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【使用者向け】労働時間—自宅待機命令中の社員に対する賃金支払義務

【質問】

社員Xについて、当社の顧客情報、営業情報を漏洩させた疑いがあることから、事実関係の調査及び証拠隠滅防止のため、Xに対して2週間の自宅待機命令を下しています。
現在、事実関係を調査している最中ですが、調査の結果Xによる情報漏洩が確認された場合、Xに対する懲戒処分を下す予定です。
調査結果が判明するまで、会社はXに対して、自宅待機期間に相当する賃金を支払う義務があるでしょうか。

【回答】

業務命令としての自宅待機命令を行う場合、会社は当該自宅待機期間に相当する賃金支払義務を負うため、Xに対して当該期間に相当する賃金を支払う必要があります。

【解説】

1. 懲戒処分としての自宅待機命令及び業務命令としての自宅待機命令

自宅待機命令には、懲戒処分としての「出勤停止」(自宅待機)と、業務命令としての自宅待機の2種類に大別することができます。
この点、懲戒処分としての「出勤停止」とは、服務規律違反に対する制裁として労働契約を存続させながら労働者の就労を一定期間禁止することをいいます。出勤停止中は賃金が支給されず、勤続年数にもカウントされないのが通常です。
これに対して、業務命令としての自宅待機命令とは、解雇や懲戒解雇の前提として、事実関係の調査及び処分を決定するまでの間、就業を禁止することをいいます。
社員には会社に対する労務提供義務がある一方、会社に対する就労請求権はない(読売新聞社事件(東京高裁昭和33年8月2日判タ83号))ことから、会社は、就業規則上の根拠がなくても業務命令としての自宅待機命令を下すことが認められています(日通名古屋製鉄作業事件(名古屋地裁平成3年7月22日労判608号)、ネッスル(静岡出張所)事件(静岡地裁平成2年3月23日労判567号))。

2. 自宅待機命令の有効性—業務命令権の濫用

前述のとおり、会社は業務命令としての自宅待機を下す権限が認められていますが、業務命令権の濫用とならないためには、「それ相当の事由」が存在することが必要とされています。
この点、派遣社員との不倫を非難するはがきが取引先に出回った営業担当社に対して、有給の自宅待機を命じた事案において、裁判所は、「自宅待機・・・も、労働関係上要請される信義則に照らし、合理的な制約に服すると解され、業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず、自宅待機を命じあるいはその期間が不当に長期にわたる等の場合には、自宅待機命令は、違法性を有するものというべきである」と判示しています(ただし、当該事案においては、裁判所は、結論として、当該従業員について「そのままセールス活動を続けさせることは業務上適当ではな」いとして、2年間の有給自宅待機命令を有効と判示しています)。
このように、業務命令としての自宅待機が業務命令権の濫用とならないよう、自宅待機の期間が不当に長期にわたること等のことがないよう留意する必要があります。

3. 自宅待機期間中の賃金支払義務

自宅待機期間中、社員は会社に対して労務を提供していないことから、会社は社員に対して賃金を支払う必要はないとも思えます。
しかし、債務の履行不能の場合の反対給付請求権の有無に関する民法536条2項及び労基法26条より、会社が社員に対して賃金を支払うことなく就労を拒否できる場合とは、当該就労拒否が会社の責に帰すことのできない事由に基づく場合に限定されており、会社は原則として、社員の自宅待機期間中の賃金支払義務を負うこととされています(京阪神急行電鉄事件(大阪地裁昭和37年4月20日))。
ただし、事故発生、不正行為の再発のおそれなど、社員の就労を許容しないことについて実質的理由が認められる場合には、例外的に賃金支払義務を負わないこととされています(日通名古屋製鉄作業事件)。

4. ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、懲戒処分の前提としての事実調査のために自宅待機命令を下していることから、業務命令としての自宅待機命令を行う場合といえます。
当該自宅待機の期間は2週間ですので不当に長期とはいえず、業務命令権の濫用に該当せず適法な自宅待機命令と考えられます。もっとも、事故発生、不正行為の再発のおそれなど、社員の就労を許容しないことについて実質的理由が認められる場合でない限り、原則として会社は当該自宅待機期間中に相当する賃金支払義務を負うため、Xに対して当該期間に相当する賃金を支払う必要があります。

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