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これって誹謗中傷?名誉毀損・侮辱・プライバシ|侵害の判断基準を弁護士が解説

はじめに

インターネットやSNSの普及により、誰もが手軽に情報を発信できる便利な時代になりました。しかしその一方で、匿名での心ない書き込みによる誹謗中傷が深刻な社会問題となっています。

「ネットで悪口を書かれたけれど、これって法的に問題になるの?」
「単なる批判と、権利侵害にあたる誹謗中傷との違いがわからない」
「どんな場合に削除や損害賠償を請求できるのだろうか?」

このようなお悩みを抱えている方は少なくありません。ネット上の書き込みによって精神的な苦痛を受けたり、ビジネスに悪影響が出たりした場合、泣き寝入りする必要はありません。どのような書き込みが法的な権利侵害にあたるのか、その判断基準を正しく知ることが、適切な対応への第一歩となります。

この記事では、ネット誹謗中傷で問題となる代表的な3つの権利侵害「名誉毀損」「侮辱」「プライバシー侵害」について、それぞれの成立要件や判断基準を、具体的な例を交えながら分かりやすく解説します。

Q&A

Q1. ネット掲示板で「Aさんは会社の金を横領している」と書かれました。事実無根なのですが、名誉毀損になりますか?

事実無根の内容であれば、名誉毀損が成立する可能性が高いです。名誉毀損は、書かれた内容が真実であるかどうかに関わらず成立します。重要なのは、「その書き込みが、あなたの社会的評価を低下させる具体的な内容であるか」という点です。「会社の金を横領している」という書き込みは、個人の信用や社会的評価を著しく低下させる具体的な事実の摘示にあたるため、名誉毀損と判断される可能性が高いでしょう。たとえ匿名掲示板であっても、不特定多数の人が閲覧できる状況(公然性)が認められれば、要件を満たします。

Q2. SNSで「頭が悪い」「気持ち悪い」などと書かれました。具体的な事実はありませんが、これも法的に問題になりますか?

具体的な事実を伴わない抽象的な悪口であっても、「侮辱」として法的な問題になる可能性があります。名誉毀損が「〇〇という事実」を指摘して社会的評価を下げる行為であるのに対し、侮辱は「バカ」「アホ」「死ね」といった、事実に基づかない単なる軽蔑的な表現や罵詈雑言によって、相手の名誉感情を害する行為です。2022年の刑法改正により侮辱罪は厳罰化されており、悪質なケースでは刑事罰の対象にもなります。

Q3. 自分の顔写真や自宅の住所を、許可なくネット上に公開されました。どのような権利侵害を主張できますか?

あなたの許可なく顔写真や住所といった個人情報をネット上に公開する行為は、「プライバシー侵害」にあたる可能性が高いです。プライバシー権は、私生活上の事柄をみだりに公開されない法的な権利です。一般的に公開を望まないような私的な情報(住所、電話番号、家族構成、病歴、顔写真など)を、本人の同意なく公開する行為は、プライバシー侵害として、投稿の削除や損害賠償請求の対象となり得ます。

解説

「誹謗中傷」と法律上の権利侵害の関係

まずご理解いただきたいのは、「誹謗中傷」という言葉は、実は法律上の正式な用語ではないという点です。一般的に、根拠のない悪口や嫌がらせによって他人の名誉や尊厳を傷つける行為全般を指す言葉として使われています。

法律の世界では、誹謗中傷とされる行為が、具体的にどの「権利」を侵害しているのかを特定し、それに基づいて法的な請求(削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求など)を行っていきます。

ネット上の誹謗中傷で問題となる代表的な権利侵害には、以下の3つがあります。

その他にも、信用毀損罪・業務妨害罪著作権侵害肖像権侵害などが問題となるケースもあります。ここでは、特に相談件数の多い上記3つの権利侵害について、その判断基準を詳しく見ていきましょう。

名誉毀損の判断基準

名誉毀損は、人の社会的評価を低下させる可能性のある具体的な事実を、不特定多数の人が知ることができる状態で示す行為です。刑法(名誉毀損罪:刑法230条)と民法(不法行為:民法709条、710条)の両方で問題となります。

