はじめに
同一労働同一賃金の実現が強く求められる中、企業が正社員と非正規社員(パートタイム・有期雇用)との間で不合理な待遇差を設けていると、違法と判断されるリスクが高まっています。特に問題となりやすいのが、手当・賞与・福利厚生などで、従来の慣習で「非正規には一切支給しない」「正社員だけが無料で利用できる」といった扱いを続けると、裁判所で不合理と認定され、多額の差額賃金や損害賠償を命じられるケースも増えています。
本記事では、手当・賞与・福利厚生の格差是正について、具体的に企業がどのように制度を見直し、法的リスクを防ぎながら多様な人材を活用できるようにするかを解説します。不合理な格差を放置している企業は、点検・改定を行いましょう。
Q&A
Q1. 不合理な手当格差とはどんな例があるのでしょうか?
代表例は以下のようなものがあります。
- 通勤手当や食事手当を正社員だけ全額支給し、非正規社員には支給しない。
- 住宅手当を正社員には出しているが、ほぼ同じ距離に住むパート社員には一切出さない。
- 同じ仕事をしているのに家族手当や資格手当などが非正規社員には適用されない。
Q2. 賞与を正社員だけ支給し、非正規社員には全く支給しないのは違法でしょうか?
業務内容や責任が同等であり、会社が「成果貢献への報酬」として賞与を位置づけているならば、不支給を「不合理」と判断される可能性があります(ハマキョウレックス事件など最高裁判例で問題視された)。ただし、職務の範囲や責任が大きく異なる場合は完全一致する必要はありませんが、職務差以上に大きい格差は違法とみなされるリスクがあります。
Q3. 福利厚生の格差も問題になるのでしょうか?
はい、社内施設や慶弔見舞金、社員食堂利用などで正社員だけ優遇され、非正規社員が著しく不利になると不合理差となる可能性が高いです。ガイドライン上も、休憩室や更衣室、研修受講などに大きな差を設ける場合は合理性が要求されます。
Q4. 企業としてはどうやって手当・賞与・福利厚生を見直せばいいですか?
以下の流れが一般的です。
- 正社員と非正規社員の職務・責任範囲を分析
- 各手当・賞与・福利厚生の支給要件を整理し、どこが不合理な格差なのか検討
- 就業規則・賃金規程を改定し、必要に応じて段階的に差を是正
- 従業員へ説明し、不透明感のない形で施行する
Q5. 就業規則を改定せずに非正規社員への手当を支給し始めれば問題ありませんか?
就業規則や賃金規程に明確に定めずに個別対応すると、他の従業員との間で不公平・混乱が生じたり、説明が不十分とみなされる恐れがあります。実態に合った規程整備と周知は必須です。
解説
手当格差の見直し
- 通勤手当
正社員だけが全額支給され、非正規社員が電車代を自腹負担している場合、職務内容が同じなら不合理となる恐れがある。 - 住宅手当・家族手当
「勤務継続のため必要」「家族扶養の支援」が目的なら、非正規社員にも支給するか、支給額を勤務時間に比例化する等が必要。 - 資格手当・役職手当
その資格や役職が業務遂行にどう関わるか、非正規社員の業務範囲や責任と照らし合わせ、差の程度を合理的に設定。
賞与の不支給問題
- 貢献度の差
会社が「賞与を従業員の成果貢献に対する報酬」と位置づける場合、非正規社員も同様の貢献をしていれば不支給は不合理。 - 段階的導入
一度に大幅な支給拡大が難しい場合、評価基準や職務ランクを再構築し、段階的に反映することも考えられる。
福利厚生の格差
- 社内施設利用
社員食堂、休憩室、更衣室、保養所などを非正規社員だけ利用禁止にするのは不合理と認定されやすい。 - 研修・教育機会
パート・アルバイトにも必要な研修を正社員と同等に受講させず、スキル向上の機会を奪うとモチベーションや定着率に悪影響。 - 慶弔見舞金、災害見舞金
「家族構成や勤務形態」を理由に支給しない場合は目的との関連性が薄ければ不合理となる場合がある。
実務対応のステップ
- 現状分析
手当・賞与・福利厚生をリスト化し、正社員と非正規社員の支給状況や差額を可視化。 - 業務内容・責任範囲の比較
正社員が転勤可能・責任大、非正規は限定的などの差を洗い出し、差を合理的に説明できるか検討。 - 合理性検証
差がある項目ごとに「その差は職務・責任の違いと釣り合うか」「費用補助の目的に合致しているか」を検証。 - 是正措置・就業規則改定
必要に応じて非正規社員にも手当支給を拡大、賞与を一定の割合で支給、福利厚生を共通化するなど段階的に見直し。
弁護士に相談するメリット
手当・賞与・福利厚生の格差是正は企業にとって大きなコストや人事制度の再構築を伴う場合があり、法的にはどこまで差を許容できるかが難しい判断です。弁護士に相談すると次の利点があります。
- 不合理差の客観的診断
企業内の賃金・手当体系を分析し、最高裁判例やガイドラインに基づき不合理な差がないかチェック。 - 就業規則・賃金規程改定
差を是正する方針に合わせ、段階的導入や業務ランクづけなどを盛り込んだ合法的な規程へ改定を支援。 - 従業員への説明サポート
不利益変更や格差是正に不満を持つ正社員とのトラブル防止のため、労使協議や説明会を法的観点から助言。 - 紛争対応
すでに差額賃金を求める訴訟や労働審判が起きた場合、企業を代理して最適な解決策を追求。
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、労務紛争の解決実績が多数あり、企業の実情に即した総合的な法的アドバイスを提供します。
まとめ
- 手当・賞与・福利厚生で正社員と非正規社員を一律に大幅に区別している場合、不合理差として違法と認定されるリスクが高まります。
- 「非正規だから」「パートだから」と画一的に扱うのではなく、業務内容や責任範囲、転勤の有無などを踏まえつつ、差の程度に合理的根拠があるかを慎重に検討する必要があります。
- 就業規則・賃金規程を改定し、通勤手当や賞与、住宅手当、福利厚生の利用条件を非正規社員にも適用するなど、ガイドラインに適合する形で是正を進めることが大切です。
- 弁護士に相談すれば、不合理差の具体的検証から規程整備・従業員説明、万一の訴訟対応まで総合的に支援を受けられ、企業リスクを最小限に抑えながら同一労働同一賃金への対応を進められます。
企業が差を放置したままにしていると、裁判所で不合理差と判断され、多額の支払いを命じられる可能性があるため、早めに点検・是正に取り組むことが重要です。
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