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顧問弁護士と訴訟代理人の違いと連携:企業法務における留意点

はじめに

企業法務における外部弁護士活用の重要性

現代の企業経営は、グローバル化の進展、技術革新の加速、そして法規制の複雑化といった要因により、かつてないほど多様かつ高度な法的リスクに晒されています。このような環境下において、企業が持続的な成長を遂げ、競争優位性を維持するためには、専門家である弁護士の知見と経験を戦略的に活用することが不可欠となっています。特に、日常的な事業活動における法的助言から、万が一の紛争発生時における代理交渉や訴訟遂行に至るまで、外部弁護士が担う役割は広範かつ重要です。法務は単にリスクを回避するための守りの手段ではなく、事業機会を創出し、企業価値を高めるための攻めの戦略的要素としての側面も強めています。

このような認識のもと、企業は自社の状況やニーズに応じて、最適な法的サポート体制を構築する必要があります。その中でも、継続的な関係を築きながら日常的な法的支援を受ける「顧問弁護士」と、特定の紛争案件において訴訟活動を委任する「訴訟代理人」は、企業法務における外部弁護士活用の代表的な形態と言えるでしょう。

本稿の構成

本稿では、企業法務において重要な役割を担う「顧問弁護士」と「訴訟代理人」に着目し、それぞれの定義、役割、そして両者の間にある本質的な相違点を解説します。その上で、これらの異なる専門性が、企業の法的課題解決のためにどのように効果的に連携し得るのか、具体的な連携パターンやそのメリット、さらには連携を円滑に進める上での実務的なポイントについて解説します。

現代のビジネス環境は、国境を越えた取引の一般化や、人工知能(AI)、データプライバシーといった新しい技術領域の出現に伴い、これまでにない斬新な法的課題を生み出しています。これらの課題は、国内法務のみならず、例えばGDPR(EU一般データ保護規則)のような国際的な規制への対応や、AI開発・利用に伴う知的財産権の帰属、サイバーセキュリティインシデント発生時の法的責任など、高度な専門性と先見性が求められる分野に及んでいます。このような状況下では、一人の弁護士やジェネラリスト的なアプローチだけでは十分な対応が困難となるケースが増えています。企業は、進化し続ける法的状況を日常的に把握し、予防的な観点から助言を提供する顧問機能と、国境を越えた紛争や技術関連の特殊な紛争が発生した際に、専門的な訴訟遂行能力を持つ訴訟代理人機能の両方を必要としています。したがって、これらの異なる法的専門性をいかに適切に理解し、効果的に組み合わせて管理するかは、単なる法務部門の業務運営上の課題に留まらず、企業全体の戦略的な意思決定における重要な要素となっています。本稿が、皆様にとって、より効果的かつ戦略的な法務体制の構築に向けた実践的な指針を提供できれば幸いです。

顧問弁護士とは

定義と基本的役割

顧問弁護士とは、企業または個人事業主と継続的な顧問契約を締結し、日常的に発生する法律相談に応じるとともに、企業活動に伴って生じ得る様々な法的問題の予防策の検討や、実際に問題が発生した際の初期対応などを支援する弁護士を指します。顧問弁護士は、単に法律に関する質問に答えるアドバイザーという立場に留まらず、企業の事業内容や経営方針、社風などを深く理解した上で、長期的な視点から企業経営を法務面でサポートする「法務パートナー」としての役割を期待される存在です。有事の際には責任をもって対応することをコミットし、平時から企業との信頼関係を構築することが求められます。

主な業務範囲と予防法務における機能

顧問弁護士の業務範囲は多岐にわたります。具体的な相談例としては、契約書の作成・レビュー、新規事業立ち上げに関する法的助言、コーポレートガバナンス体制の整備、各種社内規程の策定支援、コンプライアンス体制の構築・運用サポート、人事労務問題(採用から解雇まで)への対応、知的財産権(特許権、商標権、著作権等)の保護戦略、M&Aや事業承継に関する法務デューデリジェンスや契約交渉の支援などが挙げられます。

