はじめに

従業員が会社を離れる際、「自己都合退職」と「会社都合退職」に分類されることは多くの方がご存じかと思います。失業保険(雇用保険)の給付を受ける際の扱いも違えば、企業としての手続き・対応も異なります。しかし、実際には「会社の指示で辞めさせられたのに自己都合とされた」「勧奨退職が会社都合退職なのか分からない」など、トラブルが生じやすい場面が少なくありません。

本記事では、自己都合退職と会社都合退職の法的区別や、失業保険上のメリット・デメリット、さらに企業側が注意すべき手続きやトラブル事例を解説します。退職をめぐる誤解を解消し、不要な紛争を防ぐために、ぜひ最後までご覧ください。

Q&A

Q1. 自己都合退職と会社都合退職は、何が具体的に違うのでしょうか?

一般的には、「自己都合退職」は労働者が自発的に辞める場合、「会社都合退職」は解雇や整理解雇、または会社が勧奨して辞めさせた場合などが該当します。失業保険での待機期間や給付開始時期が異なり、会社都合退職の方が早期給付・給付日数が多いという違いがあります。

Q2. 会社から勧奨を受けて辞めた場合は自己都合ですか?それとも会社都合ですか?

ケースバイケースです。退職勧奨でも、実質的に解雇に近い「強制的な勧奨」であれば会社都合退職と扱われる可能性が高いです。一方、社員が自発的に合意して辞めた場合は自己都合退職とされる場合もあります。実態としては、ハローワークや裁判所が「労働者の意思を尊重したか」「不当な圧力がなかったか」を重視します。

Q3. 会社都合退職だと会社に不利益はあるのでしょうか?

会社都合退職に該当すると、失業保険の給付が早まったり給付期間が長くなるため、雇用保険料負担への影響や社会的イメージ面の影響(解雇扱いが多い会社という評判)があります。また、助成金や補助金の申請時に会社都合退職が多いとマイナス評価を受けることも考えられます。

Q4. 退職届の書き方で「一身上の都合」と書いてしまった後でも、会社都合退職に変更は可能ですか?

可能性はあります。実際の事情が「解雇に近い辞めさせ方」や「退職勧奨による辞職」などであれば、ハローワークに会社都合退職として認定される場合もあります。退職届や離職票に記載された内容と実態が食い違う場合は、労働者が異議申立を行い、判定が覆ることも珍しくありません。

Q5. 離職票の「離職理由」は誰が決めるのですか?

離職票は会社が作成し、ハローワークに提出しますが、最終的な離職理由の判断はハローワークが行うことになります。会社の記載と労働者の申告が異なる場合、ハローワークが両者から事情聴取し、自己都合か会社都合かを判定します。

解説

自己都合退職と会社都合退職の法的区分

自己都合退職

  • 労働者が自らの意思で退職を申し出る場合。「引っ越し」「結婚」「転職」など個人的理由や「仕事が合わない」「給与に不満」なども含まれる。
  • 失業保険では待機期間7日の後、2カ月間の給付制限(合計で3カ月後から給付開始)が一般的。

会社都合退職

  • 会社が解雇する場合や整理解雇、退職勧奨で辞めさせられた場合、契約更新拒否(雇止め)で労働者に責任がない場合など。
  • 失業保険では待機期間7日の後、すぐに給付が開始される(給付制限なし)など労働者に有利。
  • 解雇予告手当など、会社が従業員に対して一定の補償を行わなければならないケースが多い。

判断基準(実態重視)

名目より実質

  • 会社が「自己都合退職」と書かせても、実態が解雇に近い退職勧奨なら会社都合とされる。
  • 逆に、従業員が「解雇された」と言っても、実際には自発的に辞めたなら自己都合となる場合も。

ハローワークの判断

離職票の「離職理由」欄に会社側が記入しても、労働者が異議を申し立てればハローワークが実態を調査し判断する。

離職理由の証拠

面談記録やメール、録音などがある場合、そちらの内容が大きく影響する。

会社都合退職に該当する典型例

  1. 解雇(普通解雇・懲戒解雇・整理解雇)
    会社が一方的に契約を終了させる。
  2. 退職勧奨で拒否しづらい状況
    「辞めないなら解雇する」「配置転換や降格をする」と脅され、実質的に強制された。
  3. 雇止め(有期契約更新拒否)
    労働者に責任がなく、会社が更新しない理由も十分でない場合。
  4. 就業環境の変更
    給与大幅カット、過酷な勤務地変更など「辞めざるを得ない」ほどの環境悪化を会社が作り出した場合、実質会社都合と判断される可能性。

実務での注意点

  1. 離職票の発行
    退職後10日以内に離職票を発行。記載内容(離職理由)が実態と合っているか十分確認。
  2. 退職届や退職証明書
    退職理由の表現を従業員任せにせず、不当な圧力で書かせていないことを証明できるよう記録を残す。
  3. 紛争の回避策
    退職勧奨を行う場合は、必ず複数担当者で面談し、冷静に説明・記録を残す。従業員が希望すれば考慮期間を与える。
  4. 失業保険の手続き
    自己都合か会社都合かにより、従業員の給付開始時期や期間が変わる。誤った記載で従業員が不利益を被ると紛争化しやすい。

弁護士に相談するメリット

退職理由をめぐる紛争は残業代トラブルと並んで多くの企業で発生しています。弁護士に相談すると、以下の点でサポートが得られます。

  1. 事前のリスク診断
    従業員が「会社都合退職だ」と主張する可能性があるか、退職勧奨が適法かなどを見極め、紛争リスクを把握。
  2. 退職手続きのアドバイス
    希望退職・退職勧奨の進め方、面談時の注意、離職票の記載例など具体的に指導。
  3. 紛争時の交渉・訴訟対応
    従業員がハローワークや労働審判で「会社都合」と主張した場合の証拠整理や戦略立案。
  4. 労務全般の一括サポート
    退職関連だけでなく、就業規則改訂や懲戒処分、解雇問題など企業が抱える労務リスク全般をトータルカバー。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、会社都合・自己都合退職をめぐる法律相談や紛争対応を数多く手掛けており、実務に即した最適なアドバイスを提供しています。

まとめ

  • 自己都合退職は労働者が自ら辞めるケースであり、会社都合退職は解雇・整理解雇・強制的な退職勧奨などが含まれます。
  • 会社都合退職と自己都合退職の区別は、実態重視で判断され、企業が離職票に記載しても、ハローワークが異なる判断を下すこともあります。
  • 従業員が本当に自発的に辞めたのか、圧力や脅しがあったのかがポイントとなり、違法な退職強要と認定されると企業が損害賠償請求を受けるリスクがあります。
  • 弁護士に相談すれば、退職理由の正当性確認や退職手続きの適法性、紛争対応まで幅広くサポートを受けられるため、企業として不要なリスクを抑えられます。

企業は、従業員が円満に退職できるよう配慮しながら、離職票や退職理由証明書の記載内容などを実態と合致させることが重要です。


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