はじめに
裁判所から届いた訴状に対し、定められた期限内に「答弁書」を作成し、提出を終えられた皆様、まずは最初の大きな山場を越えられたことと思います。不慣れな法的手続きに直面し、時間のない中で反論をまとめる作業は、精神的にも負担が大きかったのではないでしょうか。
しかし、答弁書の提出は裁判における「ゴール」ではなく、本格的な法廷闘争の「スタート」に過ぎません。答弁書を出したことで安心し、「あとは裁判所が適切な判断を下してくれるだろう」と受け身になってしまうのは危険です。
民事裁判は、原告と被告が交互に主張と証拠を出し合い、争点を絞り込んでいく手続きです。あなたが提出した答弁書に対し、今度は原告がどのように反論してくるのかを見極め、次なる一手を準備しなければなりません。
本記事では、答弁書提出後から第1回口頭弁論期日、そして次回の期日に向けた手続の流れと、被告側が行うべき準備のポイントについて解説いたします。
答弁書提出後の流れに関するQ&A
答弁書を提出した直後によくご相談いただく疑問にお答えします。
Q1. 答弁書を提出したら、指定された第1回期日には必ず裁判所に行かなければなりませんか?
答弁書を事前に提出していれば、被告は第1回期日を欠席しても不利益にならないルール(陳述擬制)があります。そのため、弁護士をつけていないご本人対応の場合、遠方であれば欠席することも可能です。ただし、今後の進行に関する話し合いが行われることもあるため、出席できる場合は出席したほうが安心です。弁護士に依頼している場合は、弁護士が代わりに出席します。
Q2. 答弁書を出した後、原告から直接電話や手紙で連絡が来ることはありますか?
原則として、原告から被告へ直接連絡が来ることはありません。裁判が始まった後は、お互いの主張や反論はすべて「準備書面」という書面にまとめられ、裁判所を通じて、あるいは当事者間で直接(FAXや郵送で)送受信されるルールになっています。直接の交渉はトラブルの元になるため控えるべきです。
Q3. 次の裁判の期日までに、こちらで何か準備しておくことはありますか?
はい、重要な準備があります。あなたが提出した答弁書の内容に対し、原告は反論の書面(準備書面)を出してきます。その反論内容を予想し、さらに再反論するための事実関係の整理や、追加の証拠(メール、契約書、写真など)を集めておくことが必要です。
答弁書提出から第1回口頭弁論期日までの流れ
答弁書を裁判所に提出してから、訴状に記載されていた「第1回口頭弁論期日」を迎えるまでの流れを確認しましょう。
答弁書の「直送(ちょくそう)」とは
裁判所に答弁書を提出する際、通常は原告にも同じ内容の答弁書を送付しなければなりません。これを「直送」と呼びます。
実務上は、裁判所用と原告用の2通を作成し、裁判所に提出するとともに、原告(原告に弁護士がついている場合はその弁護士事務所)へFAXや郵送で直接送ります。これにより、原告は第1回期日を待たずに、被告の言い分(認否や反論)を知ることになります。
第1回口頭弁論期日の位置づけ
多くの方が「裁判の期日」と聞くと、法廷で裁判官の前で熱い議論が交わされるドラマのような場面を想像されるかもしれません。しかし、実際の第1回口頭弁論期日は、わずか数分で事務的に終わることがほとんどです。
この期日で行われる主な手続きは以下の通りです。
- 訴状と答弁書の陳述(ちんじゅつ): 裁判官が「原告は訴状のとおり陳述しますね」「被告は答弁書のとおり陳述しますね」と確認し、当事者が「はい」と答えることで、書面の内容が正式に法廷で主張されたものとして扱われます。これを「陳述」といいます。
- 証拠の提出確認: 訴状や答弁書に付けられた証拠(甲号証、乙号証)の原本確認や提出の手続きを行います。
- 次回期日の日程調整: 今後の審理をどのように進めるか(進行協議)と、次回の期日の日程を決定します。
被告の「陳述擬制(ちんじゅつぎせい)」による欠席
被告の都合を考慮せず、原告の希望に合わせて第1回期日の日程が決められるため、被告が仕事などで出廷できないことがよくあります。
そのため、民事訴訟法では、被告が事前に答弁書を提出していれば、第1回期日を欠席しても「答弁書に書かれている内容を法廷で述べた(陳述した)」ものとして扱ってくれるルールがあります。これを「陳述擬制」といいます。
