重要判例解説—長澤運輸事件控訴審判決

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INDEX


はじめに

  1. 事案の概要
  2. 争点
  3. 各争点に関する本件一審判決及び本件控訴判決の概要
  4. 本件控訴審の内容
  5. 本件控訴審判決の評価
  6. 本件控訴審判決を踏まえた今後の対応
  7. まとめ

 

 はじめに

定年退職後、嘱託社員(有期契約社員)として再雇用された社員らが、職務の内容は定年退職前の正社員時代と同一であるにもかかわらず、正社員(無期契約社員)と比べて3割程度低い賃金とされたことについて、労働契約法20条に違反し無効である旨主張していた事件について、平成28年5月13日、東京地方裁判所より、当該嘱託社員(原告、非控訴人)の主張を全面的に認め、会社(被告、控訴人)に対して正社員に適用される賃金規程に基づいた差額合計約420万円の支払を命じる旨の判決が下されました(以下「本件一審判決」といいます。)。詳細については、ニュースレター2016年8月号をご参照下さい。

これに対して、平成28年11月2日、東京高等裁判所は、本件一審判決を覆し、原告らの請求をすべて棄却するという全面逆転判決を下しました(以下「本件控訴審判決」といいます。)。

本件一審判決と本件控訴審判決とでは真逆の判断が下されたわけですが、両者の間では労働契約法20条が禁止する「不合理」な相違の判断基準が大きく異なっています。すなわち、労働契約法20条の解釈について、本件一審判決が、パート労働法9条に言及し、①職務の内容並びに②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であれば、正社員と有期契約社員との労働条件の相違は原則として「不合理」な相違となるとの基準を定立した一方、本件控訴審判決は、条文の文言どおり、①職務の内容並びに②当該職務の内容及び配置の変更の範囲に加えて、③その他の事情として①・②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきとする基準を定立しました。

その上で、本件控訴審判決は、本件一審判決と異なり、高年者雇用安定法により義務づけられた高年齢者雇用確保措置として再雇用した点や、多くの企業では定年前に比べて再雇用者の賃金を3割程度引き下げられている実態等を考慮し、本件相違は労働契約法20条に違反しないとの判断を下したものです。

本件控訴審判決は、全体として、社会の労働実態を反映し、労働契約法20条の文理解釈にも沿った妥当な判決内容といえますが、今後の労働実務にも大きな影響を及ぼし得る判決であることから、その要点を把握しておくことは極めて重要といえます。

 

 1. 事案の概要

本件は、セメント等の輸送会社を営む被告 長澤運輸株式会社(以下「被告」又は「控訴人」といいます。)を60歳で定年退職した後に、被告との間で1年間の有期労働契約(以下「本件有期労働契約」といいます。)を締結して嘱託社員として再雇用された原告(以下「原告」又は「被控訴人」といいます。)ら3名が、被告に対して原告ら(有期労働契約社員)と無期労働契約の正社員との間の賃金格差(平均して、正社員より21%減)(以下「本件相違」といいます。)は不合理であるとして、本件有期労働契約による賃金の定めが労働契約法20条に違反し無効であり、原告らには正社員に対する就業規則等が適用されることになるとして、被告に対して当該正社員に対する就業規則等により支給されるべきである賃金と、嘱託社員待遇で実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案です。

なお、正社員と原告ら有期契約社員の賃金体系は以下のとおりです。

正社員

有期契約社員(原告ら)

① 基準内賃金
・基本給(在籍給+年齢給)
・ 職務給
精勤手当
役付手当
住宅手当
・無事故手当
・能率給

② 基準外賃金
家族手当
・超勤手当
・その他の手当
・通勤手当

・基本賃金
・歩合給(7〜12%)
・無事故手当
・調整給
・通勤手当
・時間外手当
*正社員に支給される以下の給料・手当は不支給であり、賞与・退職金も不支給
・職務給
・役付手当
・精勤手当
・住宅手当
・家族手当

 

 2. 争点

労働契約法20条は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲 その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定しています。

