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【労働契約書の作成と必須事項】書面交付の義務や雇用契約の注意点をわかりやすく解説

はじめに

企業が従業員を雇用する際、労働条件を明確に定めた「労働契約書」(または労働条件通知書)を作成し、従業員に交付することは、労務管理上の重要なステップです。労働契約書は、いわば「会社と従業員間のルールブック」であり、後々のトラブル防止にも大きく寄与します。とくに近年は、働き方の多様化や労働者の権利意識の高まりを背景に、労働契約書の不備や労働条件のあいまいさが原因で紛争が起きるケースが増えています。

本記事では、「労働契約書を作成する基本的なポイント」「必須的に記載すべき事項」「作成・交付時の注意点」などを中心に、企業の実務担当者や経営者の皆様が押さえておきたい内容を分かりやすく解説いたします。後半では、実際のトラブル事例、弁護士に依頼するメリットや費用感についても取り上げますので、ぜひ最後までご覧ください。

本記事は、弁護士法人長瀬総合法律事務所が執筆しています。当事務所は、企業法務に幅広く対応しており、労務管理分野でも豊富な実績を有しております。今まさに「労働契約書の作成」「労働条件通知書の整備」「雇用契約の注意点」を検討中の企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。

Q&A

Q1. 労働契約書は必ず作成しなければいけないのですか?

労働基準法では、労働条件のうち絶対的明示事項と呼ばれる重要事項については「書面の交付」が義務付けられています。具体的には、「賃金」「労働時間」「業務内容・勤務地」「労働契約期間」などの事項です。実務上は、これらを網羅する形で労働契約書(または労働条件通知書)を作成・交付するのが通常です。書面交付が義務化されている以上、労働契約書の作成は事実上「必須」といえます。

Q2. 労働契約書に記載が必要な項目は何ですか?

法令上、「必ず書面で明示しなければならない事項」が定められています。代表的なものとしては、以下のものがあります。

これらは「書面」によって明示する義務があり、紙媒体だけでなく、電子メールやクラウド上の電子ファイルなどでの交付も認められています。

Q3. 労働条件通知書との違いは何ですか?

厳密には、労働基準法上の「労働条件の明示義務」を果たすために労働条件通知書を交付するのが最低限必要とされる手続きです。一方で、「労働契約書」は、雇用主と労働者の両者が契約内容に署名または記名押印し、契約書として正式に締結するものを指します。

ただし、実務上は「労働条件通知書」をそのまま両者が署名押印して「労働契約書」として扱うことがほとんどです。

Q4. 口頭での説明だけではダメなのですか?

口頭だけでは、法律上の明示義務を満たしません。仮に口頭で条件を提示して合意していたとしても、その後に内容をめぐって労使間で食い違いが生じる恐れがあります。書面による明示は労働者保護のための最低限の義務であり、トラブルを防ぐためにも必ず文書で提示・交付することが重要です。

Q5. 雇用時にしか作成しないのですか?更新や異動があった場合は?

期間の定めのある契約(有期雇用契約)の場合は、契約更新のたびに労働条件を見直し、変更がある場合は改めて書面の交付が必要です。また、無期契約(正社員など)であっても、労働条件や勤務地の変更などがあった際は、その都度、変更内容が分かるように書面で明示することが望ましいでしょう。

解説

ここからは、労働契約書を作成するうえで押さえておきたい法律上・実務上のポイントを詳細に解説いたします。

労働契約書における「必須事項」とは

冒頭でも触れましたが、労働基準法や関連法令では、労働者を雇用する際に以下の事項について書面を交付して明示することを求めています。このうち、特に重要なものが「絶対的明示事項」と呼ばれる範囲です。

  1. 契約期間
    有期契約の場合は期間の定め、更新の有無、更新基準等
  2. 就業場所・従事する業務
    配属先の部署や担当業務の概要
  3. 始業・終業の時刻、所定労働時間、休憩・休日・休暇に関する事項
    法定休日の設定や年次有給休暇の扱い等
  4. 賃金の決定方法・計算方法・支払い方法、締切日と支払日
    基本給・手当の内訳、控除項目など
  5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
    自己都合退職・会社都合退職の区別、懲戒解雇の要件など

