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訴状が届いたらまず何をすべきか?

はじめに

その封筒は、あなたの人生を左右する「対話」の始まり

ある日突然、裁判所から「特別送達」と記された封筒が届く。それは、誰かがあなたを相手取って訴訟を起こしたことを意味する「訴状」です。多くの方にとって、これは人生で経験したことのない一大事であり、驚きや怒り、そして大きな不安を感じるのは当然のことです。

しかし、その封筒は一方的な攻撃の合図ではありません。むしろ、法的なルールに則って、自らの主張を述べ、権利を守るための「対話」が正式に開始された証なのです。ここで冷静さを失い、何もしないで放置してしまうことだけは避けなければなりません。訴状が届いたということは、あなたの言い分を公の場で主張する機会が与えられたということ。冷静に、そして迅速に正しい初動対応をとることが、あなたの権利を守り、不利益を最小限に食い止めるための第一歩となります。

この記事では、訴状を受け取った方が、まず何をすべきか、その具体的なステップと、なぜ早期に弁護士に相談することが重要なのかを、被告となられた方の視点に立って解説します。

Q&A

Q1. 訴状に書かれている内容に心当たりがありません。これは詐欺や何かの間違いではないでしょうか?

裁判所から「特別送達」という正規の方法で届いた訴状が、詐欺である可能性は低いといえます。誰かがあなたを相手として、正式に裁判所に訴えを提起したということです。内容に心当たりがない場合、それは原告との間に事実認識の隔たりがあるか、あるいは極めて稀ですが、同姓同名の別人への訴えが誤ってあなたに送達された(送達ミス)という可能性もゼロではありません。いずれにせよ、無視は禁物です。内容を精査し、法的に適切な対応をとるためにも、速やかに弁護士にご相談ください。

Q2. 答弁書の提出期限まであと数日しかありません。とても間に合いそうにないのですが、どうすればよいですか?

まずは諦めずに、弁護士に相談してください。事情を話せば、弁護士が裁判所に連絡し、提出期限の延長について交渉してくれる場合があります。また、もし詳細な反論が間に合わなくても、「請求棄却を求める」という争う姿勢だけを明確にした、形式的な答弁書(「とりあえずの答弁書」)を期限内に提出することで、最悪の事態(欠席判決)は回避できます。詳細な反論は、その後の準備書面という書面で展開していくことが可能です。

Q3. 弁護士に相談したり、依頼したりする費用が心配です。

多くの法律事務所では、初回相談を無料または比較的低額な料金で設定しています。まずは相談に行き、事件の見通しや、依頼した場合の弁護士費用の見積もりを確認することをお勧めします。勝訴しても、得られる利益より弁護士費用の方が高くなる「費用倒れ」のリスクについても、誠実な弁護士であれば説明してくれます。費用対効果を十分に検討した上で、依頼するかどうかを判断できます。

解説

被告が絶対に避けるべき「最悪の選択」―無視

「受け取らなければ、裁判は始まらないだろう」「居留守を使えばやり過ごせるかもしれない」。そう考える方がいるかもしれませんが、それは法的に最も危険な誤解です。日本の民事訴訟制度は、被告が意図的に訴状の受け取りを回避することを想定し、それでも手続きを進めるための仕組みを備えています。無視を決め込むという選択は、自ら反論の機会を放棄し、敗北を確定させる行為に他なりません。

差置送達(さしおきそうたつ)

あなたが受け取りを明確に拒否した場合でも、郵便配達員は正当な理由なく受け取りを拒否されたと判断すれば、その場に書類を置いていくことができます。これだけで、法律上の「送達」は完了したものとみなされます。つまり、「受け取らない」という意思表示は通用しないのです。

付郵便送達(ふゆうびんそうたつ)

不在や居留守を繰り返して書類を受け取らない場合、原告は裁判所に対して、あなたの住所地に書類を書留郵便で発送するよう申し立てることができます。この手続きが認められると、郵便物が発送された時点で、あなたが実際に受け取ったかどうかにかかわらず、送達が完了したとみなされます。

公示送達(こうじそうたつ)

住所が不明な場合などには、裁判所の掲示板に「あなた宛ての書類を預かっている」旨を掲示し、一定期間が経過すると送達が完了したとみなす手続きもあります。

 

これらの手続きが意味するのは、被告が訴訟の開始を回避する術はない、ということです。そして、送達が完了したにもかかわらず、あなたが応答しなければ、法的手続きはあなたに極めて不利な形で進行します。すなわち、原告の主張をすべて認めたものとみなされ(擬制自白)、あなたが出席しないまま敗訴判決(欠席判決)が下されます。この判決が確定すれば、それは「債務名義」という強制力を持つ公的な文書となり、最終的にはあなたの給与や預金、不動産などが差し押さえられる「強制執行」へと至るのです。

被告側の初動対応 3つの鉄則

訴状の入った封筒を前に、何から手をつけてよいか分からないかもしれません。以下の3つの鉄則に従って、落ち着いて行動しましょう。

鉄則1:すべての書類を確保し、「2つの期限」を意識する

まずは封筒からすべての書類を取り出し、何が入っているかを確認します。通常、以下の書類が入っています。

これらの書類が、今後のあなたの対応の基礎となります。一つも紛失しないよう、まとめて保管してください。そして、「口-頭弁論期日呼出状」をよく見て、以下の2つの日付をカレンダーや手帳に大きく書き写してください。これは、あなたの運命を左右する最も重要な情報です。

鉄則2:事実関係の時系列メモを作成する

弁護士に相談する前に、今回のトラブルについて、これまでの経緯を時系列で簡単にまとめておきましょう。「いつ、どこで、誰が、何をしたか」を客観的に書き出すことで、頭の中が整理され、弁護士への説明がスムーズになります。手元にある契約書やメール、領収書などの関連資料も整理しておくと、より的確なアドバイスを受けられます。

鉄則3:ただちに弁護士を探し、予約を入れる

上記の確認が終わったら、すぐに弁護士に相談する予約を取ってください。これが最も重要かつ確実な行動です。一人で訴状を読み解き、法的に適切な反論を組み立てるのは至難の業です。訴状を受け取ってから第1回期日までは、通常1ヶ月から1ヶ月半程度しかありません。この限られた時間の中で、専門家である弁護士に相談することで、法的な状況が明確になり、何をすべきかが見えてきます。一人で抱え込む精神的な負担が軽減され、冷静さを取り戻すことができます。

まとめ

冷静な初動が、未来の選択肢を増やす

裁判所から訴状が届くという経験は、誰にとっても衝撃的な出来事です。しかし、それは決して人生の終わりではありません。冷静な初動対応は、和解交渉、反論、あるいはダメージの最小化といった、あなたの未来の選択肢を守るための重要な行動です。パニックにならず、まずは落ち着いて中身と期限を確認し、そして一人で抱え込まずに、できる限り早く専門家である弁護士に相談すること。それが、この困難な状況を乗り越えるための第一歩です。


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