解雇同意約款・協議約款に違反した解雇の可否

【質問】

当社では、労働組合との間で、解雇について、「事前に組合と協議の上、同意を得た上で労働者の解雇を決定する」旨の労働協約を締結しています。このたび、当社の社員Xが当社の顧客情報を盗み、同業他社に転売するという不正行為を働いたことが判明したため、Xを懲戒解雇する方針で検討しています。

ところが、労働協約に従って労働組合との間でXの懲戒解雇について何度も協議を重ねてきましたが、労働組合からは「Xの諭旨解雇はともかく、懲戒解雇は認められない」の一点張りで議論は平行線を辿ってしまっています。

当社としては、社の引き締めを図る意味も含め、Xに対する懲戒処分を断行するつもりですが、労働組合との協議が調わずに行った解雇は無効になるのでしょうか。

 

【回答】

ご相談のケースにおいて、会社がXの懲戒解雇について労働組合に協議を申し入れ、Xの不正行為を理由に懲戒解雇する旨十分に説明し、協議を行ったにもかかわらず、労働組合が態度を変えずに議論が平行線を辿ってしまったような場合であれば、会社として労働組合の同意を得るよう十分に努力したといえ、解雇同意約款・協議約款に反しない特段の事情があるものとして、Xを懲戒解雇することは可能と思われます。

 

【解説】

1 解雇同意約款・協議約款の効力

解雇同意約款・協議約款とは、会社が社員を解雇する際に、労働組合の同意ないし協議を必要とする旨の労働協約条項をいいます。

なお、解雇同意約款が存在する場合でも、解雇の必要性等に鑑み、組合の同意を得るよう十分に協議を尽くせば足りる場合がある一方、協議約款が存在する場合でも、会社は組合の同意が得られるよう十分な協議をすることが必要となるため、両者において実質的な差はないといえます。

 

2 解雇同意約款・協議約款に違反した解雇の効力

裁判例に照らすと、解雇同意約款・協議約款に違反した解雇については原則として無効とする一方、①会社が組合の了解を得るよう最大限の努力をした場合、②組合が会社の提案を真剣に検討する姿勢を示さない等、同意権、協議権を濫用していると認められる場合、又は③協議約款に基づく協議を行う労使間の信頼関係が全く存在しない等、「特段の事情」が認められる場合には、組合の了解を得ずに行った解雇も有効とされています。

解雇同意約款・協議約款に違反した解雇の効力が問題となった主な裁判例は、概要以下のとおりです。

裁判例

判旨の概要

結論

ロイヤル・インシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー事件(東京地裁平成8年7月31日労判712号)

就業規則に「会社が経営上やむを得ないと判断し、労働組合がそれを了承したとき」との解雇条項が規定されている場合において、同条項に定める手続要件を実践することが不可能であるかまたは同規定に定める手続要件の履践を求めることがかえって労働者に酷な結果を招来してしまうというような極めて特殊な事情が存在するなど特段の事情がない限り、労働組合の了承を得る必要があり、これを得ずになした解雇は無効となる。

無効

(×)

大阪フィルハーモニー交響楽団事件(大阪地裁平成元年6月29日労判544号)

解雇協議約款の「協議」とは、労使が議論を尽くすことをいうとし、使用者が組合との間で6回協議を行ったものの、終始解雇に固執し、組合の復職要求に一顧だにしなかった事案において、いまだ議論を尽くしたとはいえない、とした。

無効

(×)

洋書センター事件(東京地裁昭和61年5月29日労判489号)

労働協約において、労働条件の変更について事前に協議する旨の事前協議約款が規定されている場合に、全組合員3名のうち2名が組合の意思決定を主として行っていたところ、その2名が取締役に対する軟禁、暴行等を理由に解雇対象となっており、その後も旧社屋の不法占拠等を行っていたことから使用者と組合との間の信頼関係が欠如していることを理由に事前協議が到底期待できない特段の事情が存する、とした。

有効

(○)

 

3 ご相談のケースについて

ご相談のケースにおいて、会社がXの懲戒解雇について労働組合に協議を申し入れ、Xの不正行為を理由に懲戒解雇する旨十分に説明し、協議を行ったにもかかわらず、労働組合が態度を変えずに議論が平行線を辿ってしまったような場合であれば、会社として労働組合の同意を得るよう十分に努力したといえ、解雇同意約款・協議約款に反しない特段の事情があるものとして、Xを懲戒解雇することは可能と思われます。

 

 (注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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