はじめに

企業経営のなかで資金繰りが立ち行かなくなり、倒産手続を検討せざるを得ない局面は、誰しもが避けたいものです。しかしながら、不測の事態や経済の大きな変動によって事業継続が困難となり、「やむを得ず破産」という結論に至ることもあります。倒産手続にはいくつか種類がありますが、そのなかでも最も代表的なものが「法人破産」です。

「法人破産」とは何かというと、要するに会社が裁判所の関与のもとですべての財産を清算し、債権者に対して可能な範囲で配当を行う制度を指します。破産手続が終結すると会社は法律上消滅しますから、事業を継続する選択肢は残りません。しかし、それによって得られるメリットも存在します。一方で、代表者個人が連帯保証をしているケースでは、法人破産だけでは問題が解決しない可能性もあります。

本稿では、法人破産のメリットとデメリットという観点から、法人が破産手続を選択する際にどのような影響や効果があるのかを詳しく解説します。事業を停止することは非常に苦しい決断ですが、それが最適な選択となる場合も少なくありません。重要なのは正しい知識を持ち、冷静かつ迅速に行動することです。この記事を通じて、経営者の皆様が「法人破産」という手段を検討する際の参考になれば幸いです。

Q&A

法人破産をすると会社はどのような状態になりますか?

法人破産を申し立て、裁判所から「破産手続開始決定」が下されると、会社にある財産は破産管財人の管理下に置かれます。そして、その財産を換価(売却などで現金化)し、債権者に対して配当を行います。最終的に会社は消滅(登記閉鎖)するため、同じ法人格での事業継続はできなくなります。

法人破産をすると社長や役員個人の資産も差し押さえられますか?

会社と代表者個人は本来別人格であるため、法人破産によって当然に個人資産が処分対象となるわけではありません。しかし、代表者や役員が連帯保証をしている債務がある場合や、法人と個人の財産が明確に区分されていないケースでは、個人破産が必要になることも多いです。

法人破産にはどれくらいの費用がかかりますか?

破産手続にかかる費用は、裁判所に納める予納金や弁護士費用などがあり、会社の財産状況や債権者数、事業規模によって異なります。弁護士費用は少なくとも100万円以上になるケースも珍しくありません。費用を確保できない場合には、お早めに弁護士へ相談して方策を検討する必要があります。

法人破産を選択するメリットはどんな点にありますか?

法人破産をすることで、法的な手続により公平な債権者対応が行われ、会社としての負債を整理できます。

法人破産のデメリットは何でしょうか?

一番大きなデメリットは、会社が法律上も消滅するため事業継続が不可能になることです。また、倒産手続である以上、金融機関や取引先を含む外部への信用低下が避けられません。加えて、代表者が個人で連帯保証をしている場合には、法人破産をしても個人の返済義務が残る点もデメリットといえます。

解説

ここからは、法人破産のメリット・デメリットをさらに解説します。経営者にとっては事業を続けられなくなるという大きな打撃である一方、一定のメリットや救済効果がある点は見落とされがちです。

法人破産の主なメリット

債権者への公平な清算が可能

倒産直前に特定の債権者だけに優先して支払うことは、破産手続上で「偏頗弁済」とみなされる可能性があります。偏頗弁済があった場合は、破産管財人から返還請求を受けるおそれがあります。破産手続をとれば、裁判所と破産管財人の管理のもと、法的に公正な配当を行う仕組みが整えられます。

従業員への未払賃金立替制度(賃金保障)へのアクセス

破産手続を行うことで、従業員の未払給与に対して「未払賃金立替払制度」が適用される可能性があります。これは国の制度であり、倒産によって給与が支払われない従業員を一定の範囲で救済するものです。手続きを適切に行うことで、従業員の生活を急激に圧迫しないよう配慮できます。

会社負債の整理による経営者の再出発

法人破産を行い、会社としての債務を清算することで、経営者が個人として新たな道を模索しやすくなる場合があります。代表者が連帯保証をしている債務は残るとしても、会社の負債全体からは解放されるため、精神的・時間的負担が軽減されることも多いです。

