企業法務リーガルメディア

投稿者を特定した後、どうする?和解交渉から損害賠償、刑事告訴までのガイド

はじめに

解決へのスタートライン

長い時間と少なくない費用をかけ、発信者情報開示請求によって、ついに匿名の誹謗中傷投稿者の氏名と住所が判明した…。

しかし、投稿者の特定は、決してゴールではありません。むしろ、それはあなたの受けた被害を回復し、問題を解決するための「スタートライン」に立ったに過ぎません。特定をした今、あなたは加害者に対し、複数の法的アクションを選択する力を得たのです。

この記事では、投稿者を特定した後に被害者が取れる3つの主な選択肢、「①和解(示談)交渉」「②損害賠償請求訴訟」「③刑事告訴」について、それぞれの目的や特徴、そしてこれらをいかに戦略的に組み合わせるかについて、解説します。 

選択肢1:民事上の責任追及(交渉と訴訟)

これは、あなたの受けた精神的・経済的損害を金銭で回復させるための手続きです。

迅速かつ柔軟な解決を目指す「和解(示談)交渉」

多くの場合、いきなり裁判を起こすのではなく、まず弁護士を通じて加害者との話し合いによる解決を目指します。

 法的強制力を持つ最終手段「損害賠償請求訴訟」

和解交渉が不成立に終わった場合や、加害者に反省の色が全く見られない場合に選択する、裁判所を通じた正式な手続きです。

選択肢2:刑事上の責任追及(刑事告訴)

民事上の責任追及とは別に、加害者に国の法律に基づいて刑事罰(懲役、罰金など)を科すことを求める手続きです。これは「社会正義の実現」を目的とします。

2022年侮辱罪厳罰化

かつて、ネット上の「バカ」「死ね」といった侮辱的な投稿は、侮辱罪に該当しても「科料(1万円未満)」という極めて軽い罰で済まされることがほとんどでした。そのため、刑事告訴の抑止力は限定的でした。

しかし、2022年7月7日に施行された改正刑法により、状況は一変しました。

この改正は、単に罰が重くなっただけではありません。民事の和解交渉において、被害者側に強力な交渉カードをもたらしました。以前は「罰金9,000円」で済んだ加害者が、今では前科がつき、場合によっては刑務所に行くという深刻なリスクを負うことになったのです。この「刑事罰の現実的な恐怖」を背景にすることで、加害者側が民事の示談交渉に真摯に応じ、より高額な慰謝料の支払いや誠実な謝罪を受け入れざるを得ない状況を作り出すことが可能になりました。つまり、刑事告訴は、それ自体が目的であると同時に、民事解決を有利に進めるための戦略的手段となったのです。

刑事告訴の手続き

被害届と告訴状の違い

注意すべき「二重の時効」の罠

刑事告訴には、注意すべき2つの異なる時効が存在します。

  1. 公訴時効: 犯罪行為が終わった時から起算され、この期間を過ぎると検察官は起訴できなくなります。名誉毀損罪・侮辱罪ともに3年です。
  2. 告訴期間: 親告罪に特有の期間制限で、「犯人を誰であるか知った日から6ヶ月以内」に告訴しなければならない、という厳しいルールです(刑事訴訟法235条)。

例えば、発信者情報開示請求に8ヶ月かかってようやく加害者を特定したとします。公訴時効はまだ2年以上残っているため、安心してしまうかもしれません。

しかし、「犯人を知った日」は加害者の氏名・住所が判明した日であり、その日から既に8ヶ月が経過しているため、告訴期間(6ヶ月)は過ぎており、もはや刑事告訴する権利は永久に失われているのです。この「デュアル・デッドライン」を理解せずに行動すると、加害者に刑事責任を問う機会を逃すことになりかねません。加害者を特定したら、刑事告訴を検討する場合は、直ちに弁護士と相談する必要があります。

まとめ

専門家と共に描く、あなただけの解決への道筋

発信者情報の開示は、長い戦いの終わりではなく、始まりです。特定した加害者に対し、「和解交渉」「損害賠償請求訴訟」「刑事告訴」というカードを、いかに効果的に、そして戦略的に使っていくかが、あなたの被害を真に回復し、未来の平穏を守るための鍵となります。

どの選択肢がベストかは、加害者の社会的地位や経済力、反省の態度、そして何よりも「あなたが最終的に何を得たいのか」によって決まります。この最も重要な局面で、あなたの代理人として最善の解決へと導くのが弁護士の役割です。あなたの思い描く解決を実現するためぜひ専門家にご相談ください。


長瀬総合の情報管理専門サイト

情報に関するトラブルは、方針決定や手続の選択に複雑かつ高度な専門性が要求されるだけでなく、迅速性が求められます。誹謗中傷対応に傾注する弁護士が、個人・事業者の皆様をサポートし、適切な問題の解決、心理的負担の軽減、事業の発展を支えます。

【詳細・お問い合わせはこちら】


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業法務に関する様々な問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。企業法務でお悩みの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【チャンネルの登録はこちら】


NS News Letter|長瀬総合のメールマガジン

当事務所では最新セミナーのご案内や事務所のお知らせ等を配信するメールマガジンを運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

当事務所は多数の誹謗中傷の案件を担当しており、 豊富なノウハウと経験をもとに、企業の皆様に対して、継続的な誹謗中傷対策を提供しており、数多くの企業の顧問をしております。
企業の実情に応じて適宜顧問プランを調整することも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

【顧問弁護士サービスの詳細はこちら】

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了