このルールのおかげで、答弁書さえ期限内に出しておけば、第1回期日を欠席したからといって直ちに敗訴になることはありません。
ただし、この欠席が許されるのは原則として「第1回期日だけ」です。第2回以降の期日には出廷するか、後述するWEB会議等での参加が必要になります。
原告の反応:「準備書面」による反論を予測する
あなたが答弁書で「原告の請求は理由がない」「事実と違う」と反論(否認や抗弁)した場合、原告は黙って引き下がるわけではありません。原告は、あなたの答弁書に対する再反論を展開してきます。
「準備書面」という新たな武器
第2回以降の期日に向けて、当事者が自分の主張や相手への反論をまとめた書面を「準備書面」と呼びます。
原告が最初に出してくる反論書面は、通常「原告第1準備書面」というタイトルになります。この準備書面の中で、原告はあなたの答弁書の弱点を突いてきます。
原告はどのように反論してくるか
原告からの準備書面には、主に以下のような内容が記載されます。
答弁書の「否認」に対する証拠の提出
あなたが答弁書で「お金を借りた事実はない」と否認した場合、原告は「では、この銀行の振込履歴を見てください」「このLINEのやり取りを見てください」と、あなたの否認を崩すための新たな証拠(追加の甲号証)を提出してきます。
答弁書の「抗弁(新たな事実の主張)」に対する認否
あなたが答弁書で「確かに借りたが、すでに現金で返済した」と新たな主張(抗弁)をした場合、原告は「返済を受けた事実はない」と否認してきたり、「それは別の取引の代金として受け取ったものだ」と再反論してきたりします。
法的な主張の補強
答弁書の指摘を受けて、原告が自らの法的なストーリーをより強固なものに修正・補強してくることもあります。
原告の準備書面が届くタイミング
原告の反論(準備書面)がいつ届くかは、事案の複雑さや裁判官の訴訟指揮によって異なります。
早い場合は、第1回期日の前に届き、第1回期日で答弁書と原告の準備書面が同時に陳述されることもあります。
多くの場合、第1回期日で裁判官から原告に対し「では、被告の答弁書に対する反論を、次回の期日の〇週間前までに提出してください」といった指示が出され、第2回期日に向けて原告の準備書面が提出されます。
次回期日に向けた被告側の準備と戦略
原告からの反論(準備書面)が届いたら、あるいは届くことが予想される段階で、被告側もただ待っているのではなく、次なる準備を進める必要があります。ここからの書面の応酬(キャッチボール)が、裁判の勝敗を決定づけると言っても過言ではありません。
原告の準備書面の緻密な分析
原告から準備書面が届いたら、内容を隅々まで読み込み、以下の点を分析します。
- 原告は、こちらの答弁書のどの部分を認めて、どの部分を争っているか(争点の明確化)。
- 原告が新たに出してきた証拠は、法的にどれほどの証明力を持っているか。
- 原告の主張に、論理の飛躍や矛盾点、事実誤認はないか。
被告の「準備書面」の作成
原告の反論に対する再反論をまとめた「被告第1準備書面」を作成します。
「言った、言わない」の水掛け論にならないよう、感情的な反発を抑え、客観的な事実と論理に基づいて反論を組み立てることが重要です。原告の矛盾点を的確に指摘し、裁判官に「原告の主張は不自然だ」と思わせるような書面を作成します。
追加証拠の収集と整理
答弁書を提出した段階では、すべての証拠を出し尽くしていないケースが多いはずです(戦略的に温存している証拠など)。
原告の反論内容に合わせて、小出しにしていた証拠や、新たに必要な証拠を提出します。
(例)原告が「合意はなかった」と主張してきたのに対し、当時の会議の議事録や、社内稟議書、担当者間のメールのやり取りなどを証拠として提出する。
自分にとって有利な証拠がないか、過去のファイルやパソコンのデータ、スマートフォンの履歴などをもう一度徹底的に洗い出す作業が必要です。
証拠がない場合の対応検討
客観的な証拠(書類やデータ)が不足している場合、関係者の「証言」が鍵になります。将来の証人尋問を見据えて、当時の事情を知る関係者(社員、取引先など)からヒアリングを行い、事実関係のメモを作成しておくといった準備もこの段階から始めておくと有利です。
手続の移行:「弁論準備手続」と「WEB期日」
