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労働時間の客観的把握義務

はじめに

労働時間の管理は、企業が労働基準法を遵守するうえで非常に重要なテーマです。近年の働き方改革により、「労働時間の客観的な把握義務」が強調されるようになりました。従業員自身による自己申告だけに頼る管理方法では、サービス残業や長時間労働の見落としが発生しやすく、未払い残業代請求や行政指導につながるリスクが高まります。

本記事では、労働時間を客観的に把握する具体的手法や、自己申告制の問題点、導入可能なシステムや記録手段などを紹介します。企業がとるべき対策を解説いたしますので、自社の勤怠管理を再確認する機会として、ぜひお役立てください。

Q&A

Q1. なぜ「客観的な労働時間把握」が求められるようになったのですか?

過去には「自己申告制」で働いた時間を申告してもらう方法が多く使われていましたが、サービス残業や過少申告が横行しやすい問題があり、過労死やメンタル不調に結びつくケースが相次ぎました。これを受け、厚生労働省のガイドラインなどで客観的記録(タイムカードやICカードログ、PC操作ログなど)を用いた管理が推奨・実質的に義務化されるようになりました。

Q2. 具体的にどんな手法で「客観的把握」をすればよいですか?

など、機械的に客観的データを残す仕組みが多用されています。自己申告制だけに頼るのではなく、複数のデータを突合して実態を確認する方法が望ましいでしょう。

Q3. 自己申告制を完全にやめなければならないのですか?

必ずしも「完全禁止」ではありませんが、自己申告制のみに頼る運用はリスクが高く、厚生労働省のガイドラインでも客観的管理を優先するよう強く求められています。やむを得ない場合も、「申告内容と客観データの突合チェック」「過少申告の防止措置」を行うなど、ダブルチェック体制を構築することが重要です。

Q4. テレワーク中や出張中の時間は、どのように把握すればよいですか?

テレワークならPCのログイン時間や勤怠システムへの打刻、出張ならモバイル打刻や業務日報など、どの時間帯に仕事をしていたかを第三者が確認できる仕組みを導入することが望ましいです。曖昧になりやすい分、トラブル防止のため事前にしっかりルールを定めておく必要があります。

Q5. 客観的記録を取らないとどのようなリスクがありますか?

サービス残業や過大残業が放置されて、過労死やメンタル不調の原因となる可能性があります。また、従業員から「実際にはもっと働いていた」と未払い残業代請求を受けた際、客観的記録がないと企業が反論しにくくなり、大きな損害を被るリスクが高まります。

解説

労働時間把握に関するガイドライン

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」

客観的把握の手法例

  1. タイムカード打刻
    最も一般的な方法。出退勤時間を紙や機械で打刻。改ざんリスクを最小化する仕組み(ICカード連動など)が望ましい。
  2. ICカードリーダー
    入退室時にカードをかざすと記録される。オフィスのセキュリティとも連動可能で、出勤・退勤時間を自動的に管理。
  3. パソコンの操作ログ
    ログオン・ログオフ時間や業務ソフトの稼働記録を管理し、実労働時間と自己申告を比較。
  4. スマホアプリ打刻
    テレワークや外勤など場所を問わず打刻できる。GPS連携で不正打刻を防止する仕組みを導入している企業もある。

自己申告制の問題点と対策

  1. サービス残業・過少申告
    従業員が「残業をつけにくい職場」だと感じると、実際には働いていても自己申告に反映されない可能性。
  2. 管理者の黙認
    管理者が目の前の業務優先でサービス残業を見逃すと、後日大量の未払い残業代を請求されるリスク。
  3. 対策
    • 客観データと照合して不一致がある場合は、本人や管理者に確認し修正。
    • 従業員へ十分な説明と教育を行い、正直な申告を促す風土を醸成。

トラブル予防のポイント

  1. 勤怠システムの導入・定期メンテ
    打刻漏れやエラーを迅速にチェックし、上長が承認するフローを設ける。
  2. 残業申請手続きと実績照合
    事前申請→上長承認の仕組みを作り、実際の残業時間と申請時間を突合して過不足を防ぐ。
  3. 健康管理措置
    長時間労働が続く従業員には産業医との面談や業務量調整を実施。客観的な勤怠データを活用して早期に対処。
  4. 社内監査
    定期的に労務監査を実施し、勤怠記録や残業手続きのルールが適正か確認。問題があれば速やかに是正。

弁護士に相談するメリット

労働時間の客観的把握義務に対応するには、適切な制度設計と従業員とのコミュニケーションが不可欠です。弁護士に相談することで、以下のような利点があります。

  1. 勤怠管理システム導入の法的アドバイス
    使用するシステムが労働基準法やガイドラインに合致し、改ざんリスクを最小化できるか確認。
  2. 就業規則や協定書の整合性
    出退勤管理の方法や残業手続きを就業規則に明記し、36協定や特別条項とも整合を図る。
  3. トラブル対応
    未払い残業代請求や過労死・メンタル不調による損害賠償請求など、紛争が起きた際に証拠整理や交渉戦略をサポート。
  4. 継続的リスク管理
    顧問契約を通じ、法改正や判例変更に迅速に対応しつつ、客観的勤怠管理のアップデートを続けられる。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、労働時間管理における実績を基に、企業のニーズに即したアドバイスを提供しています。

まとめ

企業としては、従業員の健康を守るとともに法的リスクを回避するためにも、客観的かつ正確な労働時間管理を行う体制を構築することが重要です。


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