これらは従業員の働き方や報酬に直結する重要項目であるため、必ず明確に記載しましょう。なお、書面交付は「紙」でなければいけないというわけではなく、最近では電子メール等で交付する方法も実務的に増えています。ただし、電子交付の場合は受領の確認や従業員が容易に印刷可能かどうかなど一定の要件を満たす必要があります。

契約書を作成するメリットと注意点

労働契約書を作成・交付するメリットとしては、以下の点が挙げられます。

一方で、作成時の注意点としては、以下の点が重要です。

  1. テンプレートの使い回しに注意
    ひな形を利用する場合でも、会社の実態に合わせて条文をカスタマイズしないと不備が生じる恐れがあります。
  2. 就業規則との整合性
    労働契約書に特別な定めをする場合、就業規則との矛盾がないよう確認が必要です。
  3. 変更時の取り扱い
    賃金や待遇に変更があった場合は、必ず従業員に周知し、改めて書面で交付するのが望ましいです。

実際に起こりうるトラブル事例

労働契約書の不備や、契約内容があいまいなことに起因するトラブルは少なくありません。以下は実際に起こりがちな例です。

【事例1】賃金の内訳に関する認識相違

会社側は「基本給20万円+固定残業代5万円(30時間分)を含む」と考えていたが、従業員側は固定残業代の概念を知らず、残業代は別途支払われると思い込んでいた。結果として、未払残業代をめぐる紛争に発展。

【事例2】試用期間の位置づけがあいまい

労働契約書に試用期間の長さや処遇、判断基準を明示していなかったため、「試用期間終了後に本採用を拒否された」という従業員から「不当解雇だ」と訴えられる。

【事例3】解雇事由が就業規則と異なる

労働契約書に書かれている解雇事由と、就業規則で定める懲戒解雇の要件に乖離があり、どちらが優先されるのかで揉める。結果的に労働組合を巻き込んだ団体交渉へ発展する。

このようなトラブルを防ぐためにも、労働契約書と就業規則を一貫させ、かつ具体的に分かりやすく記載することが重要です。

実務上のポイントまとめ

弁護士に相談するメリット

労働契約書の整備は、一見すると「ひな形を使って必要事項を埋めるだけ」で済むように見えるかもしれません。しかし、実際には会社ごとの就業実態や経営方針、従業員構成、業務形態などを踏まえ、きめ細やかに調整していく必要があります。特に、以下のようなポイントについては弁護士のサポートが有益です。

  1. 最新の法改正・判例動向に対応
    労働法分野は法改正が多く、また判例の動向も年々変化しています。弁護士であれば、常に最新情報を踏まえた契約書を提案可能です。
  2. 個別事情に応じたリスクマネジメント
    業種特有の就業環境や職種に応じて、どのような労働条件が問題となりやすいかを分析し、未然にトラブルを防ぐ条文を盛り込むことができます。
  3. 就業規則や社内規程との整合性チェック
    労働契約書と就業規則に矛盾が生じると、後々の紛争リスクが高まります。弁護士がトータルでチェックすることで、抜け漏れや不整合を防げます。
  4. 法的トラブル発生時の迅速な対応
    労働組合との団体交渉、労働審判や訴訟などに発展した場合も、契約書の適否が争点となります。初めから弁護士のアドバイスを受けた契約書を整備しておくことで、万が一の紛争時にも有利に対応できます。

また、費用感としては、単発で労働契約書のリーガルチェックのみを依頼する場合と、顧問契約で継続的に相談可能な状態を整える場合とで異なります。会社の規模や相談内容、規程類の数によって変動しますが、数万円から数十万円程度でのスポットチェックを行っている法律事務所が多いかと思います。顧問契約であれば月額固定費(数万円程度が一般的)で、契約書整備だけでなく他の労務相談も随時行えるため、トータルで見るとコストパフォーマンスが高くなるケースもあります。

当事務所でも、労働契約書や就業規則の作成・改定、労働者とのトラブル対応などについて柔軟にサポートしております。まずはお気軽にご相談ください。

まとめ

労働契約書をはじめとする労務管理の整備は、企業経営の安定と従業員の安心・納得感を両立させるうえで欠かせないステップです。まだ作成がお済みでない場合、または不備や古い規定を放置している場合は、ぜひこの機会に見直しを検討してみてはいかがでしょうか。


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