相談事例
同一労働同一賃金における各「福利厚生」の見直しをする際の注意点を教えてください。
解説
福利厚生施設
ガイドラインの考え方
同一労働同一賃金ガイドライン13頁をご参照ください。
実務上の対応
ガイドラインでは、福利厚生施設とは、「給食施設、休憩室及び更衣室」をいうと定義されています。
またパート・有期法12条では、給食施設・休憩室・更衣室については、比較対象労働者に利用の機会を与える場合には、取組対象労働者にも利用の機会を与えることが義務づけられています。
もっとも、平成31年1月30日付「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」と題する通達では、「ただし、短時間・有期雇用労働者の従事する業務には更衣室が必要でなく、当該業務に従事している通常の労働者も同様の実態にある場合には、他の業務に従事している通常の労働者が更衣室を利用しているからといって当該短時間・有期雇用労働者に更衣室の利用の機会を与える必要はないことが通常であること」と明示されています。
したがって、「通常の労働者」のうち、同一の業務に従事している者との対比で考える必要があることに留意する必要があります。
転勤者用社宅
ガイドラインの考え方
同一労働同一賃金ガイドライン13頁をご参照ください。
実務上の対応
3つの分類
社宅は、その内容に応じて、①従業員の福利厚生、②転勤者に対する補助、③住宅供給が少ない地域または物価水準が高い地域に勤務する従業員に対する補助等に分類することができます。
① 従業員の福利厚生
「福利厚生施設」の考え方が妥当します。
② 転勤者に対する補助
短期・有期社員の「職務の内容および配置の変更の範囲」に応じて検討する必要があるといえます。
短期・有期社員には勤務地の異動を伴う配置転換が予定されていない場合、社宅の利用を認めないことも合理的であると考えられます。
一方、短期・有期社員でも正社員と同様の配置転換が予定されている場合、短期・有期社員を社宅の対象外とすることは不合理な待遇差と考えられるおそれがあります。
③ 住宅供給が少ない地域または物価水準が高い地域に勤務する従業員に対する補助
「地域手当」の考え方が妥当します。
有給の保障
ガイドラインの考え方
同一労働同一賃金ガイドライン13ないし14頁をご参照ください。
実務上の対応
「法定外休暇」の考え方が妥当します。
病気休職
ガイドラインの考え方
同一労働同一賃金ガイドライン14頁をご参照ください。
実務上の対応
病気休職は、解雇を猶予して健康回復を促し、職務能率の維持向上を図るための制度になります。
病気休職の制度趣旨は、正社員だけでなく短期・有期社員にも妥当するため、短期・有期社員に対して一律に休職制度の対象外とすることは認められない可能性が高いといえます。
実務上、正社員に対して休職制度を設けている場合、短期・有期社員にも一定の休職制度を設けることが無難といえます。
もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、解雇猶予措置としての性質や今後の就労可能性に対する期待という観点から、勤続期間の長さに応じた休職期間の差異を設けることは認められ得ると考えられます。
法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇
ガイドラインの考え方
同一労働同一賃金ガイドライン14ないし15頁をご参照ください。
実務上の対応
傾向
法定外休暇については、正社員と短期・有期社員との間の相違は認められにくい傾向にあります。
4つの分類
法定外休暇の制度は、①勤続に対する報償、②就労に対する心身の疲労回復、③人事異動に対する心身の疲労回復、④私生活上の事由に対する援助、に分類することができます。
① 勤続に対する報償
有為の人材の獲得・定着を図る目的の下で、長期雇用が予定されている正社員に限って付与することも合理的であると考えられます。
もっとも、休暇の付与条件(一定の勤続年数)を満たす短期・有期社員が存在する場合、当該短期・有期社員にも適用範囲を拡大することを検討したほうが無難といえます。
② 就労に対する心身の疲労回復
短期・有期社員も就労を行っている以上、疲労回復の要請は同様に当てはまることから、短期・有期社員を一律に対象外とすることは認められ難いと考えられます。
もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、就労の程度はフルタイム勤務を行う正社員と短期・有期社員では異なり得るため、所定労働時間に比例した付与日数の設定は許容されると考えられます。
③ 人事異動に対する心身の疲労回復
短期・有期社員の「職務の内容および配置の変更の範囲」に応じて検討する必要があります。
短期・有期社員には勤務地の異動を伴う配置転換が予定されていない場合、勤務地の異動を付与事由とする休暇を認めないことも合理的であるといい得ますが、短期・有期社員にも同様の配置転換が予定されている場合、短期・有期社員を当該休暇の対象外とすることは合理的とは言い難いと考えられます。
④ 私生活上の事由に対する援助
短期・有期社員であっても私生活上の事由に基づく就労免除の要請は異ならないと考えられることから、正社員と同等の制度を設ける必要があると考えられます。
ご相談のケースについて
各「福利厚生」の性質や目的に応じて、どのような内容の相違が合理的であるとして認められるかの判断は異なります。
同一労働同一賃金ガイドラインに掲載されている各「福利厚生」と同一ないし類似の手当に関する相違が争点となった裁判例も存在するため、裁判例における判断過程も参考となります。
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