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非金銭債務の不履行による顧客への代金支払い請求について

非金銭債務の不履行による顧客への代金支払い請求について

質問

新型コロナウイルス感染症の影響により、契約上の非金銭債務を履行できませんでした。顧客は新型コロナウィルス感染症の影響があったにせよ、契約上の義務の履行を受けていない以上、代金を支払う必要はないと主張しています。顧客に対して代金の支払いを求めることはできないのでしょうか。

回答

顧客に対して代金の支払いを求めることができない可能性が高いと考えられます。

解説

以下では、民法の適用の有無等の場合分けをして論じます。

民法536条1項の適用がある場合

まず、質問にある「契約上の非金銭債務」の具体例を考えてみましょう。例えば、チケットの予約を事前にお客様が行い、当日現金払いでチケットと引き換し、音楽イベントを開催する場合(=「契約上の非金銭債務」)が考えられます。

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、政府・自治体がイベント中止の検討を要請していることから、コロナウイルス感染症の拡大を懸念して音楽イベントなどの開催を断念する場合があります。

この場合は、イベントの主催者・お客様ともに帰責事由(例えば、イベント主催者が日程開催を間違えて告知していた等の責任を問える場合です)がないといえることから、お客様もイベントの代金を支払う必要がありません(民法536条1項)。

(債務者の危険負担等)

第五百三十六条当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

特約(規約)がある場合

例えば、イベント主催者とお客様との間で事前に「主催者の帰責事由を問わず、イベントを開催できない場合でもお客様は、イベント代金を支払う義務を負う」旨の規約を見逃して、契約を締結してしまった場合は、どうでしょうか。

この場合は、主催者の一方的な都合の場合(例えば、海外旅行に行くのでイベントを急に取りやめた場合)にも、お客様に支払義務が発生することとなり、お客様の利益を一方的に害するものと考えられます。

したがって、規約は、消費者契約法第10条の規定により無効となる可能性が高いです。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

特定物(当事者が物の個性に着目した商品)の場合

新型コロナウイルスは、動物にも感染することが報告されています[1]

例えば、猫(説明の便宜上、特定の動物を使用します。)の売買後に新型コロナウイルスに猫が感染し、亡くなってしまった場合を考えます。

契約時点では、適用される法律の内容がことなるため、改正民法前(2020年4月1日より前)と改正民法後(2020年4月1日以降〜)に分けて論じます。

改正民法前

改正民法前の特定物に関する危険負担の条文は、以下の通りです。

(債権者の危険負担)

第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

猫の売買契約を締結した後に店のゲージで保管中に新型コロナウイルスにより猫が亡くなってしまった場合を考えましょう。

お店が入店する際のアルコール消毒、体温計を使用し入店制限をする等を徹底し何らお店に帰責事由がない場合、お店側に責めに帰すべき事由がなく、猫が亡くなったことから、「その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し」たといえ、買主に対して、猫の売買代金を請求できる可能性があります。

他方で、実務上、契約書に特定物の支配が移転したときに危険も移転する旨(商品の引渡しと同時に危険(=商品が滅失した場合の料金の支払責任)が移転する旨の文言)が定められていること、危険が移転するのは特定物に対する契約時ではなく、目的物の引き渡し時と考える方が合理的な条文の解釈と考えられています。[2]

本件では、店側がいつでも買主に引き渡せる状態になっていれば、猫の支配が買主に移転したと評価することも十分にありえる解釈です。

したがって、店側は、買主に対して、猫の売買代金を請求できる可能性があります。

改正民法後

改正前民法534条は、削除され、民法536条に統一されました。改正後の条文は、以下の通りです。

(債務者の危険負担等)

第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

お店が入店する際のアルコール消毒、体温計を使用し入店制限をする等を徹底し何らお店に帰責事由がない場合、猫を引き渡すという債務について、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」といえ、買主である「債権者は、」猫の売買代金を支払うという「反対給付の履行を拒むことができる」という結論になります。

結語

このように改正民法前か後かで適用される条文が異なり、結論に大いに影響を与えるので注意しましょう。

 

[1].https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/doubutsu_qa__00001.html#Q1

[2] 潮見佳男「基本講義債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得 第2版」(新世社、2009年、31頁)

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