これらの業務の中でも特に重要なのが、「予防法務」です。予防法務とは、法的紛争の発生を未然に防ぐこと、あるいは紛争が発生した場合でも企業が有利な立場で、かつ迅速に解決できるよう、事前に法的な対策を講じておく取り組みを指します。具体的には、取引基本契約書や秘密保持契約書等の各種契約書の整備、就業規則や賃金規程、育児介護休業規程などの人事関連規程の最新法令への適合性確認と改訂、ハラスメント防止研修やコンプライアンス研修の実施、自社の製品やサービスが他社の知的財産権を侵害していないかの事前チェックなどが含まれます。これらの活動を通じて、企業が潜在的な法的リスクを早期に発見し、適切な対応をとることで、紛争解決にかかるコストや時間、さらには企業イメージの低下といった損失を最小限に抑えることを目指します。

契約形態と企業との関係性

顧問弁護士との契約は、一般的に月額または年額の顧問料を支払う形態の委任契約となります。この契約に基づき、企業は顧問契約で定められた範囲内の法律相談や簡易な書面作成、リーガルチェックなどの法務サービスを継続的に受けることができます。顧問料の範囲を超える専門的な調査や、訴訟対応、M&A案件などの個別具体的な案件については、別途費用が発生することが一般的ですが、その際にも、顧問契約を締結していることで弁護士費用が割引されるケースも見られます。

企業の規模や業種、直面する法的課題の特性によっては、特定の専門分野(例えば、知的財産権、労働法、国際取引など)に強みを持つ複数の顧問弁護士と契約している企業も少なくありません。顧問弁護士との関係性において最も重要なのは、単なる業務委託先としてではなく、企業の事業内容、組織文化、経営戦略、さらには過去の経緯や業界特有の慣行までをも深く理解した上で、企業の実情に即した最適な法的アドバイスを提供できるような、信頼に基づいた長期的なパートナーシップを構築することです。日常的に些細なことでも気軽に相談でき、経営者が法的な判断に迷った際に、携帯電話で直接意見を求められるような、風通しの良い関係性が理想とされます。もし、顧問弁護士に対して遠慮してしまい、気軽に相談できないような関係であれば、月額の顧問料に見合う価値を得ることは難しいでしょう。

顧問弁護士への継続的な関与は、単なる業務運営上のコストではなく、戦略的な投資と捉えるべきです。顧問弁護士が企業の内部事情や事業特性を深く理解することにより、潜在的なリスクを早期に察知し、予防策を講じることが可能となります。これは、将来発生し得たであろう紛争にかかる莫大な費用や、企業ブランドの毀損といった無形の損害を未然に防ぐことに繋がり、結果として企業価値の保全に貢献します。さらに、顧問弁護士の存在を対外的に示すことは、コンプライアンス体制が整備されている企業であるとの印象を与え、取引先や金融機関、さらには優秀な人材からの信頼を高める効果も期待できます。このように、顧問弁護士との連携は、単なる質疑応答を超え、法的な洞察を事業計画に統合し、競争優位性の確立や重大な損失回避に繋がる戦略的パートナーシップへと昇華し得るのです。

また、顧問弁護士を選定する際には、特定の法分野における専門性(例えば知的財産や労働法など)も重要ですが、それと同等以上に、複雑な法律問題を法務部門以外の社員にも分かりやすく説明できるコミュニケーション能力や、企業の業務遂行のスピード感、組織文化との適合性といった「ソフトスキル」の側面が、顧問契約の効果を最大化する上で重要となります。顧問料を支払っているにも関わらず、相談を躊躇してしまうような関係性では、その価値は半減してしまいます。高度な専門知識を有していても、事業部門の担当者と効果的に意思疎通が図れなかったり、企業の求める対応速度と弁護士の応答スタイルが合致しなかったりする場合、その顧問弁護士は十分に活用されない可能性があります。したがって、顧問弁護士の選定プロセスにおいては、技術的な専門性と並んで、これらのコミュニケーション能力や相性といった要素を慎重に評価することが、投資対効果の高い顧問契約を実現するための鍵となります。

訴訟代理人とは

定義と民事訴訟における役割

訴訟代理人とは、主に民事裁判において、当事者本人(この場合は企業)の意思に基づいて選任され、その当事者の名において訴訟行為を行い、または相手方からの訴訟行為を受ける包括的な権限を有する者を指します 。日本の民事訴訟法では、原則として弁護士でなければ訴訟代理人となることはできません。

