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運送業界における労務管理の重要性

相談例

当社では、以前から従業員とのトラブルで悩まされてきましたが、最近は従業員が突然に辞めたいと言ったり、パワハラ被害を訴えたりするケースが増えてきました。

以前とは従業員とのトラブルとは内容が変わってきているようにも感じますが、これからは従業員の労務管理を行うにあたって、どのような点を注意すればよいでしょうか。

解説

人手不足時代における労務管理

運送業界を取り巻く労働環境は他業種と比して厳しい状況にあることを反映し、人手不足の傾向にあることは前記「はじめに 働き方改革時代における運送業界に求められる視点」記載のとおりです。

ましてや、幅広い業種において人手不足が常態化しつつあると言われる昨今では、運送業界の人手不足は一層深刻といえます。

人手不足時代における労務管理では、以下の3つの変化に留意する必要があります。労務紛争を予防するとともに適切に解決するためには、労務紛争における背景事情の3つの変化を押さえておきましょう。

人手不足による労使関係の変化

まず、人手不足に陥ることによって、労使関係が変化することに留意する必要があります。

企業は、労働者との間で雇用契約等を締結し、業務上の指揮命令権限を有することから、一見すると企業は労働者よりも立場が強いと思われがちです。

しかしながら、どのような企業であっても、業務を遂行するためには最低限の人員を確保する必要があります。人手不足に陥った場合、最低限の人員を確保することさえ難しくなり、いまいる労働者が欠けてしまうと、企業の業務遂行を維持することができなくなるおそれがあります。

その結果、企業よりも労働者の方が、かえって立場が強くなるという逆転現象が起こります。

労働者の権利意識の変化

人手不足に起因する労使の立場の逆転現象が起きることによって、労働者の権利意識にも変化が起こります。

例えば、長時間労働は美徳とされる風潮があった時代もありますが、人手不足時代では長時間労働を推奨すれば、「ブラック企業」と揶揄されるおそれもあります。

また、上司による熱心な指導は、情熱的指導として歓迎されていた時代もありましたが、人手不足時代ではパワーハラスメントと捉えられるおそれもあります。

このように、人手不足時代では、労働者の権利意識の変化によって、従前は美徳とされていた労務環境が、逆に深刻な労働問題と捉えられるおそれがあります。

労務問題の変化

労働者の権利意識の変化によって、従前の美徳が深刻な労働問題となるだけでなく、新たな労働問題が生じることもあります。

例えば、近時では、メンタルヘルス不調に対する関心が高まっており、労働者のストレスを軽減することが、離職率を低下させ、ハラスメントトラブルを防止させるポイントであると注目されるようになっています。

また、人出余りの状況では、企業から労働者に対し、解雇や退職勧奨等を行って人件費を削減しようとすることが問題となりますが、人手不足時代では労働者が退職したくても退職できないという問題や、業者へ委託して退職代行を行うという問題が生じるようになっています。

人手余り時代 → 人手不足時代 → 労働問題
人手余り時代 人手不足時代 労働問題
365日24時間 ブラック企業 メンタルヘルス対応
サービス残業 未払残業 残業代請求
情熱的指導 パワハラ パワハラへの損害賠償等
コミュニケーション セクハラ セクハラへの損害賠償等
会社 → 社員
退職してもらいたい
社員 → 会社
退職させてもらいたい
退職トラブル・退職代行

なお、2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大により、業種や地域によっては景況感が大きく変わってきている状況もあります。

運送業においても新型コロナウイルス感染症の影響は無縁ではなく、特にBtoBを中心とした運送を担当していた運送会社は、大きな影響を受けている印象があります(BtoCを中心としている運送会社の場合、比較的影響は少ないように感じます)。

今後は、人手不足時代から、再び人手余り時代に戻る可能性も否定できません。この場合には、労務問題の性質が変わってくる可能性があることには留意が必要です。

労務管理・問題社員対策の重要性

労務紛争の増加

このように、人手不足時代における労務紛争の背景事情の3つの変化に伴い、労務紛争は増加傾向にあります。

厚生労働省が公表する「「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、平成30年度の総合労働相談件数は111万7983件で、11年連続で100万件を超え、高止まりにあると指摘されています。

