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賃貸建物の明渡請求について1

賃貸建物の明渡請求について1

はじめに

物件の賃貸借契約が結ばれれば、当然に借主は賃料を支払う義務を負います。

もっとも、賃料を支払ってもらえない、家賃が何ヶ月も滞納になっているといった場合には、賃貸借契約を解除してその返還を求めていくことになるでしょう。本稿では、賃貸借契約を解除する方法や、明渡までの流れを数回に分けて解説します。

賃貸借契約の無催告解除

1 賃料が支払われない場合

賃借人が賃料を支払わない場合、債務不履行となります。もっとも、継続的に続けられる賃貸借契約の性質上、1度や2度の賃料の不払いが認められるだけでは、賃貸借契約の解除が認められません。

信頼関係が破壊されたと認められる場合でないと解除権が発生しないとされています。

2 無催告解除特約がある場合

賃貸借契約の条項として無催告解除特約が定められている場合、賃貸借契約を解除する催告なしに解除ができることになります。

もっとも、最高裁は「特約があったとしても、かかる特約が賃貸借契約の当事者間で既に当事者間に何らかの紛争があるとかその他継続的信頼関係を維持してゆくためにかかる厳重な条項を以て、賃料の支払いを保証することを必要とする等信義則上相当と認められる具体的な事情の存在として初めて有効として是認されるべき」[1]と判示しています。

したがって、単に一度の賃料不払いがあっただけでは、無催告解除特約がある場合であっても、直ちに賃貸借契約を解除することはできないといえます。

3 無催告解除ができる場合

最判昭和27年4月25日

最高裁は、賃貸借契約の無催告解除ができる場合として、「当事者の一方に、その信頼関係を裏切って、賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合」としています。

したがって、無催告解除特約が定められているという理由だけでは、直ちに賃貸借契約の解除ができないといえます。

最判昭和49年4月26日

本件は、賃借人が約9年10ヶ月の長期間に亘り賃料を支払わず、その間、対象不動産を自らの所有物件だと争って賃貸借契約の存在を否定し続けた事案です。

このケースでは、長期間に亘り賃料が支払われていないばかりか、賃貸借契約の存在を争っており、賃貸人と賃借人という関係は完全に破綻しています。したがって、無催告での賃貸借契約の解除が認められています。

小括

無催告解除特約がある場合であっても、特約の存在を理由に直ちに賃貸借契約が解除できる場合ばかりではありません。契約当事者間において、信頼関係が破壊されたと認められる事情が必要になります。

また、どの程度の期間、賃料の不払いが続いていれば無催告解除が認められるかという点は、事案によって異なります。

したがって、賃貸借契約の解除を進める場合には、賃料不払いが複数回継続していることを根拠に、賃料支払いの催告を行い、賃貸借契約の解除を進める方針が無難といえます。

賃貸借契約の催告解除を行う場合

賃借人に催告を行って解除を進める場合に想定される問題については、次回解説します。

 

[1] 最判昭和43年11月21日

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