不要な訴訟リスクを回避できる

事業をズルズルと続けてしまうと、債権者や従業員、取引先からの訴訟リスクが高まる可能性があります。法人破産の申立てを早めに行えば、裁判所の監督のもとで一元的な処理ができるため、個別の紛争を最小限に抑えられるメリットもあります。

法人破産の主なデメリット

事業継続が不可能になる

破産手続が完了すると、法人は登記上も消滅します。再建型の倒産手続(民事再生や会社更生など)とは異なり、法人破産はあくまで「清算」を目的とした手続です。そのため、破産手続後に同じ法人格で事業を再開することはできません。

社会的信用の失墜

法人破産を行うと、官報公告や裁判所の手続で倒産情報が一般に公表されます。取引先や顧客、金融機関に対する信用低下は避けられず、代表者自身も事業再開や就職に影響を受ける可能性があります。

個人保証があれば個人資産にも影響

上述のように、代表者や役員が個人で連帯保証をしている借入れがある場合、法人破産だけでは返済義務を免れることはできません。結果として、代表者個人破産を別途検討せざるを得ないケースが非常に多いのが現実です。

手続費用や手間がかかる

法人破産は、個人破産よりも書類作成が複雑で、会社規模が大きいほど手続に時間とコストがかかります。破産申立てのために必要な書類も多岐にわたり、弁護士や会計事務所などと連携が必要な場合も少なくありません。

弁護士に相談するメリット

法人破産を行うか否かは、経営者にとって極めて重大な意思決定です。そこで、倒産案件の実績がある法律事務所に相談することで、以下のメリットが得られます。

  1. 最適な倒産手続の選択
    倒産手続には「破産」「民事再生」「会社更生」「特別清算」などがあります。弁護士に相談することで、会社の実態に合った手続を選択できる可能性が高まります。場合によっては破産以外の選択肢によって再建の道が開ける場合もあります。
  2. 書類作成や裁判所対応のサポート
    法人破産では、財産目録、貸借対照表、損益計算書、債権者一覧など、専門的かつ膨大な書類を準備しなければなりません。弁護士が必要書類の作成やチェックを代行し、裁判所への提出を円滑に行えます。
  3. 債権者との交渉負担の軽減
    弁護士が代理人として債権者との窓口になることで、経営者が直接取り立てや交渉に対応する負担が大きく軽減されます。とくに金融機関や大口債権者への対応においては、専門家が間に入ることは大きなメリットです。
  4. 不正行為のリスク管理
    倒産手続において、過去の不正な資産隠しや粉飾決算などが疑われると、破産手続において免責不許可事由(個人破産の場合)や法人代表者に対する損害賠償請求リスクが発生します。弁護士と早めに相談し、適切な釈明や是正を図ることで、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。
  5. 破産後の再スタートに向けたアドバイス
    法人破産を経た後、代表者個人の生活や再就職、あるいは新たな起業など、次のステップを見据えたアドバイスを行ってくれます。特に中小企業の代表者にとっては、会社の財産状況と個人の財産状況が混在していることも多いため、早めに専門家へ相談することで、将来の選択肢が広がることが期待できます。

まとめ

本稿では、法人破産のメリット・デメリットを中心に解説しました。破産は「会社が消滅してしまう」という大きなデメリットがありますが、その一方で、法的に公正な清算が可能となり、経営者個人として再起を図るためのステップにもなります。

  • メリットには、公平な清算の実現、未払賃金立替払制度の活用、訴訟リスクの低減、経営者個人の再スタートなどが挙げられます。
  • デメリットとしては、法人の消滅・事業継続不可、社会的信用の失墜、個人保証の負担残存、費用と手間の増加などが挙げられます。

会社が抱える負債の性質や取引先の状況、連帯保証の有無、従業員への影響など、法人破産に踏み切る前に確認すべきことは多数あります。お早めに専門家に相談することで、最適な倒産手続を見極めていきましょう。

手続の進め方や費用感など、実際の破産・倒産に関するご不安がありましたら、ぜひ一度弁護士法人長瀬総合法律事務所へお問い合わせください。お早めの行動と正しい知識が、損失を最小限に食い止めるポイントとなります。

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