訴訟代理人は、原告側・被告側いずれの立場においても、訴訟戦略の立案から関与し、訴状、答弁書、準備書面といった裁判所に提出する各種書面の作成、証拠の収集および提出、口頭弁論期日への出頭と弁論活動、証人尋問、そして和解交渉に至るまで、訴訟の追行に関わる一切の活動を専門家として遂行します。刑事事件における「弁護人」とは区別され、民事事件においては「訴訟代理人」という呼称が用いられます。

選任プロセスと代理権の範囲

訴訟代理人の選任は、企業が特定の弁護士または法律事務所との間で、特定の訴訟事件を対象とした委任契約を締結することによって行われます。この委任契約書においては、「どの事件を、どこまで弁護士に任せるか」という委任の対象(事件の表示・範囲)を明確に記載することが、依頼者と弁護士双方にとって極めて重要となります。具体的には、事件名、相手方、管轄裁判所などの基本情報に加え、委任する業務範囲(例:示談交渉からか、訴訟の第一審のみか、控訴審・上告審まで含むか、強制執行手続きまで含むかなど)を明記します。そして、選任された弁護士は、その代理権を証明するために、依頼者である企業から交付された委任状を裁判所に提出する必要があります。

訴訟代理人の代理権の範囲は、原則として、委任された訴訟事件の追行に必要な一切の行為に及びます。これには、反訴に対する応訴や訴訟参加も含まれます。しかし、反訴の提起、上訴の提起(控訴・上告)、和解契約の締結、請求の放棄・認諾といった、訴訟の結果に重大な影響を及ぼす特に重要な訴訟行為については、包括的な代理権とは別に、個別の特別授権が必要とされています。したがって、企業は、これらの行為を訴訟代理人に委ねる場合には、その旨を委任状に明記するか、別途授権の手続きを行う必要があります。

訴訟代理人の委任範囲を契約書で明確に定めることは、単なる契約上の形式的な手続きに留まりません。これは、訴訟戦略を企業の広範な事業目標やリスク許容度と整合させる上で、直接的な影響を及ぼす戦略的な判断です。委任範囲が曖昧であったり、企業の意図と乖離していたりすると、訴訟代理人が企業の全体的な利益に必ずしも合致しない訴訟活動(例えば、早期の和解が事業上望ましいにも関わらず、法的に徹底抗戦するなど)を展開してしまうリスクや、逆に必要な対応が遅れるといった事態を招きかねません。特に、上訴や和解といった重要な訴訟行為には特別授権が必要とされることからも、委任契約締結時のスコープに関する協議は、企業と訴訟代理人が訴訟のゴールと戦略を共有するための最初の、そして極めて重要な戦略的チェックポイントとなります。

また、顧問弁護士との継続的な関係とは異なり、訴訟代理人との契約は、通常、特定の紛争の発生を契機とし、その紛争の解決をもって終了する、期間限定のものです。この性質の違いは、訴訟代理人の選定アプローチにも影響を与えます。顧問弁護士の場合は企業全体への深い理解や長期的な関係性が重視されるのに対し、訴訟代理人の選定においては、当該紛争の具体的な主題(例:特許侵害、複雑な契約不履行など)に関する高度な専門知識と、類似訴訟における豊富な経験および実績が、より決定的な要素となります。もちろん、企業活動への一定の理解は有益ですが、特定の法廷闘争における専門性と戦術遂行能力が最優先されるべきでしょう。

顧問弁護士と訴訟代理人の主な違い

顧問弁護士と訴訟代理人は、いずれも企業を法的にサポートする弁護士ですが、その役割、関与の仕方、契約関係などにおいて違いが存在します。これらの違いを理解することは、企業が法的ニーズに応じて適切な弁護士サービスを選択し、効果的に活用する上で重要です。

関与のタイミングと目的

契約関係と継続性

企業情報の把握度と専門性

費用体系の比較

顧問弁護士と訴訟代理人の比較概要

これらの違いをより明確に理解するために、以下の表に主要な比較項目をまとめます。

項目 顧問弁護士 訴訟代理人
主な役割 予防法務、日常的法的助言、事業支援 紛争解決、訴訟追行
契約形態 継続的顧問契約(委任) 事件単位の委任契約
関与期間 長期的・継続的 事件発生から終結まで
主たる焦点 紛争の未然防止、リスク管理 権利擁護、損害回復、紛争の終局的解決
典型的な業務範囲 契約書レビュー、社内規程整備、コンプライアンス、人事労務相談 訴訟戦略立案、書面作成、法廷弁論、証拠収集、和解交渉
費用構造 月額・年額固定顧問料(範囲外業務は別途) 着手金・成功報酬、タイムチャージ
企業理解の深さ 深い(継続的関係による) 事件関連事項が中心(専門分野特化)

