【質問】

このたび、当社の社員Xが社内で上司に対して暴力行為を働いたことから、Xを懲戒解雇しました。
もっとも、当社の就業規則では、「従業員の懲戒は、賞罰委員会の審査を経て社長がこれを行う」、「委員会が必要と認めた場合又は被審査者から申出があった場合は、被審査者を委員会に出席させて当該事件について陳述させることができる」旨の規定がなされているところ、Xから、「賞罰委員会を開催もせず、また、弁明の機会も与えられずに一方的に解雇されたものであって、超解雇は無効だ」として訴えを提起されてしまいました。
たしかにXの解雇にあたって賞罰委員会を開催しなかったのは事実ですが、賞罰委員会に替わって当社の人事役員等が審査を経た上で社長に報告しており、代替措置はとっていましたし、解雇処分の当時、Xから弁明の機会付与の申し出があったわけでもありません。
Xの懲戒解雇処分は有効だったといえるでしょうか。

【回答】

就業規則上に賞罰委員会等への付議が必要とされ、また、弁明の機会を付与することが必要とされているにもかかわらず、かかる手続を経ずに懲戒解雇を行った場合、重大な手続的適正違反として、当該懲戒解雇は原則として無効となります。
もっとも、当該手続に実質的に代替する措置がとられていたのであれば、手続違反の程度が軽微なものとして、懲戒解雇が認められる可能性があります。
したがって、賞罰委員会に替わって会社の人事役員等が審査を経た上で社長に報告するという代替措置がとられており、また、解雇処分の当時、Xから弁明の機会付与の申し出があったわけでもないことも考慮すると、手続違反の程度が軽微なものとして、Xの懲戒解雇は有効と判断される可能性があります。

【解説】

1. 解雇手続の適正

懲戒解雇を行う場合、解雇事由が存在するだけでなく、労働協約又は就業規則に定められた手続を遵守することが必要となります。
具体的には、就業規則上定められた労使代表から構成される賞罰委員会又は懲戒委員会の議を経ること、労働者本人に懲戒事由を伝え、弁明の機会を付与すること等があります。

2. 賞罰委員会等への付議の要否

かかる賞罰委員会等への付議が定められた趣旨は、労働者に重大な不利益を及ぼす懲戒権の行使について手続的適正を及ぼし、慎重を期すことにあります。
したがって、就業規則等に賞罰委員会等への付議が規定されているにもかかわらず、これを経ずに解雇を行った場合、重大な手続違反として、原則として懲戒解雇は無効となります(東北日産電子事件(福島地裁会津若松支部昭和52年9月14日労判289号))。
もっとも、賞罰委員会等への付議が必要的とされていない場合には、かかる委員会での審査を経ずになされた解雇であっても無効とはならない、と解されています(エス・バイ・エル事件(東京地裁平成4年9月18日労判617号))。
また、賞罰委員会等による審査に実質的に代替する手続がとられた場合や、賞罰委員会等に付議しなかったことに合理的な理由がある場合等、当該処分の手続違反の程度が軽微である場合には、当該処分の手続規定違反の程度、当該解雇それ自体の適法性・相当性等を総合的に考慮し、懲戒解雇処分の有効性が判断されることとなります(中央林間病院事件(東京地裁平成8年7月26日労判699号)、東京医療生協事件(東京地裁平成2年12月5日労判575号))。

3. 弁明の機会の付与の要否

また、就業規則等に、使用者が労働者に対して懲戒解雇処分を行う場合、当該労働者に対して弁明の機会を付与する旨の規定があるにもかかわらず、当該弁明の機会を与えずに懲戒解雇を行った場合の有効性についても、前記2.「賞罰委員会等への付議の要否」における議論が同様に妥当します。
なお、使用者が労働者に対して弁明の機会を付与する旨の規定がない場合に、弁明の機会を与えずに解雇した場合、そのことのみで手続上の瑕疵があるものとはいえず、解雇は有効である、とされています(東洋リース(解雇)事件(東京地裁平成10年4月28日労判749号)、日本電信電話事件(大阪淡路支店等)事件(大阪地裁平成7年5月12日労判749号))。
ただし、上記裁判例も、告知聴聞の手続自体を不要とまでしたわけではなく、告知聴聞の手続を欠くことにより解雇が無効となりうる場合があることに留意する必要があります。

4. ご相談のケースについて

就業規則上に賞罰委員会等への付議が必要とされ、また、弁明の機会を付与することが必要とされているにもかかわらず、かかる手続を経ずに懲戒解雇を行った場合、重大な手続的適正違反として、当該懲戒解雇は原則として無効となります。
もっとも、当該手続に実質的に代替する措置がとられていたのであれば、手続違反の程度が軽微なものとして、懲戒解雇が認められる可能性があります。
したがって、賞罰委員会に替わって会社の人事役員等が審査を経た上で社長に報告するという代替措置がとられており、また、解雇処分の当時、Xから弁明の機会付与の申し出があったわけでもないことも考慮すると、手続違反の程度が軽微なものとして、Xの懲戒解雇は有効と判断される可能性があります。