障害(補償)給付とは
障害(補償)給付を説明するにあたり、具体的な設例をみてみましょう。
我が社の従業員Aさんが、作業中にプレス機にはさまれてしまい、上半身に大怪我を負う事故が発生しました。ただちに救急搬送され手術を受けましたが、右腕切断という結果になってしまいました。Aさんには今後、大きな障害が残ることになります。
このような場合、Aさんは労災保険からはどのような給付が受けられるのでしょうか。
上記設例のAさんのように、業務災害に起因して被災した労働者に労働能力の低下や生活上の支障が生じ、治癒(症状固定)した後にも身体に一定の障害が残ってしまう場合があります。この場合には、労働者に対して、残存することになった障害の程度に応じて、労災保険から「障害補償給付」が支給されることになります。
障害補償給付の等級
この「障害補償給付」は、障害の程度に応じて、障害等級が第1級から第14級に区分されています。また、給付の形式として、年金の形式で支給される「障害補償年金」または一時金の形で支給される「障害補償一時金」があります。
障害補償年金
障害等級1級〜7級の場合
まずAさんの身体に残存した障害が障害等級1級から7級の場合には「障害補償年金」が支給されます。
障害等級1級の場合
障害等級1級は、たとえば「両眼が失明したもの」、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」、「両上肢の用を全廃したもの」、「両下肢の用を全廃したもの」などの事由がこれに該当し、非常に重篤な障害が残存した場合になります。支給される障害補償年金の給付内容は、1年につき給付基礎日額の313日分になります。
障害等級7級の場合
障害等級7級は、たとえば「1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの」、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」、「1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指を失ったもの」、「1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」などの事由がこれに該当し、支給される障害補償年金の給付内容は、1年につき給付基礎日額の131日分になります。
障害が生じた同一事由により厚生年金などの障害年金が併給される場合があります。この場合には、これらの年金との調整が行われることがあります。
障害特別支給金、障害特別年金
障害補償年金の受給者には、社会復帰促進等事業から、障害等級に応じて「障害特別支給金」が一時金として支給されるほか、特別給与分として「障害特別年金」が年金として支給されます。
このように、障害が障害等級1級から7級に該当する場合には、支給内容は、
- 年金として支給される「障害補償年金」
- 社会復帰促進等事業から一時金として支給される「障害特別支給金」
- 年金として支給される「障害特別年金」
これらが支給されるということになります。
Aさんの場合
なお、設例のAさんは「右腕を切断することになった」ということですが、具体的に障害等級は何級になるのでしょうか。
この点については、切断した箇所によることになります。すなわち、切断した箇所がひじ関節以上ということであれば第4級(「1上肢をひじ関節以上で失ったもの」)に該当します。また、切断した箇所がひじ関節と手首の間ということであれば第5級(「1上肢を手関節以上で失ったもの」)に該当することになります。
障害補償一時金
障害等級8級〜14級の場合
障害等級8級から14級に該当する場合には、
- 「障害補償一時金」
- 社会復帰促進等事業から「障害特別支給金」
- 「障害特別一時金」
これらがすべて一時金の形式で支給されることになります。
給付されるのが年金形式(1級から7級の場合)か、一時金形式(8級から14級)かという点で、生涯を通じて受け取る金額は大きく異なることになります。
後者(8級から14級)の場合には、一時金の形式でのみの支給であるのに対し、年金形式で支給される障害補償年金(1級から7級の場合)には、その支給される期間について特に制限する規定はありません。何らかの事由により障害等級に該当しなくなったような場合は別ですが、障害等級に該当する障害が残存している限りは支給が継続されることになるからです。
障害等級のいずれにも該当しない場合
以上で説明した障害等級1級から14級のいずれにも該当しない傷病の場合、後遺障害とは認められず、障害等級は認定されないので、障害(補償)給付を受けることはできないことになります。
この場合には、障害等級が認定されない決定について労働保険審査官、労働保険審査会に不服を申し立てることができますし、また場合によっては処分の取消訴訟を提起することができます。
具体的な手続については、労災問題に詳しい弁護士に問い合わせることをお勧めします。
労基署長が障害等級を認定しない場合
労基署長が障害等級を認定しない場合であっても、事業主に対して民事訴訟を提起し、損害賠償請求を行う余地はありうるといえます。
この場合の方法選択についても、労災問題に詳しい弁護士に一度問い合わせてみることを是非お勧めいたします。