顧問弁護士と訴訟代理人は、それぞれ異なる役割を担いますが、両者の機能は必ずしも排他的なものではなく、むしろ相互に補完し合い、大きな相乗効果を生み出す可能性があります。顧問弁護士が日頃から培ってきた企業内部の状況や事業特性に関する深い理解は、いざ訴訟が発生した際に、訴訟代理人が事件の背景や本質を迅速かつ正確に把握し、効果的な訴訟戦略を策定する上で貴重な情報源となります。例えば、顧問弁護士が関与していれば、紛争発生時に「状況を一から説明する必要がなく、迅速かつ的確な対応が可能になります」。これは、訴訟代理人が外部から新たに関与する場合に比べて、時間的にも質的にも大きなアドバンテージとなり得ます。逆に、訴訟を通じて明らかになった企業の契約上の不備やコンプライアンス上の弱点といった教訓は、顧問弁護士が主導する予防法務の取り組みにフィードバックされ、将来同様の紛争が再発することを防ぐための具体的な改善策へと繋げることができます。したがって、企業はこれらの役割の違いを認識しつつも、両者を孤立したものとして捉えるのではなく、それぞれの専門性を活かしながら、いかに連携させ、企業全体の法的リスク管理能力を高めていくかという視点を持つことが重要です。

企業法務における顧問弁護士と訴訟代理人の連携

企業が法的紛争に直面し、訴訟に発展した場合、あるいはその可能性が濃厚となった場合、顧問弁護士と訴訟代理人の効果的な連携は、企業にとって最善の解決を導き出し、損害を最小限に抑えるために不可欠となります。両者の専門性と知見を融合させることで、より適切な法的対応が可能となるのです。

連携の必要性とパターン

紛争が複雑化・長期化する現代において、単独の弁護士や法律事務所だけで全ての法的ニーズに対応することは困難な場合があります。特に、日常的な相談を通じて企業の内情を熟知している顧問弁護士と、特定の訴訟分野で高度な専門性を有する訴訟代理人がそれぞれの強みを活かして協力することで、より質の高い法的サービスが期待できます。

主な連携パターンとしては、以下の2つが考えられます。

顧問弁護士が訴訟代理人を兼任するケース

顧問弁護士が、当該紛争分野における訴訟経験も豊富である場合や、事件の規模や性質、緊急性などを考慮して兼任が合理的と判断される場合には、顧問弁護士自身が訴訟代理人として訴訟を遂行します。企業内弁護士が訴訟代理人となることも可能です。このメリットは、顧問弁護士が既に企業の事業内容、経営判断の背景、関連する社内事情などを深く理解しているため、事件のポイントを迅速に把握し、一から情報を収集・分析する手間を省き、迅速かつ一体的な対応が可能となる点です。特に、初動の速さが求められる仮処分命令申立事件などでは大きな強みとなります。

ただし、訴訟が高度な専門性を要求する分野(例:複雑な特許訴訟、国際的な大型訴訟など)である場合や、顧問弁護士の専門分野と異なる場合には、その分野を専門とする外部の訴訟代理人に委任する方が適切なケースもあります。

顧問弁護士と外部の訴訟専門弁護士が協力するケース

このパターンでは、顧問弁護士は直接の訴訟代理業務は行わず、社内の法務担当者や経営陣と共に、外部から選任した訴訟専門の弁護士をサポートする役割を担います。具体的には、訴訟代理人に対して、事件に関連する社内情報の提供、証拠収集の協力、社内関係者へのヒアリングのアレンジ、訴訟方針に関する企業側の意向伝達、訴訟代理人からの法的助言の社内への展開、そして経営判断に必要な情報の整理と報告など、企業と訴訟代理人の間の円滑なコミュニケーションを促進する「橋渡し役」としての機能が期待されます。この場合、顧問弁護士が持つ企業への深い理解と、訴訟代理人が持つ特定の訴訟分野における専門知識や法廷戦術を効果的に融合させることが、連携成功の鍵となります。