名誉毀損の成立要件

名誉毀損が成立するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

公然(こうぜん)と

不特定または多数の人が認識できる状態を指します。インターネット上の掲示板やSNS、ブログのコメント欄、Googleマップの口コミなどは、誰でも閲覧できるため、基本的にこの要件を満たします。鍵付きのSNSアカウントや少人数のグループチャットなどであっても、そこから情報が広まる可能性(伝播性)があれば、「公然と」に該当すると判断されることがあります。

事実を摘示して

人の社会的評価を低下させるような具体的な事実を示すことを指します。ここでの「事実」とは、その内容が真実か嘘かに関わらず、「証拠などによって真偽を判断できる事柄」を意味します。

  1. 該当する例
    • 「Aは前科持ちだ」
    • 「B社の〇〇という商品は、違法な材料を使っている」
    • 「Cさんは上司と不倫関係にある」
  2. 該当しない例(事実の摘示がないため、後述の「侮辱」で問題となる)
    • 「Aはバカだ、アホだ」
    • 「Cさんは性格が悪い」

重要なのは、書かれた内容が真実であっても名誉毀損は成立しうるという点です。「Aは前科持ちだ」という書き込みが、たとえ真実であったとしても、それを不特定多数が見られる場所に書き込む行為は、Aさんの社会的評価を低下させるため、名誉毀損に該当するのです。

人の名誉を毀損(きそん)した

「名誉」とは、その人が社会から受ける客観的な評価(社会的評価)を指します。本人がどう感じたかという主観的な名誉感情とは区別されます。書き込みの内容が、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断して、対象者の社会的評価を低下させる可能性があると判断されれば、この要件を満たします。

名誉毀損が成立しない例外的なケース(違法性阻却事由)

上記の3要件を満たす書き込みであっても、以下の3つの条件をすべて満たす場合には、表現の自由や国民の知る権利の観点から、例外的に違法性がなくなり、名誉毀損が成立しないと判断されます。

  1. 公共の利害に関する事実に係るものであること(公共性)
    政治家の汚職疑惑や、大企業の製品の欠陥、社会的に影響のある事件の報道など、多くの人々の正当な関心事であることが必要です。
  2. その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること(公益目的)
    個人的な恨みを晴らすためや、嫌がらせ目的ではなく、社会全体の利益のために情報を発信したという目的が必要です。
  3. 摘示された事実が真実であることの証明があったとき(真実性)
    書き込みで指摘した内容が、真実であることが証明された場合です。また、仮に真実であると証明できなくても、真実であると信じるについて相当の理由があったとき(真実相当性)も、この要件を満たすとされています。

企業の不正を告発する口コミや、政治家のスキャンダルに関する報道などが、この例外規定によって守られることがあります。しかし、一個人のプライベートに関する暴露や、単なる悪口がこの例外規定で保護されることはほとんどありません。

侮辱の判断基準

侮辱は、具体的な事実を摘示せずに、他人を軽蔑するような価値判断を表示する行為です。名誉毀損と同様に、刑法(侮辱罪:刑法231条)と民法で問題となります。

侮辱の成立要件

侮辱が成立するための要件は、以下の2つです。

  1. 公然(こうぜん)と
    名誉毀損の場合と同様、不特定または多数の人が認識できる状態を指します。
  2. 人(法人も含む)を侮辱した
    事実を摘示せずに、相手に対する軽蔑的な感情を表現することを指します。いわゆる「悪口」や「罵詈雑言」がこれにあたります。

該当する例

名誉毀損との大きな違いは、「具体的な事実の摘示」があるかどうかです。例えば、「あいつは前科者だ」と書けば具体的な事実の摘示があるので名誉毀損、「あいつは社会のクズだ」と書けば事実の摘示がないので侮辱、というように区別されます。

侮辱罪の厳罰化(2022年刑法改正)

近年、SNSでの誹謗中傷が原因で著名人が亡くなるという痛ましい事件が起きたことなどを背景に、侮辱罪の法定刑が引き上げられました。

この厳罰化により、侮辱罪の公訴時効も1年から3年に延長され、これまで以上に悪質な投稿者に対して刑事責任を問いやすくなりました。

プライバシー侵害の判断基準

プライバシー侵害は、他人の私生活上の事柄を、本人の同意なくみだりに公開する行為です。これは主に民法上の不法行為として問題となります。

プライバシー侵害が成立するかどうかは、有名な判例(東京地裁 昭和39年9月28日判決「宴のあと」事件)で示された、以下の3つの要件を基準に判断されるのが一般的です。

