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クレーム対応におけるコンプライアンスリスク

ポイント

  1. 悪質なクレームにより従業員が自殺する社会的現象が起きており、企業としてクレームに対する適切な対応が求められます。
  2. クレームに対するコンプライアンスリスクとして、①職場の安全配慮義務及び健康配慮義務違反、②使用者責任(民法715条)、③レピュテーションリスクが考えられます。
  3. クレームの主な類型として5つあり、各クレームの種類に応じた対応が求められます。

はじめに

厚生労働省によると顧客の従業員に対する悪質なクレーム、悪質な迷惑行為、カスタマーハラスメントと言われる行為により2018年までの10年間で78人が労災認定を受け、78人中24人が自殺しました。

厚生労働省は、平成30年3月に作成した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」において、顧客の著しい迷惑行為に対する呼び名として「カスタマーハラスメント」や「クレーマーハラスメント」などの概念を紹介しています。

このように悪質なクレームが社会的問題になっているため、企業として適切な対応をとることがコンプライアンスの観点から求められます。

企業は、顧客の従業員に対する悪質なクレームを放置し続けたことにより、従業員が精神障害に罹患するなどした場合には、職場の安全配慮義務違反、健康配慮義務違反(労働契約法第5条)の責任を問われる可能性があります。

また、使用者は、顧客のクレームに逆上した従業員が顧客に対する暴言、暴力行為に及んだ場合には、顧客に対して使用者責任に基づき損害賠償請求の責任を負います。

さらに、顧客が悪質なクレームをし、従業員をあえて逆上させて暴言、暴力行為に及んだ行動を動画にて撮影し、Twitter、YouTubeをはじめとするSNSに投稿した場合には、企業としてのレピュテーションリスクが生じることは避けられません。

このように、クレームに対するコンプライアンスリスクとして、①職場の安全配慮義務及び健康配慮義務違反、②使用者責任(民法715条)、③レピュテーションリスクが考えられます。

以下、顧客の悪質なクレームの主な類型を参考となる簡略な対応方針とともに5つ紹介します。

悪質なクレームの主な類型

暴言行為

大きな怒鳴り声をあげる、バカ野郎などと侮辱的な発言などがあります。

対応としては、まずは、冷静になってどのような発言があったのかをメモや録音をして記録化します。決して売り言葉に買い言葉で対応してはおけません(さらなる言い争いに発展するだけです)。可能な限り、記録を残す者と言い分を聞く者という役割分担をかねて複数で対応することが望ましいです。

他のお客様の迷惑となり営業に支障をきたす場合には、警察をよんで対応する等の状況に応じた適切な対応をとります。

暴力行為

意図的に殴る、蹴るなどの身体的暴力だけではなく、物をなげる、振りまわる行為も含まれます。

対応としては、従業員だけではなく顧客の安全も確保する緊急の必要性があるため、顧客へ危害が及ばないよう避難誘導を実施する者と、警察に通報する者、暴力行為をふるってきたものを取り押さえるものという役割分担をして複数名で対応します。

執拗に繰り返す行為

電話で何度も同じことを繰り返し問い合わせることや不合理な要求を繰り返す行為です。

対応としては、通話内容を録音し、記録化します。企業として、不合理な要求に応じない毅然とした対応を伝えます。執拗な繰り返しにより、業務に支障が生じる場合には、業務妨害罪として警察に通報することも検討します。

また、氏名、住所、連絡先を聞いておくと、弁護士に相談した際に電話をやめるよう内容証明の通知書等を送付する対応が速やかに行えます。

長時間拘束

顧客の言い分を飲むまで従業員を拘束し続ける行為です。

対応としては、上司などの地位が高いものに交代して、言い分を聞き取り、後日、再度、こちらから連絡する旨を伝えて氏名、住所、電話番号などを控えます。

顧客に退去するよう伝えたにもかかわらず、さらなる拘束をし続ける場合には、警察に連絡して毅然とした対応をとります。

SNSでの誹謗中傷

インターネット上で名誉を毀損する投稿などをする行為です。

対応としては、発信者情報開示請求等の手続きをし、投稿者の情報を開示した後、損害賠償請求の手続きをとります。まずは、書き込みがされたサイトをスクリーンショット等で保存し、ログを保存した上で法律事務所や、最寄りの法務局に行き今後の手続きを相談することが望ましいです。

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