連携によるメリット

顧問弁護士と訴訟代理人が効果的に連携することによって、企業は以下のような多くのメリットを享受できます。

効果的な連携を実現するためのポイント

顧問弁護士と訴訟代理人の連携を成功させるためには、以下の点が重要となります。

効果的な連携体制の構築は、単にプロセスやシステムを整備するだけでは達成できません。そこには、関与する弁護士(顧問弁護士、訴訟代理人、社内弁護士)と企業の担当者との間の人間関係や相互の信頼感が影響します。例えば、顧問弁護士は長期的な関係性の中で「相性はとても重要」とされ、複数の弁護士が関与する場合でも「クライアントとの信頼関係を築くための連携」が求められます。もし、関係者間に信頼関係の欠如やコミュニケーションスタイルの著しい不一致、専門家としての敬意の不足などがあれば、情報共有は滞り、戦略的な議論は非生産的となり、企業は断片的または矛盾した助言を受け取ることになりかねません。したがって、重要な訴訟案件のために法務チームを編成する際には、形式的な連携体制の構築と並行して、関係者間の良好な人間関係が構築できるかという、いわば「ソフトな」側面も慎重に見極める必要があります。

さらに、特定の訴訟における連携は、それ自体が学習と改善の機会となるべきです。訴訟チームが紛争解決の過程で得た知見(例えば、契約書の不備、コンプライアンス体制の欠陥、紛争の原因となった事業慣行の問題点など)は、体系的に顧問弁護士や社内法務チームにフィードバックされ、予防法務の強化や将来同様の紛争を回避するための具体的な施策へと繋げられるべきです。法務担当者は紛争の再発防止策を検討すべきであるとの指摘もあります。これにより、訴訟は単なる事後対応のコストセンターではなく、組織的な学習とリスク削減のための貴重な機会へと転換され得るのです。訴訟終結後には、顧問弁護士、訴訟代理人、社内関係者が参加するデブリーフィング(事後検討会)を実施し、そこでの教訓を組織の知識として蓄積し、継続的な法務リスク管理態勢の向上に役立てていくことが望まれます。

企業法務における留意点

企業が法的リスクを効果的に管理し、事業活動を円滑に進めるためには、顧問弁護士や訴訟代理人の選定・活用方法、予防法務の徹底、社内体制の整備など、多岐にわたる点に留意する必要があります。

顧問弁護士選定・活用のポイント

顧問弁護士は企業の「法務パートナー」として長期的な関係を築くため、その選定は慎重に行うべきです。

訴訟代理人選任時の判断基準と注意点

特定の紛争案件について訴訟代理人を選任する際には、以下の点を総合的に評価する必要があります。

予防法務の徹底と紛争未然防止

顧問弁護士の最も重要な役割の一つは予防法務であり 4、企業はこの機能を最大限に活用して、紛争の未然防止に努めるべきです。

社内法務部門との連携体制

企業内に法務部門が存在する場合、その法務部門は、外部弁護士(顧問弁護士および訴訟代理人)と、経営陣や各事業部門との間の重要な「架け橋」としての役割を担います。

連携における潜在的課題(例:意見の対立、利益相反)とその対策

顧問弁護士や訴訟代理人との連携、あるいは複数の弁護士が関与する際には、いくつかの潜在的な課題が生じる可能性があります。

企業が複数の外部弁護士(顧問弁護士、専門分野ごとの訴訟代理人など)を戦略的に活用するようになると、社内法務部門の役割は、単なる法律アドバイザーから、これらの外部法律専門家を効果的に「マネジメント」する戦略的機能へと進化します。これには、外部弁護士の選定基準の策定、委任契約条件の交渉、業務遂行状況のモニタリング、パフォーマンス評価、そして何よりも、外部弁護士の活動が企業全体の事業戦略と整合しているかを確認し、調整する高度な能力が求められます。これは、単に法務知識が豊富であるだけでなく、プロジェクトマネジメント能力、法律関連費用の予算管理能力、そして法律サービス提供者との戦略的な交渉能力といった、より広範なビジネススキルを社内法務担当者が身につける必要があることを意味します。