  1. 私生活上の事実、または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること
    個人の私的な領域に属する情報であることが必要です。氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、家族構成、病歴、犯罪歴、未公表の個人の写真などが典型例です。
  2. 一般人の感受性を基準にして、本人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められるべき事柄であること
    もし自分が同じ立場だったら公開されたくない、と一般の人が感じるような事柄であるかどうかが基準となります。例えば、単に「Aさんが昨日コンビニで買い物をしていた」という情報だけでは、通常は公開を欲しない事柄とは言えないでしょう。しかし、それがストーカー的な監視のもとで詳細に報告されるような場合は、プライバシー侵害となり得ます。
  3. 一般の人々に未だ知られていない事柄であること(非公知性)
    その情報が、まだ世間に知られていない情報である必要があります。すでに新聞報道や本人のSNSなどで広く公開されている情報を転載しただけでは、原則としてプライバシー侵害にはなりません。ただし、一度公開された情報であっても、その後の時の経過などによって人々から忘れ去られているような情報(例えば、昔の逮捕歴など)を再び掘り起こして拡散する行為は、「忘れられる権利」の侵害として、プライバシー侵害にあたる可能性があります。

顔写真の無断掲載は、プライバシー侵害と合わせて肖像権侵害にもあたる可能性があります。肖像権は、みだりに自己の容貌等を撮影・公表されない権利であり、法律で明文化されてはいませんが、判例上認められている権利です。

弁護士に相談するメリット

ネット上で誹謗中傷の被害に遭ったとき、その書き込みが法的にどのような問題を含むのかを個人で正確に判断するのは簡単ではありません。また、サイト管理者への削除依頼や、投稿者を特定するための法的手続きは、専門的な知識と多くの時間を要します。

誹謗中傷の問題を弁護士に相談・依頼することには、以下のようなメリットがあります。

  1. 法的な見通しを立てられる
    あなたの受けた被害が、名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害などのうち、どの権利侵害にあたるのか、法的な観点から的確に判断してもらえます。削除請求や損害賠償請求が可能かどうか、その場合の見通しやリスクについても具体的なアドバイスを受けられます。
  2. 証拠の保全を適切に行える
    法的手続きを進める上で、誹謗中傷の書き込みがあったことを証明する「証拠」が不可欠です。問題の書き込みのURLやスクリーンショットなど、どのような情報をどのように保存すれば法的な証拠として通用するのか、専門的なアドバイスを受け、確実な証拠保全が可能になります。
  3. 複雑な手続きをすべて任せられる
    サイト管理者への削除依頼、裁判所を通じた発信者情報開示請求、投稿者特定後の損害賠償請求(交渉・訴訟)など、一連の煩雑な手続きを弁護士に一任できます。これにより、時間的・精神的な負担が軽減されます。
  4. 迅速な解決が期待できる
    個人で削除依頼をしても無視されるケースは少なくありません。しかし、弁護士が代理人として法的な根拠を示して請求することで、サイト管理者やプロバイダが真摯に対応し、迅速な削除や情報開示に応じる可能性が高まります。
  5. 加害者との交渉を有利に進められる
    投稿者が特定できた場合、損害賠償について加害者本人と直接交渉するのは精神的に大きな苦痛を伴います。弁護士が間に入ることで、冷静かつ法的に優位な立場で交渉を進め、適正な金額での和解や賠償金の獲得を目指すことができます。

まとめ

インターネット上の匿名の書き込みであっても、その内容が他者の権利を侵害するものであれば、決して許されるものではありません。本記事で解説した「名誉毀損」「侮辱」「プライバシー侵害」は、誹謗中傷で問題となる代表的な権利侵害です。

これらの判断基準に照らし、ご自身の受けた被害が権利侵害にあたる可能性があると感じたら、一人で悩まずに専門家へ相談することが重要です。どの権利侵害にあたるかの判断は、法的な専門知識がなければ難しい場合も多く、対応を誤ると証拠が消えてしまったり、時間がかかりすぎてしまったりするリスクもあります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷トラブルに関するご相談を積極的にお受けしております。「これって権利侵害になるのかな?」という段階でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。専門家である弁護士が、あなたのおかれた状況を丁寧にお伺いし、最善の解決策をご提案いたします。


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