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【宗教法人法】代表役員・責任役員の権限と義務、選任・解任手続きを弁護士が解説

はじめに

寺院の運営は、住職一人の力で行われているように見えるかもしれませんが、法律上は、宗教法人という一つの組織として、明確なルールに基づいて運営されなければなりません。その組織運営の中心を担うのが、宗教法人法に定められた「役員」です。

特に「代表役員」と「責任役員」は、寺院の意思決定と業務執行における車の両輪ともいえる重要な存在です。多くの寺院では住職が代表役員を兼務していますが、その法的な立場や権限、そして伴う義務や責任について、正確に理解されているケースは必ずしも多くありません。また、責任役員も、単なる名誉職ではなく、法人の重要事項を決定する重い責任を負っています。

役員の選任や解任といった手続きに不備があれば、法人の意思決定の効力が争われたり、内部での紛争に発展したりするリスクも抱えています。

この記事では、健全な寺院運営の要である「代表役員」と「責任役員」に焦点を当て、それぞれの役割(権限と義務)、そしてその選任・解任に関する法的な手続きや注意点について、Q&Aを交えながら解説します。

Q&A

Q1. 私は長年この寺の住職を務めていますが、法律上、自動的に「代表役員」になるのでしょうか?また、代表役員にはどのような権限があるのですか?

住職であるからといって、自動的に「代表役員」になるわけではありません。宗教法人法上の「代表役員」は、あくまでその法人の規則(寺院のルールブック)で定められた手続きによって選ばれる必要があります。多くの寺院では規則に「住職の職にある者が代表役員となる」といった定めがあるため、結果的に住職が代表役員を兼ねるケースが一般的ですが、これは法律で決まっているわけではなく、各寺院の規則によります。

代表役員の最も重要な権限は、「法人を代表し、その事務を総理する」ことです(宗教法人法第18条)。具体的には、対外的に寺院を代表して契約を締結したり、日常的な業務全般を執行したりする権限を持ちます。ただし、不動産の売却など重要な行為については、後述する「責任役員会」の決議が必要となるなど、その権限は無制約ではありません。

Q2. 責任役員には、地域の有力な檀家総代の方々になってもらっています。責任役員の法的な義務や責任にはどのようなものがありますか?万が一、寺院に損害を与えてしまった場合、個人で賠償責任を負うこともあるのでしょうか?

はい、責任役員は名誉職ではなく、法律上の重い義務と責任を負っています。最も基本となる義務は「善管注意義務(善良な管理者の注意をもって職務を行う義務)」です。これは、一般的な常識と専門的な知識を持つ人であれば当然払うべき注意を払って、寺院の運営に関与しなければならない、という義務です。

この義務に違反したり、その他の任務を怠ったりした結果、寺院に損害を与えた場合、責任役員は個人として、その損害を賠償する責任を負う可能性があります(宗教法人法第11条2項)。例えば、代表役員による不適切な財産処分を、責任役員会で安易に承認してしまった結果、寺院が損害を被ったようなケースでは、その決議に賛成した責任役員も連帯して賠償責任を問われることがあります。

Q3. 責任役員の一人が、寺院の活動に非協力的で、他の役員と常に対立するなど問題行動が目立ちます。このような責任役員を辞めさせる(解任する)ことはできますか?

はい、規則に解任に関する定めがあれば、その手続きに従って解任することは可能です。宗教法人法では、役員の解任について、「規則で定めるところにより」行うとされています。

したがって、まずはご自身の寺院の規則に、役員の解任事由(例:「心身の故障のため職務の執行に堪えないとき」「職務上の義務に違反し、その他役員たるにふさわしくない行為があったとき」など)や、解任のための手続き(例:「責任役員の定数の3分の2以上の議決」など)が定められているかを確認する必要があります。

解任は、その役員の身分を一方的に剥奪する重大な行為ですので、感情的な対立だけでなく、解任事由に該当する客観的な事実と証拠に基づき、規則に定められた手続きを厳格に守って進めることが不可欠です。手続きに不備があると、後から解任の無効を主張され、法的な紛争に発展するリスクがあります。

解説

寺院の役員構成(代表役員・責任役員・監事)