利益相反の問題は、単に技術的な法律遵守の問題に留まらず、もし不適切に対応された場合、企業にとって深刻なレピュテーション(評判)上のダメージをもたらす可能性があります。例えば、弁護士が独立した調査を行う立場と、その後同じ事件で会社の代理人となる立場を兼ねることは、調査の中立性・公正性に対する疑念を生じさせかねません。このような状況は、社会からの信頼を損なうだけでなく、従業員の士気低下(特に内部調査の場合)や、法的な助言の信頼性、さらには訴訟の結果にまで悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、企業は、潜在的な利益相反を早期に、かつ透明性をもって特定し、管理するために、弁護士自身よりもさらに注意深い姿勢で臨む必要があります。場合によっては、調査と弁護といった明確に異なる役割に対しては、完全に別の法律事務所の弁護士を起用するといった断固たる措置も検討すべきでしょう。

また、顧問弁護士の選定において費用だけで判断すべきではないという点はご留意ください。一見すると日常的で単純に見える顧問業務に対して、費用が安い弁護士を選任することは、短期的にはコスト削減に見えるかもしれません。しかし、そのような選択は、他の弁護士であれば見抜けたはずの潜在的なリスクを見過ごし、後日、高額な費用を要する訴訟へと発展させてしまう可能性があります。顧問弁護士の真の価値は、まさにこのような費用のかさむ紛争へのエスカレーションを予見し、未然に防ぐ能力にあります。予防法務の有効性は、契約書やコンプライアンス体制、事業慣行に潜む微妙なリスクを見抜く洞察力と経験に左右されます。初期の顧問料は低く抑えられたとしても、これらの見落としが原因で訴訟が発生した場合の長期的なコストは、高額になる可能性があります。したがって、顧問弁護士費用は、リスク削減への投資として捉えるべきであり、知見のある弁護士に対する初期費用は高くとも、それが将来の重大な損失を回避するための適切な支出となり得るのです。

おわりに

顧問弁護士と訴訟代理人の適切な理解と連携の重要性

本稿で詳述してきた通り、顧問弁護士と訴訟代理人は、それぞれ企業法務において担うべき役割、求められる専門性、そして企業との関与のあり方において明確な違いを有しています。顧問弁護士は、継続的な関係を通じて企業の「かかりつけ医」のように日常的な法的健康管理と疾病予防(紛争予防)に努める一方、訴訟代理人は、特定の疾病(紛争)が発生した際に専門知識と技術をもって治療(訴訟遂行)にあたる「専門医」に喩えることができるでしょう。

企業経営者は、これらの違いを正確に理解した上で、平時においては顧問弁護士を積極的に活用して予防法務を徹底し、有事の際には、事案の性質や専門性に応じて最適な訴訟代理人を選任し、必要に応じて顧問弁護士との効果的な連携体制を構築することが肝要です。この使い分けと連携こそが、法的リスクを最小化し、企業利益を最大化するための鍵となります。

企業価値向上に資する戦略的法務体制の構築に向けて

法的リスクを適切に管理し、紛争を未然に防ぎ、万が一紛争が発生した場合にも迅速かつ有利に解決することは、現代企業にとって、財務的損失の回避に留まらず、社会的信用の維持、ブランド価値の向上、そして持続的な成長を実現するための不可欠な経営基盤です。

企業にとって最適な法的サポート体制は、固定的なものではなく、企業の成長段階、事業領域の拡大、国内外の事業環境の変化、そして変化するリスク許容度に応じて、常に進化し続けるべきものです。企業が新たな市場に進出したり、革新的な製品・サービスを開発したりする際には、それに伴い新たな法的リスクプロファイルが形成されます。このような変化に対応するためには、初期に締結した顧問弁護士との契約内容や、訴訟代理人を選任する際の基準が、現状のニーズに対して依然として適切であるかを定期的に見直し、必要に応じて調整していくことが求められます。本稿で提示した様々な留意点は、一度確認すれば終わりというチェックリストではなく、企業がその法的枠組みを事業の進化と戦略的に整合させ続けるための、継続的な経営管理プロセスの一部として捉えるべきでしょう。

本稿が、読者の皆様の企業における、より戦略的かつ実効性の高い法務体制の構築、そして外部弁護士のより効果的な活用の一助となり、ひいては企業価値の維持・向上に貢献できれば幸いです。


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