企業法務リーガルメディア

発信者情報開示請求の成功率を高めるために必要な準備と証拠

はじめに

「発信者情報開示請求を依頼しても、失敗することがあると聞いた」
「自分のケースで、投稿者を特定できる可能性を少しでも高めるには、何をすれば良いのだろうか?」

発信者情報開示請求は、匿名の加害者に責任を追及するための第一歩ですが、残念ながら100%成功する手続きではありません。請求が裁判所に認められるためには、法律で定められた要件をクリアする必要があり、そのためには被害者自身による事前の「準備」と、的確な「証拠」の確保が重要になります。

準備や証拠が不十分なまま手続きを進めても、時間と費用が無駄になってしまうばかりか、ログの保存期間が過ぎてしまい、二度と加害者を特定できなくなるという最悪の事態にもなりかねません。

この記事では、発信者情報開示請求の成功率を最大限に高めるために、弁護士に相談する前に被害者自身ができる準備と押さえておくべき証拠のポイントについて、具体的に解説します。

Q&A

Q1. 開示請求を成功させるために、最も重要な証拠は何ですか?

最も重要な証拠は、「誹謗中傷投稿のURLが完全に表示された状態のスクリーンショット」です。単に悪口が書かれた部分だけを撮影したものでは不十分です。①いつ(投稿日時)、②どこで(サイト名とURL)、③誰が(投稿者名やID)、④どのような内容(投稿の全文)の投稿があったのかを、第三者である裁判所が一目見て客観的に理解できる形で保存する必要があります。これがなければ、そもそも開示請求のスタートラインに立つことも困難となります。

Q2. 権利侵害があったことを証明するには、どうすれば良いですか?「傷ついた」というだけではダメなのでしょうか?

残念ながら、「精神的に傷ついた」という主観的な感情だけでは、権利侵害があったと認めてもらうのは難しいです。裁判所が判断するのは、客観的に見て、あなたの法的な権利が侵害されているかどうかです。例えば、名誉毀損であれば「あなたの社会的評価を低下させる具体的な事実が書かれていること」、プライバシー侵害であれば「あなたの私生活上の事実が同意なく公開されていること」を、証拠に基づいて具体的に主張する必要があります。どのような権利が侵害されているかを明確にすることが、成功の鍵となります。

Q3. 投稿されてから時間が経ってしまいました。成功率は下がりますか?

はい、時間が経てば経つほど、成功率は著しく低下します。最大の理由は、投稿者を特定するための通信記録(ログ)が、プロバイダによって通常数ヶ月程度で消去されてしまうからです。ログが消えてしまえば、投稿者をたどることが不可能になります。誹謗中傷を発見したら、一日でも早く証拠を保全し、弁護士に相談するという初動のスピードが、成功率に直結します。

解説

発信者情報開示請求が認められるための法律上の要件は、大きく分けて2つです。この2つの要件を、いかに証拠で裏付けられるかが、成功率の鍵となります。

  1. 権利侵害の明白性
    開示請求の対象となる投稿によって、あなたの権利が侵害されたことが明らかであること。
  2. 開示を受けるべき正当な理由
    開示された情報を使って、損害賠償請求など、正当な権利行使を行う目的があること。

これらの要件を満たし、成功率を高めるための具体的な準備と証拠について見ていきましょう。

1. 「証拠」を確保する

何よりもまず、全ての土台となる証拠の確保です。不備のない証拠がなければ、どんなに優秀な弁護士でも戦うことはできません。

絶対に必要な証拠:URL付きスクリーンショット

撮影方法

PCやスマートフォンのスクリーンショット機能を使って、画面全体を撮影します。

必須項目

以下の5つの要素が1枚の画像に収まるようにしてください。

注意点

問題の部分だけを切り取る(トリミングする)のはNGです。証拠の客観性が損なわれ、証拠能力が否定されるリスクがあります。

補強となる証拠

2. 「権利侵害の明白性」を主張するための準備

確保した証拠を元に、「なぜ、この投稿が違法な権利侵害にあたるのか」を法的に主張する準備をします。

どの権利が侵害されたかを特定する

事実関係を時系列で整理する

これらを時系列でメモにまとめておくと、弁護士への相談がスムーズになり、主張の整理にも役立ちます。

3. 迅速に行動する(ログ保存期間との戦い)

どんなに完璧な証拠と主張を用意しても、ログが消えてしまえば全てが水の泡です。

弁護士に相談するメリット

これらの準備と証拠確保を、被害者自身が行うのは簡単ではありません。弁護士に早期に相談することで、成功率をさらに高めることができます。

  1. 証拠の有効性の的確な判断
    ご自身で確保した証拠が、裁判で通用するレベルのものか、何か不備はないかをプロの目でチェックし、必要であれば追加の証拠収集についてアドバイスします。
  2. 最適な法的構成の立案
    確保した証拠と事実関係に基づき、名誉毀損、プライバシー侵害など、複数の権利侵害の中から、裁判所に認められやすい、成功率の高い法的構成を戦略的に組み立てます。
  3. ログ保存の仮処分
    ログの消去を防ぐため、本格的な開示請求の前に、「ログの保存を命じる仮処分」を裁判所に申し立てるといった、専門家ならではの先手を打つことも可能です。
  4. 手続きのスピードアップ
    経験豊富な弁護士は、手続き全体を熟知しているため、無駄なく、最短ルートで開示請求を進めることができます。このスピードが、ログ保存期間という壁を乗り越えるための武器となります。

まとめ

発信者情報開示請求の成功率は、決して運任せではありません。「いかに完璧な証拠を」「いかに迅速に確保し」「いかに的確な法的構成で主張するか」という、事前の準備にかかっています。

成功率を高める3つの鍵

  1. 完璧な証拠
    URL付きのスクリーンショットが生命線。
  2. 明確な主張
    どの権利が侵害されたかを客観的に説明する。
  3. 迅速な行動
    ログが消える前に、一日でも早く動く。

これらの準備を万全にした上で、専門家である弁護士に依頼することが、匿名の加害者を特定し、正当な責任を追及するための方法です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご相談の際に、まず証拠の状況を拝見し、開示請求の成功の見込みについてお伝えします。成功の可能性を高めるための最善策を一緒に考えますので、ぜひ一度ご相談ください。


長瀬総合の情報管理専門サイト

情報に関するトラブルは、方針決定や手続の選択に複雑かつ高度な専門性が要求されるだけでなく、迅速性が求められます。誹謗中傷対応に傾注する弁護士が、個人・事業者の皆様をサポートし、適切な問題の解決、心理的負担の軽減、事業の発展を支えます。

【詳細・お問い合わせはこちら】


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業法務に関する様々な問題を解説したYouTubeチャンネルを公開しています。企業法務でお悩みの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。 

【チャンネルの登録はこちら】


NS News Letter|長瀬総合のメールマガジン

当事務所では最新セミナーのご案内や事務所のお知らせ等を配信するメールマガジンを運営しています。ご興味がある方は、ご登録をご検討ください。

【メールマガジン登録はこちら】


トラブルを未然に防ぐ|長瀬総合の顧問サービス

当事務所は多数の誹謗中傷の案件を担当しており、 豊富なノウハウと経験をもとに、企業の皆様に対して、継続的な誹謗中傷対策を提供しており、数多くの企業の顧問をしております。
企業の実情に応じて適宜顧問プランを調整することも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

【顧問弁護士サービスの詳細はこちら】

最新法務ニュースに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます

このカテゴリーの人気記事ランキング

モバイルバージョンを終了