整理すると、労働契約法20条は、同一の使用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者について、「期間の定めがあること」によって両者の労働条件に相違がある場合、(i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲 並びに(iii)その他の事情を考慮して、その相違が「不合理」なものであることを禁止した規定といえます。

もっとも、「期間の定めがあることにより」とは、有期か無期かという「期間の定め」に関連した相違でありさえすれば足りるのか、それとも有期だから賃金が低く抑えられているといった、「期間の定め」を理由とした相違でなければならないのか、条文の文言からは判然としません。

また、条文上、「不合理」性の判断基準について、いくつか考慮要素は掲げられていますが、具体的な判断基準は明確ではありません。

そのため、本件においても、かかる労働契約法20条の解釈を巡って当事者間で対立する主張がなされています。

以上を踏まえ、本件における争点を整理すると、概要以下のとおりです。

①   本件相違について労働契約20条が適用されるか(「期間の定めがあることにより」の解釈)

②   労働契約法20条における「不合理」性の判断基準

③   本件相違は「不合理」なものとして労働契約法20条に違反するか

なお、本件では、労働契約法又は公序良俗違反を理由とする不法行為の成否も主張されていますが、争点③と重複し、付随的な争点にとどまりますので本コラムでは省略しています。

以下、各争点に関する本件一審判決及び本件控訴審判決の概要を整理するとともに、本件控訴審判決の判旨の内容について検討していきます。

 

 3. 各争点に関する本件一審判決及び本件控訴判決の概要

本件における争点に関する本件一審判決及び本件控訴審判決の概要を整理すると、概要以下のとおりです。

争点

本件一審判決

本件控訴審判決

労働契約法20条の適用の有無

「期間の定めがあることにより」との文言は、期間の定めがあることに関連して、の意味
▷労契法20条の適用あり

同左

「不合理」性の判断基準

・(i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(iii)その他の事情を考慮し、とくに(i)(ii)が重要な考慮要素
・  短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に鑑み、(i)及び(ii)が同一である場合、賃金について有期・無期契約労働者間で相違を設けることは、特段の事情がない限り、不合理

・(i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(iii)その他の事情を考慮
「とくに(i)及び(ii)が重要な考慮要素」とは言及せず
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に言及せず

労働契約法20条違反の有無

・原告らの(i)及び(ii)は正社員と同一
定年後再雇用者の賃金を定年前から引き下げること自体の合理性は認められるものの、企業一般において広く行われているとまではいえず、差別を正当化する「特段の事情」は認められない
▷労契法20条違反

・原告らの(i)職務の内容並びに(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲はおおむね正社員と同一
・(iii)その他の事情として以下の点を考慮
①高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置としての継続雇用である有期労働契約は広く行われている
②高年者雇用安定法による60歳超の雇用義務づけによる賃金コストの無制限な増大を回避し、定年到達者の雇用と若年層を含めた労働者全体の雇用を実現する必要
③60歳超の者に在職老齢年金、高年齢雇用継続給付
④雇用削減+退職金支給+新規の雇用契約締結
⑤運輸業又は当該規模の企業では、大多数が定年前と同じ仕事・部署、同じ労働時間で、賃金は約7割(3割減)が広く行われている
⑥基本給が最も高くなる在籍41年目以上で50歳以上の労働者と在籍1年目の賃金格差は64万余円だが、原告らとの差額はこれを大幅に上回る
⑦本業において会社が大幅な赤字
⑧定年後継続雇用における賃金減額は一般的で社会的にも容認
⑨無期契約者の能率給に対応する歩合給率を有期契約者には高く設定、無事故手当増額、無年金期間に調整給支給
⑩労組との協議・交渉後の労働条件改善
▷労働契約法20条に違反しない

 

 4. 本件控訴審の内容

争点①:本件相違について、労働契約法20条が適用されるか

争点②:労働契約法20条における「不合理」性の判断基準

争点③:本件相違は「不合理」なものとして労働契約法20条に違反するか

争点①〜③に関する本件控訴審判決の判旨を要約すると、概要以下のとおりです。

 

