はじめに

本稿は、弁護士法人長瀬総合法律事務所が、企業経営者や事業者の方々が裁判において有利な立場を築くための基本ポイントをまとめたものです。企業間取引や労務問題、その他ビジネス上の紛争は、証拠が勝敗を大きく左右します。

そこで、本稿では、裁判で重視される証拠のポイントや、証拠化のノウハウ、さらに弁護士に相談することで得られるメリットなどを解説します。

Q&A

Q(企業経営者)

うちの会社、取引先とのトラブルで訴訟に発展しそうなんですが、裁判で勝つには何が一番大事なんでしょうか? 取引先は口頭で約束したと言い張っていて、こちらとしては納得がいきません。『証拠が大事』とよく聞きますが、具体的にはどんな証拠が必要なんですか?

A(弁護士)

経営者の皆さまが訴訟で有利な結論を得るためには、“証拠”が何より重要です。民事訴訟は、当事者双方が主張を戦わせ、最終的に裁判所が証拠をもとに事実認定を行います(民事訴訟法第179条以下)。証拠が豊富で信用性が高ければ、その主張は裁判官に受け入れられやすくなります。

 

本稿では、『書類・契約書などの文書証拠』『第三者証言や専門家証言』『録音・録画データ』といった具体的な証拠化のポイントを紹介します。また、弁護士に相談することで得られるメリットや、紛争を未然に防ぐための準備についても解説します。これらを押さえることで、貴社が裁判で有利な地位を確立する一助となれば幸いです。

以下では、証拠の重視がなぜ裁判で重要なのか、またどういった証拠が特に信頼されやすいのかを整理しています。さらに、弁護士に相談する際のメリットや、紛争を予防・早期解決するための実務上の工夫もあわせてご紹介します。

なぜ証拠が重要なのか

裁判は、当事者がそれぞれ自分に有利な事実を主張し、その裏付けとなる証拠を示す場です。裁判所は「事実があったかどうか」を証拠によって認定し、その上で法律を適用して結論を下します。

民事訴訟では、主張する事実を立証する責任(立証責任)は、原則としてその事実を主張する側にあります。

「こういう取引をした」「この日にこういう約束を交わした」といった主張をしても、証拠がなければ裁判所はその事実を認めません。結果として、証拠が不足すれば、たとえ真実があなたの側にあっても、法的には不利な結果に終わる可能性があります。

ポイント

  • 裁判官は、当事者の主張を鵜呑みにせず、証拠を慎重に検証します。
  • 証拠がなければ、主張は「言った」「言わない」の水掛け論に終わりやすく、不利です。

重要な証拠の種類とその集め方

書類証拠を整える

契約書、請求書、領収書、メールのやり取りなどの客観的証拠は、非常に重視されます。裁判所は、客観的な書面をもとにした事実認定を行いやすく、書類があれば「そのとおりの取引があった」と推測しやすくなります。

実務上も、口頭合意だけでなく、必ず契約書を交わすこと、やり取りはできるだけ書面やメールに残すことが推奨されます。後から「そんな約束はしていない」と反論されても、書類で反証できれば強力な武器になります。

第三者の証言

当事者同士が異なる主張をしている場合、利害関係のない第三者の証言は有力です。たとえば、取引先との交渉に同席した従業員や、全く関係ない立場で目撃した人が「こういう事実を見た・聞いた」と証言すれば、その証言は信用性が高いと判断されやすくなります。

専門家の意見

医療訴訟や建築関連の紛争など、専門性が求められる分野では、第三者である専門家の意見(鑑定)が重視されます。裁判官は法律の専門家ですが、医療や建築といった専門分野に詳しいわけではありません。そのため、専門家の中立的な判断が、大きなウエイトを占めるのです。

録音・録画データの活用

ICレコーダーやスマートフォンで録音・録画した会話内容は、重要な証拠となり得ます。たとえば、取引先が何らかの約束をした際、それを録音しておけば、後に「そんなことは言っていない」と否定されても、録音を証拠として示せます。

ただし、他人の会話を盗聴するなど、違法な手段で取得した証拠は、刑法上の問題(プライバシー侵害や通信の秘密侵害など)に発展する可能性があり、証拠価値が否定されることもあります。自分がその場で正当に参加している会話の録音は一般的に問題ありませんが、無断盗聴は絶対に避けましょう。

