企業法務リーガルメディア

法人破産とは何か?個人破産との違いと手続の基本をわかりやすく解説

はじめに

近年、コロナ禍や社会情勢の変化により、中小企業を中心に資金繰りの悪化や売上低迷に悩む経営者の方が増えてきました。経営状態が深刻化し、事業の継続が難しいと判断せざるを得ない場合、「法人破産」という手続を選択することがあります。一方で、法人(会社)が破産する場合と個人(自然人)が破産する場合には、手続の流れや効果に大きな違いがあります。

本記事では、法人破産の基礎知識として、まず「法人破産とはどのようなものなのか」「個人破産と比べてどのような違いがあるのか」という点を中心に解説します。経営者の方、会社の財務を管理されている方、または将来的に起業をお考えの方に向けて、分かりやすく整理しています。将来のリスク管理の一環として、あるいは現在進行形で経営難に直面している方が知っておくべき重要なポイントを取り上げていますので、ぜひご一読ください。

Q&A

ここでは、法人破産に関してよくいただく質問をQ&A形式でご紹介します。経営者や会社関係者の方が抱える疑問や不安を整理する一助になれば幸いです。

法人破産と個人破産はどのように違うのでしょうか?

法人破産は、株式会社や有限会社などの法人格を持つ企業が法的に破産手続を行うことを指します。会社そのものが清算されるイメージで、手続終了後に法人は原則として消滅します。一方、個人破産はあくまで自然人が対象です。個人破産の場合、借金が免除される「免責」を得られれば借金から解放されますが、法人破産の場合は、法人そのものが清算されるため「免責」という考え方は直接は存在しません。

法人破産をしても代表取締役などの個人資産に影響はないのですか?

基本的には法人破産は法人財産の清算で終了します。しかし、代表取締役や役員が法人の債務を個人で連帯保証している場合などは、個人にも返済義務が及ぶ可能性があります。また、法人と代表者個人とで資金の流れが明確に区分されていなかったり、会社財産の一部を不正に処分していた場合などは、別途、代表者個人の責任追及(損害賠償請求等)がなされるリスクもあります。

法人破産をしても、代表者が再起することはできますか?

法人破産を経たからといって、代表者自身が将来にわたり一切事業を行えないわけではありません。ただし、会社の債務を連帯保証していた場合は、個人破産を検討しなければならないケースもあります。また、今後の起業や再スタートの際に、過去の破産歴が社会的信用に影響を与える可能性は否定できませんが、必ずしも不可能になるわけではありません。しっかりとした計画と資金管理、法的な整理によって再起を図ることは可能です。

法人破産をすると会社はどうなりますか?

法人破産によって破産手続が終結すると、法人は消滅します。会社に残っていた財産は破産管財人によって換価(現金化)され、各債権者に分配されます。最終的に「配当できる額がない」ということも多いのが実情ですが、手続が終了すると法人は法的に解散した扱いになります。そのため、破産手続後に同じ法人格で再起業することはできません。

法人破産にかかる期間はどれくらいですか?

ケースによって大きく異なります。通常、破産の申立てから破産手続が終了するまでに半年から1年以上はかかる傾向にあります。大きな資産がある場合や債権者数が多い場合、不正行為の調査が必要な場合には、さらに時間がかかる可能性があります。

解説

ここからは、法人破産について解説します。特に個人破産との違いに注目しながら、その背景や手続の概要を押さえておきましょう。

法人破産と個人破産の制度的な位置づけ

法人破産は会社法や破産法の規定に基づき、法人格を持つ会社(株式会社、合同会社、有限会社など)やその他の法人(一般社団法人、医療法人など)が対象となります。これに対し、個人破産は債務を抱えた自然人が手続を行い、最終的に「免責許可」を得ることで借金を帳消しにできる仕組みです。

法人と個人では、破産手続の目的や効果、進行手順に共通点はあるものの、以下のような特徴的な違いがあります。

法人破産のメリットとデメリット

本記事のメインテーマは「法人破産とは何か」ですが、個人破産との比較に触れるにあたり、法人破産のメリット・デメリットにも簡単に触れておきます。

メリット
デメリット

破産手続の大まかな流れ

法人破産の手続は、以下のようなステップで進みます。個人破産と似ている部分もありますが、手続上の細かな要件や提出書類などが異なる場合があります。

  1. 申立ての準備
    会社の財務内容を精査し、貸借対照表や損益計算書などの必要書類を整えます。弁護士に相談の上、破産申立てを行うか否かを検討します。
  2. 破産手続の申立て
    裁判所に破産申立書を提出します。申立書には債務の総額や債権者一覧、財産の明細、会社の事業内容など詳細が必要です。
  3. 破産手続開始決定
    裁判所が申立てを受理し、破産手続を開始するかどうかを判断します。開始決定が出ると、破産管財人が選任されます。
  4. 破産管財人による財産調査・管理
    破産管財人は会社の財産を調査し、換価できる資産の把握に努めます。不正な資産流出などがないかも確認します。
  5. 債権者集会・配当
    債権者は債権の届出を行い、破産管財人は債権調査を行います。最終的に会社の財産を換価し、配当できる額があれば債権者に分配されます。
  6. 手続終了
    破産手続が終了した時点で、法人は消滅します。

