を契約書に明記する必要があります。また、ロイヤリティが単なる名前貸し料ではなく、どのようなサポート(集客支援、技術指導、商標使用権など)の対価なのかを明確に定義しておくことが、後のトラブル防止に不可欠です。

Q2. ロイヤリティの設定はどのように行うのが一般的ですか?

「定額制」「売上歩合制」「利益歩合制」のいずれか、または組み合わせが一般的です。

美容業界では、売上の数パーセント(例:3〜10%)を徴収する「売上歩合制」が多く見られますが、正確な売上報告がなされないリスクがあります。一方で、毎月一定額(例:5万円)を徴収する「定額制」は計算が容易ですが、本部の収益上限が決まってしまいます。法的には、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に当たらないよう、提供するノウハウやブランド力に見合った合理的な金額を設定する必要があります。

Q3. 加盟店が契約を解約して独立したいと言い出しました。近くで競合店を開くのを阻止できますか?

契約書に有効な「競業避止義務」条項があれば阻止できる可能性があります。

ただし、職業選択の自由との兼ね合いから、無制限な禁止は無効とされる裁判例が多いです。「契約終了後2年間」「店舗から半径2km以内」といったように、期間と場所、職種を合理的な範囲に限定し、かつ本部が守るべき正当な利益(独自のノウハウや顧客情報など)が存在する場合に限り、法的効力が認められる傾向にあります。

解説

美容業におけるフランチャイズ展開の法的枠組み

美容室のフランチャイズ契約は、法律上「典型契約(民法に規定された売買や賃貸借など)」には分類されず、複数の契約性質を併せ持つ「無名契約」とされます。具体的には、商標や商号の使用許諾、ノウハウの提供、商品の継続的供給、経営指導などが複合的に組み合わさっています。

法律の規定が少ない分、契約書の記載内容がすべてとなります。契約書に記載のない事項については、当事者間の合意がないものとみなされ、トラブル発生時に解決の指針が存在しないという事態に陥りかねません。

特に美容業では、以下の要素が契約の核となります。

これらを明確に定義し、本部(フランチャイザー)と加盟店(フランチャイジー)の役割分担を法的文書として固定することが、多店舗展開の第一歩です。

ロイヤリティ設計と法的リスク

ロイヤリティ(Royalty)は、フランチャイズ経営の根幹をなす収益源ですが、同時に最も紛争になりやすいポイントです。

ロイヤリティの算定方式

美容室で採用される主な方式には以下のような法的・実務的特徴があります。

売上歩合方式(粗利分配方式)

売上の一定比率(例:5%)を支払う方式です。加盟店の売上が上がれば本部の収益も増えるため、Win-Winの関係を築きやすいメリットがあります。しかし、法務的観点からは「売上の定義」を厳格に定める必要があります(店販商品の売上を含めるか、消費税をどう扱うかなど)。また、加盟店による売上除外(裏帳簿)のリスクに対し、本部による会計監査権限を契約書に定めておく必要があります。

定額方式

売上に関わらず月額固定(例:5万円)とする方式です。加盟店にとっては売上が伸びた際の利益率が高くなるためモチベーションにつながります。本部にとっては安定収入となりますが、加盟店への指導がおろそかになると「対価に見合わない」として支払拒絶の抗弁を出されるリスクがあります。

変動ロイヤリティ・ステップロイヤリティ

売上規模に応じて料率を変える方式です。複雑な計算式になるため、契約書での定義が曖昧だと解釈の相違を生みます。

独占禁止法と法定開示書面

公正取引委員会はフランチャイズ・システムに関する指針を出しており、本部が加盟店募集時に提示する収支シミュレーションが、実際の数字とかけ離れている場合、「ぎまん的顧客誘引(独占禁止法違反)」として問題視されることがあります。

ロイヤリティを設定する際は、提供する商標価値やノウハウ、サポート体制に見合った金額であるかどうかの根拠を持つことが重要です。

ブランド統一義務とクオリティ・コントロール

多店舗展開において最大のリスクは、ある加盟店の不祥事や質の低下が、グループ全体のブランドイメージを毀損することです。これを防ぐために、契約書には強力な「クオリティ・コントロール(品質管理)」条項が必要です。

施術・サービスの基準

「本部の定める施術マニュアルを遵守すること」だけでなく、具体的に以下の権限を定めます。

店舗内装と設備

店舗の雰囲気もブランドの一部です。内装デザイン、BGM、使用する什器について本部の承認事項とすることや、老朽化した場合の改装義務を定めます。

違反時の是正措置

加盟店がこれらの基準を守らない場合、口頭注意だけでなく、違反金の請求、商品供給の停止、そして最終的な契約解除権を行使できるプロセスを明記します。

加盟店とのトラブル対応と契約解除

フランチャイズ契約は長期間に及ぶ継続的契約であるため、一度締結すると簡単には解除できないのが原則です(信頼関係破壊の法理)。したがって、契約解除に関する条項は慎重に設計する必要があります。