宗教法人法は、法人の適正な運営を確保するため、役員として「代表役員」「責任役員」「監事」を置くことを定めています。株式会社でいえば、代表役員が「代表取締役」、責任役員が「取締役」、監事が「監査役」に近いイメージです。

これらの役員がそれぞれの役割と責任を果たすことで、寺院のガバナンス(組織統治)は機能します。

代表役員の権限・義務と選任・解任

権限(宗教法人法第18条、第21条)

代表役員は、その名の通り、法人を代表する権限を持ちます。

ただし、この権限は無制限ではありません。例えば、不動産や宝物の処分といった重要な財産に関する行為は、責任役員会の決議を経なければならず、代表役員が単独で決定することはできません。また、代表役員の権限に加えた制限(例:「100万円以上の契約には責任役員会の承認が必要」など)は、登記をしなければ、その事実を知らない第三者に対抗(主張)することができません。

義務と責任

代表役員は、強力な権限を持つ一方で、重い義務と責任を負います。

選任・解任

代表役員の選任・解任は、必ずその寺院の規則の定めに従って行わなければなりません。

責任役員の権限・義務と選任・解任

権限と役割

責任役員の最も重要な役割は、合議体である「責任役員会」を構成し、法人の重要事項の意思決定を行うことです(宗教法人法第19条)。責任役員会は、法律上、宗教法人の事務のうち、規則で定められた事項の決定機関とされています。

具体的には、以下のような事項を決議するのが一般的です。

このように、責任役員は代表役員の業務執行を監督し、法人の進むべき方向性を決定する重要な役割を担っています。

義務と責任

責任役員も、代表役員と同様に、法人に対して善管注意義務を負います。そして、任務を怠ったことにより法人に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負います。この責任は、決議に賛成した責任役員が連帯して負うことになる場合があります。安易に代表役員の提案に賛成するのではなく、内容を十分に吟味し、法人のために最善の判断は何かを考えて議決権を行使する責務があります。

選任・資格(第22条)

責任役員の選任も、規則の定めに従います。ただし、法律で以下の要件が定められています。

退任・解任

任期満了、辞任、死亡、欠格事由への該当によって退任します。解任については、代表役員と同様、規則の定めに従いますが、手続きの正当性をめぐって紛争になりやすい点も同様です。

弁護士に相談するメリット

寺院の役員に関する法務は、専門的で、紛争の火種となりやすい分野です。寺院法務に詳しい弁護士に相談することで、以下のようなサポートが期待できます。

規則のリーガルチェックと整備

現在の寺院の規則が、法律の要件を満たしているか、また、役員の選任・解任手続きが明確に定められているかなどを診断し、実情に合った実用的な規則への見直しをサポートします。

役員の法的責任に関するアドバイス

代表役員や責任役員が日々の運営で注意すべき法的リスク(善管注意義務違反など)について具体的にアドバイスし、健全なコンプライアンス体制の構築を支援します。

適法な役員交代の実行支援

特に役員の解任は、法的に有効な手続きを踏まないと無効となるリスクがあります。解任の正当な理由の整理から、議事録の作成、通知書の送付まで、法的に万全な手続きの実行をサポートします。

役員間の紛争解決

役員間の意見対立や、解任をめぐるトラブルが発生してしまった場合に、代理人として冷静な交渉を行い、法的手続き(地位確認訴訟など)に発展した際も、寺院の利益を守るために活動します。

登記手続きの円滑な連携

役員の就任・退任に伴う変更登記は、法律上の義務です。提携する司法書士と連携し、登記手続きを漏れなく、スムーズに進めることができます。

まとめ

代表役員と責任役員は、寺院という宗教法人を動かすためのエンジンであり、羅針盤です。住職が代表役員として強力なリーダーシップを発揮することも重要ですが、同時に、責任役員会がその業務執行を適切に監督し、重要事項を審議・決定するというチェック機能が働くことで、初めて健全な法人運営が実現します。

そのためには、各役員が自らの権限と義務を正しく理解し、その選任・解任が寺院の「規則」というルールに則って適正に行われることが前提となります。

役員の権限や義務、手続きについて少しでも不明な点がある場合や、役員間で紛争の兆しが見える場合は、それが深刻な問題に発展する前に、ぜひ一度、寺院法務に精通した弁護士にご相談ください。


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