法人破産が与える代表者個人への影響

法人破産を検討する際、経営者や代表取締役が気にかけるのは、「自分自身の資産や生活への影響」です。一般的に、会社と個人は別の法人格であるため、会社の負債が自動的に代表者個人に及ぶわけではありません。しかし、事業を継続するにあたって金融機関や取引先と契約を結ぶ際、多くの場合は代表者個人が連帯保証をしています。

このように代表者個人が連帯保証している債務については、法人破産を行っても個人の債務は残ります。そのため、法人破産を選択する場合、同時に代表者個人破産を検討するケースも多いです。特に中小企業の場合、「会社=代表者個人」のような実質的に一体となっているケースが少なくありません。そのため、法人破産だけでは債務整理が完了せず、代表者の個人破産も必要になる可能性が高いのです。

弁護士に相談するメリット

破産手続は、法律専門家である弁護士に依頼することを強くおすすめします。特に法人破産では、書類作成のボリュームが大きく、債権者対応や裁判所対応も煩雑になります。弁護士を依頼することで以下のようなメリットが得られます。

  1. 的確な状況分析とアドバイス
    会社の財務内容や資金繰り、これまでの借入状況などを詳しく分析し、「破産が最善策か」「他の倒産手続や再建手段はないか」を客観的に検討してくれます。
  2. 書類作成・提出手続の代行
    破産申立のための書類は量が多く、内容も専門的です。弁護士に依頼すれば、申立書や債権者一覧表など、必要書類を正確に準備・提出できます。
  3. 債権者対応の一元化
    破産が近い会社に対しては、債権者からの強い請求や取り立てが行われることも珍しくありません。弁護士が代理人となることで、基本的には弁護士が窓口となり、債権者対応の負担を大幅に軽減できます。
  4. 不正行為の疑いへの対処
    破産手続では、破産管財人や裁判所による調査が行われます。もし過去に不正な資産隠しや偏頗弁済(特定の債権者にだけ返済する行為)が疑われる場合、適切に説明・対応しなければなりません。弁護士が事前に調査し、リスクを最小限に抑えるための対策を助言します。
  5. 最終的な手続完了までのサポート
    破産手続は開始してから終了までに少なくとも半年以上かかることがあります。弁護士に依頼しておけば、書類の提出期限の管理や、裁判所・破産管財人との打ち合わせなど、一連のプロセスをトータルにサポートします。

なお、弁護士費用は状況や依頼内容によって大きく異なりますが、法人破産の場合は「手続が複雑」「関わる関係者(債権者)が多い」などの理由から、個人破産に比べて高額になりがちです。ただし、失敗の許されない場面であるからこそ、倒産・破産案件の経験が豊富な法律事務所に依頼することは、最終的に損害を最小限に抑えるための賢明な選択といえます。

まとめ

この記事では、法人破産の基礎知識と個人破産との違いを中心に解説しました。法人破産は、会社の全財産を清算して法人格を消滅させる手続であり、個人破産のように「免責許可」が下りて借金がなくなるわけではありません。代表者個人が債務を連帯保証している場合、法人破産だけでは十分でなく、個人破産もセットで検討するケースが多い点に注意が必要です。

経営者が法人破産を検討する背景には、売上不振や過剰な借入れ、取引先の倒産など様々な要因があります。やむを得ず破産に至る場合でも、法的な手続を踏むことで、債権者や従業員、取引先への対応を正当な形で進められます。また、破産手続後は会社が消滅するため、経営者の方は「再スタート」を考える必要も出てくるでしょう。

法人破産を検討するのであれば、まずは法律専門家に相談し、自社の財務状況や今後の見通しを整理した上で最適な手段を選ぶことが大切です。破産手続はあくまで選択肢の一つにすぎず、他の倒産手続(民事再生や特別清算など)や任意整理など、別の方法で再建が可能なケースもあるからです。

ポイントの振り返り

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、倒産・破産手続だけでなく、任意整理など事業再建に向けた多角的なサポートも行っております。メールマガジンを通じて、新着コラムやセミナー情報をいち早くお届けいたしますので、皆様の今後の経営・事業運営の一助となれば幸いです。

以上、法人破産の基礎知識として「法人破産とは何か、個人破産との違いは何か」という観点から解説を行いました。事業が厳しい状況にある場合、「破産」という選択肢を早めに視野に入れることは、後々のリスクを軽減する上でも大切な判断です。少しでも気になる点がありましたら、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

動画・メルマガのご紹介

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業法務に関する様々な問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。企業法務でお悩みの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【企業法務の動画のプレイリストはこちら】

また、当事務所では最新の法務ニュースやセミナーのご案内等を配信するメールマガジンも運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


ご相談はお気軽に|全国対応

 


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了