内容証明郵便や公正証書で事実を確定する

後から「そんな通知は受けていない」と主張されることを防ぐために、内容証明郵便制度を利用することで、いつ・どんな文書を相手方に送付したかを証明できます。

また、公証役場で書類に確定日付を付したり、公正証書を作成したりすることで、その書類が特定の日付に存在していたことが公的に証明されます。こうした手続きを踏めば、取引の存在や条件が後から争われにくくなります。

弁護士に相談するメリット

紛争発生後に慌てて証拠を探しても、すでに散逸していたり、不完全だったりすることがあります。ビジネスを円滑に行うためには、紛争化する前の段階から弁護士に相談しておくことが重要です。

必要な証拠・書類の特定と整備

弁護士は、どのような証拠が裁判所で有力視されるかを熟知しています。そのため、紛争が起こる前から「この取引にはどんな書面を残すべきか」「この交渉はメールで残しておくべきか」など、的確なアドバイスを得ることができます。結果として、万が一訴訟になった際に、スムーズに立証できる体制を構築できます。

戦略的な主張・立証計画の立案

弁護士は、訴訟戦略に基づき、どの事実をどの証拠で裏付けるかを整理し、裁判官に効果的に訴求できる主張を組み立てます。これにより、証拠があっても効果的に提示できず不利になるといった事態を避けられます。

違法な証拠収集行為の回避

弁護士に相談すれば、「これを証拠化したいが、この方法は問題ないか?」といった法的リスクについても確認できます。違法な手段で得た証拠は無効化されたり、逆に信用性を疑われ、あなたの立場を悪くする可能性があります。弁護士は適法かつ有効な証拠収集方法をアドバイスします。

交渉段階での解決や紛争予防

弁護士は、法的リスクを踏まえた交渉や契約書作成をサポートし、紛争自体を未然に防ぐことができます。訴訟に至る前の段階で、トラブルの火種を小さく抑え、あるいは有利な和解を引き出すことで、裁判に備えた証拠集めのコストや労力を節約できます。

訴訟に備えるための日常的な準備

契約書作成・保管の習慣化

取引条件は口頭ではなく、必ず契約書化し、署名・押印(電子契約の場合は電子署名)を行い、社内で適切に保管しましょう。

日付・記録管理の徹底

いつ、誰と、何を取り決めたかを日頃から明確にしておくことで、後から「その時点でこういう状況だった」ことを簡単に立証できます。メールや社内メモ、議事録、写真、チャットツールの履歴など、あらゆるデジタル証跡が、後日有力な証拠となり得ます。

公正証書・確定日付取得の検討

特に重要な契約や、後の紛争可能性が高い取り決めについては、公証役場での公正証書作成や確定日付の付与を検討するとよいでしょう。

違法行為に注意した証拠収集

証拠を集めることに夢中になり、違法な手段に走るのは厳禁です。

無断で他人の会話を盗聴する行為は、プライバシー権の侵害として違法性を帯びる可能性があります。場合によっては刑法に触れる可能性もあり、逆に訴訟上不利な印象を与えます。

まとめ

裁判で有利に立つためには、「事前準備」と「適法かつ有効な証拠の確保」が肝心です。

  • 契約書・メール・領収書などの書面証拠を体系的に残すこと
  • 第三者証言や専門家鑑定など、客観的で信頼性の高い証拠を活用すること
  • 適法な録音・録画を検討し、違法な手段は絶対に避けること
  • 内容証明郵便や公正証書で証拠力を高めること
  • 紛争予防や戦略立案に長けた弁護士を活用すること

これらを実践すれば、いざ紛争が生じたとき、裁判で有利な結論を導く可能性が高まります。日頃から証拠化と法的リスク回避に意識を向けることで、貴社の経営を安定させる一助となります。

企業法務サポート

裁判で勝つためには適切な証拠戦略と法的知見が重要です。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、企業法務全般について豊富な経験を有し、事前の予防策から訴訟対応まで一貫してサポートいたします。

企業法務のプロを有効活用することで、リスクをコントロールし、より有利な立場で紛争に臨むことが可能となります。

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