中途解約と違約金

加盟店側の都合による中途解約を認めるか、認める場合の違約金(ペナルティ)をどう設定するかが重要です。違約金が高額すぎると、公序良俗違反(民法90条)により無効とされるリスクがあります。残存期間のロイヤリティ相当額や、実際に生じた損害額など、合理的な算定根拠が必要です。

契約更新の拒絶

契約期間満了時に、本部側から更新を拒絶できるかどうかも争点となります。正当な理由(ロイヤリティ滞納、ブランド毀損行為の繰り返しなど)がなければ、更新拒絶が権利濫用とされる可能性があります。更新要件を契約書で具体的に列挙しておくことが肝要です。

競業避止義務と秘密保持

美容業は「人」に顧客がつくビジネスであるため、加盟店がフランチャイズを脱退した後、同じ場所で、同じスタッフを使って、別の名前で美容室を続ける「看板の架け替え」が頻発します。これは本部にとって看過できないフリーライド(ただ乗り)行為です。

競業避止義務の有効性

契約終了後の競業避止義務は、前述の通り「期間」「場所」「職種」の制限が必要です。

顧客情報の帰属

カルテ情報や予約システム内の顧客データが、本部と加盟店のどちらに帰属するかを明確にします。通常は本部に帰属、あるいは共同利用とし、契約終了後は加盟店によるデータの持ち出しや利用を禁止する条項を設けます。これに違反した場合の損害賠償額の予定も定めておくと、抑止力として機能します。

FC展開における「法定開示書面」の重要性

中小小売商業振興法および公正取引委員会のガイドラインにより、フランチャイズ本部には、契約締結前に加盟希望者に対して一定の重要事項を記載した書面(法定開示書面)を交付し、説明する義務が課されています。

これには、直近の加盟店の収支状況、過去の訴訟件数、契約解除の条件、ロイヤリティの算定方法などが含まれます。この手続きを怠ったり、虚偽の情報を記載したりすると、契約自体が取り消されたり、損害賠償請求を受けたりするリスクがあります。美容室のオーナーが個人的な感覚でFC展開を始める際、この手続きが漏れているケースが散見されます。

弁護士に相談するメリット

美容室の多店舗展開やフランチャイズ契約に関して、弁護士に相談・依頼することには以下の大きなメリットがあります。

独自のビジネスモデルに適合した契約書の作成

市販の雛形やネット上のテンプレートは、汎用的な内容に留まり、特定の美容技術や商材販売スキーム、独自の研修制度など、貴社の強みを保護する条項が含まれていません。弁護士は、貴社のビジネスモデルを詳細にヒアリングし、将来の紛争リスクを想定したオーダーメイドの契約書を作成します。

独占禁止法等の法的リスクの回避

フランチャイズ契約は、優越的地位の濫用や拘束条件付取引など、独占禁止法との抵触リスクが常に存在します。弁護士は、ロイヤリティ設定や仕入れ制限などの条件が法的に適正か否かを判断し、公正取引委員会のガイドラインに沿った安全な制度設計をサポートします。

加盟店との交渉・トラブル対応の代理

ロイヤリティの未払いや、契約違反(勝手なメニュー導入や安売りなど)、中途解約時の違約金交渉など、本部と加盟店の間には様々なトラブルが発生します。弁護士が代理人として交渉することで、感情的な対立を抑え、契約書に基づいた冷静かつ有利な解決を図ることができます。

法定開示書面の整備とコンプライアンス体制の構築

加盟店募集時に必要な法定開示書面の作成や、説明義務の履行確認など、フランチャイズ本部として整備すべきコンプライアンス体制を構築します。これにより、加盟後の「話が違う」といった言った言わないのトラブルを未然に防ぐことができます。

まとめ

美容室のフランチャイズ展開は、ブランドを飛躍的に成長させる大きなチャンスですが、同時に法的なリスク管理が経営の明暗を分けるビジネスモデルでもあります。

「信頼できる相手だから」という理由で契約内容を曖昧にしたままスタートすると、店舗数が増えるにつれて統制が取れなくなり、ブランド価値の崩壊や多額の損害賠償請求に直面することになりかねません。

ロイヤリティの設定、ブランド統一の仕組み、競業避止義務など、それぞれの条項が法的に有効であり、かつビジネスの実態に即しているかどうかが鍵となります。

貴社のブランドを守り、加盟店と共に健全な成長を実現するために、フランチャイズ展開を検討された段階で、早めに専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、美容業界特有の事情に精通した弁護士が、フランチャイズ契約書の作成から運用アドバイス、トラブル対応まで、経営者の皆様をサポートいたします。


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