第1回口頭弁論期日が終わり、お互いの準備書面のやり取りが本格化する第2回期日以降は、手続きの形式が変わることがよくあります。
争点整理のための「弁論準備手続(べんろんじゅんびてつづき)」
公開の法廷(傍聴席がある部屋)で行われる口頭弁論とは異なり、裁判官の個室(ラウンドテーブルがある部屋など)で行われる非公開の手続きを「弁論準備手続」といいます。
お互いの主張が出揃ってきた段階で、裁判官を交えてフランクに話し合い、「どこが一致していて、どこが争いになっているのか(争点の整理)」を集中的に行うための手続きです。実務では、第2回以降の期日はこの弁論準備手続に移行することが大半です。
IT化による「WEB会議(Teams等)」の活用
近年、民事裁判の手続きは大きくIT化が進んでいます。特に弁論準備手続においては、Microsoft Teams等のウェブ会議システムを利用した「WEB期日」が広く活用されています。
弁護士を代理人につけている場合、弁護士は自身の事務所のパソコンからWEB会議で期日に参加します。そのため、遠方の裁判所であっても出向く必要がなく、交通費や移動時間の負担が大幅に軽減されます。ご本人が裁判所に出向く必要があるのは、原則として和解の話し合いが大詰めを迎えた時や、証人尋問・当事者尋問が行われる時など、限られた場面のみとなります。
答弁書提出後の対応を弁護士に依頼するメリット
答弁書の作成まではご自身で何とか対応できたとしても、その後の「準備書面の応酬」や「争点整理」の段階に入ると、専門的な法知識と経験がなければ、原告のペースに巻き込まれ、不利な状況に追い込まれるリスクが高まります。
答弁書提出後の段階からでも、弁護士に対応を依頼する(訴訟委任する)ことには以下のようなメリットがあります。
法的根拠に基づく的確な再反論(準備書面の作成)
原告の準備書面に書かれているのは、単なる事実の羅列ではなく、法律の要件に沿った法的な主張です。これに反論するには、こちらも法律のプロの目線で主張を組み立てる必要があります。弁護士は、裁判例や法解釈を駆使し、裁判官を説得できる質の高い「準備書面」を作成します。
証拠の戦略的な選別と提出
どの証拠をどのタイミングで出せば最も効果的か、逆にどの証拠を出すと揚げ足を取られる危険があるかを見極めるのは、経験豊富な弁護士の得意とするところです。有利な証拠の収集方法についても具体的なアドバイスを行います。
裁判官の心証(意向)の読み取り
弁論準備手続などにおいて、裁判官が発する言葉の端々から「裁判官は現在どちらに有利な印象(心証)を持っているか」「どの点を疑問に思っているか」を読み取ることは、裁判を有利に進める上で重要です。弁護士は、裁判官の微細なサインを見逃さず、それに応じた主張の補強や証拠提出を行います。
期日への出頭代行による負担軽減
前述のとおり、弁護士に依頼すれば、平日の日中に設定される裁判の期日(WEB期日を含む)に、ご自身の代わりに弁護士が出席します。仕事や日常生活に支障をきたすことなく、専門家に裁判の進行を任せることができます。期日の後には、どのようなやり取りがあったか、次に向けてどうするかについて詳細な報告と打ち合わせを行います。
まとめ
答弁書の提出は、あくまで長い裁判手続きの第一歩に過ぎません。提出後は、原告からの再反論(準備書面)が予想され、これに対する緻密な分析と、証拠に基づいた再々反論の準備が必要となります。
裁判は、お互いの主張と証拠をぶつけ合い、裁判官に自分たちの言い分が正しいと信じさせる(心証を形成させる)ための知的ゲームのような側面があります。相手方が準備書面で巧みに論理を組み立ててきた場合、法律の素人がご自身だけで的確に応戦し続けるのは非常に困難です。
答弁書を提出し、次回の期日や今後の展開に不安を感じている方は、手続きが複雑化する前に、弁護士にご相談されることを強くお勧めします。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、事案の現状を正確に分析し、今後の最適な訴訟戦略の立案から、準備書面の作成、証拠収集のアドバイス、期日への対応まで、サポートいたします。不利な状況を覆し、納得のいく解決を目指すために、ぜひ当事務所の初回相談をご活用ください。
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