労務紛争に関与する弁護士の増加

また、近時は労務紛争に関与する弁護士も増加しています。

特に、残業代請求の消滅時効期間が、従前は2年間であったところ、3年間に延長されることによって、一層労務紛争に関与する弁護士が増加することが予想されます。未払残業代を請求する労働者から依頼を受ける弁護士が設定する弁護士費用は、未払残業代が認められた金額に対して一定のパーセンテージとされる傾向にありますが(例:未払残業代200万円に対して15%を弁護士費用とする場合には、30万円(消費税別)が弁護士費用とされます)、消滅時効期間が2年から3年に延長されることによって、単純に回収見込金額は1.5倍に増加することになります。なお、残業代請求の消滅時効期間は、当面は3年とされていますが、将来的には5年に延長される予定であり、さらに残業代請求額は増額となる可能性があります。

労働者側に弁護士が介入することは、本来遵守すべき労務管理を十分に果たすことができなかった以上やむを得ない面もありますが、消滅時効期間の延長に伴い未払残業代の請求額が大幅に増額となる可能性があることは、深刻な経営リスクに発展するおそれがあることに留意する必要があります。

労務紛争は社内秩序に影響する

さらに、労務紛争は、一労働者との間だけの問題としてとどまるとは限りません。

例えば、ある労働者が企業に対して未払残業代を請求した場合、当該労働者の労働時間管理だけに不備があることはかえって珍しく、多くのケースでは他の労働者との関係でも労働時間管理に不備があり、長時間労働が常態化していながら看過されている傾向にあります。

このような長時間労働が常態化しているケースでは、一労働者が企業に対して未払残業代を請求してきた場合、他の従業員にも伝播していき、企業の根幹を揺るがしかねないほどの未払残業代請求額に発展するおそれがあります。

また、一労働者との間の個別労働紛争から、労働組合やユニオンに加入されることで集団労働紛争に発展することもあります。

まして、現在はIT化の進展に伴い、個人でもSNSを通じて容易に情報発信を行うことが可能です。企業の労務紛争への対応姿勢に問題があれば、瞬く間にインターネット上に拡散し、多くの方に知られるところとなります。企業側の対応が、ツイッターなどのSNSを通じて世間に拡散された結果、企業の見識を問われる事態に陥ることは決して少なくありません。

例えば、大手運送会社では、従業員が荷物の管理状況をツイッター上で投稿したり、上司が部下に対して暴行を加えたりしている動画が拡散されたりするなどしています。

これまでであれば、一労働者との間で解決することができた労務紛争が、社外にも拡散されることによって、他の労働者にも波及したり、企業全体のレピュテーションリスクにも発展したりするおそれがあります。

ご相談のケースについて

  1. 人手不足時代における労務管理は、①労使関係の変化(使用者<労働者)、②労働者の権利意識の変化、③労務問題の変化、という3つの背景事情を意識する必要があります。
  2. 新型コロナウイルス感染症対応の影響により、業界全体の景気が大きく変動する可能性があり、人手不足から人手余りに戻る可能性があることも留意しましょう。
  3. 年々増加傾向にある労務紛争や、弁護士が労務紛争に介入するケースも増加していること等を踏まえ、運送会社が持続発展可能な運営を行うために、適切な労務管理を実践することが求められます。

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私たち弁護士法人長瀬総合事務所は、企業法務や人事労務・労務管理等でお悩みの運送会社・運送事業者を多数サポートしてきた実績とノウハウがあります。

私たちは、ただ紛争を解決するだけではなく、紛争を予防するとともに、より企業が発展するための制度設計を構築するサポートをすることこそが弁護士と法律事務所の役割であると自負しています。

私たちは、より多くの企業のお役に立つことができるよう、複数の費用体系にわけた顧問契約サービスを提供しています。

 

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