はじめに
インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損に対して、発信者情報開示請求などの法的手続きを行い、ようやく投稿者が特定できたとしても、そこで問題が完全に解決するわけではありません。「誰が書き込んだのか」が判明した後、次に考えなければならないのが、実際にどのように被害の回復を図るか、具体的には「和解交渉(示談交渉)や謝罪要求」をどのように行うかという点です。
投稿者の身元が判明した後の行動次第で、被害者側が得られるメリットや再発防止の効果は大きく変わります。また、誹謗中傷の加害者に対して法的責任を追及するにあたっては、示談や謝罪広告を条件とする和解が比較的スムーズに被害を収束させる手段として機能することも多いです。本稿では、投稿者特定後の和解交渉や謝罪要求のポイントを中心に、注意点やメリット、弁護士への相談の意義などを解説します。
Q&A
Q1:加害者を特定できたら、必ず示談交渉をすべきでしょうか?
示談交渉(和解交渉)は、法的紛争を訴訟ではなく話し合いで解決したい場合に有効な手段です。加害者側が謝罪や賠償を受け入れる意思があればスムーズに解決する可能性があります。しかし、加害者が応じない場合や誠意ある対応を拒否する場合、最終的には裁判を検討することになります。
Q2:謝罪要求をするメリットは何ですか?
被害者の名誉回復や精神的救済を図る上で、加害者に直接責任を認めさせ、謝罪文や謝罪広告を出させることには大きな意味があります。金銭的賠償と合わせて謝罪を得ることで、再発防止や被害回復を強くアピールできる効果があります。
Q3:示談交渉では、どのような条件を設定すればいいのでしょうか?
典型的には、(1)謝罪文や謝罪広告の掲載、(2)損害賠償金(慰謝料・営業損害)の支払い、(3)今後の誹謗中傷停止を約束させる、といった項目が盛り込まれます。細かい文面や実行期限などは弁護士を通じて交渉し、合意文書を作成します。
Q4:加害者が示談交渉を拒否した場合はどうなりますか?
その場合、被害者は正式に裁判を起こして損害賠償を求める道を選択できます。裁判所で判決が下りれば強制執行手段を使えるため、支払い能力がある加害者ならば最終的に賠償金を回収できる可能性があります。
Q5:企業が被害者の場合、謝罪広告を求めるメリットはありますか?
はい。企業の場合、不当なデマや中傷に対して謝罪広告を出させることで、取引先や顧客に対して企業の正当性を示し、ブランドイメージの回復を促せるメリットがあります。消費者からの誤解を解く効果も期待できます。
解説
加害者特定後の選択肢
- 示談交渉(和解交渉)を試みる
- 加害者が投稿内容を認め、謝罪や賠償に応じるならば、裁判をせずに合意で解決する方が迅速かつ費用負担が少ない
- 示談書や合意書を締結し、謝罪広告や賠償金支払いを条件に和解
- 裁判手続きで損害賠償を求める
- 加害者が示談に応じない場合や、示談条件に納得できない場合、最終的に民事訴訟を提起して判決を得る
- 勝訴判決を得れば強制執行で賠償金回収を図ることが可能
- 刑事告訴を行う
- 特に悪質な名誉毀損や脅迫が絡むなら、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪などで警察に告訴し、刑事責任を追及する
- 刑事事件化して捜査が進めば加害者への抑止力も高まるが、不起訴になるリスクもある
和解交渉・謝罪要求のポイント
- 誠意ある謝罪文・謝罪広告の文面
- 被害者が納得できる内容であることが重要
- どの媒体(SNS、新聞、HPなど)にどの程度の期間掲載するかを明確化
- 金銭的賠償の範囲
- 精神的苦痛に対する慰謝料、営業損害があるなら金額を検討
- 加害者の資力を踏まえて現実的な着地点を模索
- 再発防止の合意(誹謗中傷継続禁止)
- 二度と誹謗中傷を行わない旨を明文化し、違反時にはペナルティ(追加賠償など)を設定する
- 第三者への協力要請(削除・訂正投稿)
- 加害者に任意で投稿を削除させたり、SNS運営会社へ報告させたりする形で対応
- デマ拡散が大きい場合は、訂正投稿やSNS上での謝罪宣言を要求する
注意点
- 加害者の態度や資力
- 特定後、加害者が誠意を持って交渉に応じるかは未知数
- 学生や無職など資力が乏しいと損害賠償を取得しにくい場合もある
- 謝罪広告の実効性
- 一度拡散されたデマを完全に消し去るのは難しく、謝罪広告がどれほど広がるか不透明
- ただし、公式に誤りを認めた事実が被害回復の一助になる可能性は高い
- 裁判の選択
- 加害者が拒否して示談が決裂すれば、裁判を提起するか断念するかの判断が必要
- 弁護士と費用対効果をよく相談して決定する
企業が謝罪広告を得るメリット
- ブランドイメージ回復
- 消費者や取引先に「企業側に非がなかった」ことを公に示せる
- 悪評の誤りを公式に周知し、顧客の不安を払拭
- 今後のデマ拡散抑止
- 他のユーザーにも「この企業は誹謗中傷に対して断固たる措置を取る」印象を与え、悪意ある投稿を控えさせる効果
- 社内外への安心感
- 従業員や関係者に対しても「会社が誹謗中傷からブランドを守ってくれる」というメッセージを発信
弁護士に相談するメリット
適切な示談交渉
弁護士が代理人として交渉すれば、被害者と加害者の間で直接的な感情的対立を避けられ、合理的な落としどころを模索できます。謝罪文や謝罪広告の文面、賠償金額など専門知識で最適化してくれます。
裁判と示談のバランス判断
示談交渉と並行して裁判手続きを準備し、加害者が不誠実なら裁判へ移行するなど、柔軟な対応が可能。費用や時間を踏まえた最適戦略を提示してもらえます。
法的拘束力のある和解書面作成
示談が成立した場合、弁護士が公正証書や民事調停調書など法的拘束力のある書面にまとめることで、万一の履行違反時には強制執行できるなどのメリットがあります。
再発防止策・企業イメージ保護の提案
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、示談交渉後に残るリスク(再攻撃など)を抑えるための合意条項を盛り込み、かつ企業としての対外発表やSNSリスク管理強化をサポートする法務支援を提供します。
まとめ
加害者特定後の主な選択肢
- 示談交渉(和解交渉)
→ 謝罪文や損害賠償金、再発防止を取り付ける - 裁判
→ 損害賠償判決を得る、強制執行で賠償金回収 - 刑事告訴
→ 場合によっては警察捜査で加害者に刑事責任
示談交渉・謝罪要求のメリット
- 被害の早期解決、費用や時間の節約
- 謝罪広告で名誉回復やブランドイメージの向上
- 加害者に再発防止を約束させる効果
注意点
- 加害者の誠意や資力が不明
→ 裁判も視野に - 謝罪広告の実効性
→ 拡散したデマを完全に覆すのは難しいが、一定の抑止効果あり - コミュニケーショントラブル
→ 弁護士を通じて冷静に交渉
弁護士に相談する利点
- 交渉力と法律知識で合理的な示談を実現
- 裁判とのバランス判断
- 法的に拘束力ある和解条項
- 企業イメージ保護・再発防止策へのアドバイス
投稿者を特定して終わりではなく、「そこからが本当の被害回復へのスタート」です。加害者に謝罪や賠償を求める際、専門家の支援を受けることで、スムーズかつ最適な和解条件を取り付けられる可能性が高まります。被害を長引かせないためにも、早めの相談をおすすめします。
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