1 争点①:本件相違について労働契約法20条が適用されるか


本件控訴審判決は、「本件の有期労働契約は、期間の定めのある労働契約であるところ、その内容である賃金の定め・・・は、正社員・・・の労働契約の内容である賃金の定め・・・と相違しているから・・・、本件の有期労働契約には、労働契約法20条の規定が適用されることになる。」と判示し、まず、結論として本件相違に労働契約法20条の適用があることを肯定しました。

その上で、労働契約法20条の趣旨及び「期間の定めがあることにより」の文言解釈について、以下のとおり判示しました。

労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ、同条の『期間の定めがあることにより』という文言は、有期契約労働者の労働条件が向き契約労働者の労働条件と相違するというだけで、当然に同条の規定が適用されることにはならず、当該有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当であるが、他方において、このことを超えて、同条の適用範囲について、使用者が専ら期間の定めの有無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定して解すべき根拠は乏しい

このように、本件控訴審判決は、本件一審判決と同様、労働契約法20条の趣旨に照らして、「期間の定めがあることにより」とは、期間の定めの有無に関連して生じたものをいう、と解し、それ以上に限定的に解釈すべき理由はない、と判示しました。

 

2 争点②:労働契約法20条における「不合理」性の判断基準


次に、本件控訴審判決は、労働契約法20条における「不合理」性の判断基準について、以下のように判示しました。

「労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか、③その他の事情を掲げており、その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される」

かかる判断基準は、一見すると労働契約法20条の文言どおりであり、本件一審判決の判断基準と大差ないようにも思えます。しかしながら、本件一審判決は、以下のように、本件控訴審判決とは大きく異なる判断基準を定立しています。

同条が考慮要素として上記①及び②を明示していることに照らせば、同条がこれらを特に重要な考慮要素として位置づけていることもまた明らかである。また、短時間労働者であることを理由として賃金の決定その他の待遇について差別的取扱いをしてはならない旨を定めた「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条に鑑みると有期契約労働者の職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度に関わらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、「不合理」(労働契約法20条)との評価を免れない

このように、本件一審判決は、「不合理」性の判断要素のうち、とくに①・②を重視するとともに、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条に言及し、①・②が同一であれば、原則として「不合理」な相違となり、例外的に、正当化すべき特段の事情がある場合に限って「合理」的な相違となる旨の判断基準が示されています。

すなわち、本件控訴審判決が、労働契約法20条の文言どおり、①・②・③の考慮要素を並列的に評価し、労働条件の相違に係る諸事情を総合考慮して「不合理」性を判断しようとするものであるのに対して、本件一審判決は、①・②の要素を重視し、①・②が同一であれば、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条に照らして、原則として「不合理」な相違として判断するものといえます。

本件一審判決の判断基準は、後記のとおり社会の労働実態を捨象してやや労働者保護に傾きすぎているきらいがあり、労働契約法20条の文理解釈からは、①・②・③の考慮要素を並列的に捉える本件控訴審判決の方が適当と思われます。

 

3 争点③:本件相違は「不合理」なものとして労働契約法20条に違反するか


本件控訴審判決は、本件一審判決と同様、正社員と原告らとの間には、①「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく」、また、②被告が「業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも両者の間に差異はない」として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲は同一である旨判示しました。

その上で、③その他の事情について、以下のとおり詳細な検討を行った上で、①〜③を総合考慮し、結論として「不合理」な相違ではなく労働契約法20条に違反しない旨判示しています。

 

ア 定年退職者に対する雇用確保措置

「控訴人が定年退職者に対する雇用確保措置として選択した継続雇用たる有期労働契約は、社会一般で広く行われているものである」

 

イ 定年後継続雇用者の賃金引き下げの必要性

従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実であるといって差し支えない」

「我が国において、安定的雇用及び年功的処遇を維持しつつ賃金コストを一定限度に抑制するために不可欠の制度として、期間の定めのない労働契約及び定年制が広く採用されてきた一方で、平均寿命の延伸、年金制度改革等に伴って定年到達者の雇用確保の必要性が高まったことを背景に、高年齢雇用安定法が改正され、同法所定の定年の下限である60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置が、ごく一部の例外を除き、前事業者に対し段階的に義務づけられてきたこと、他方、企業においては、定年到達者の雇用を義務付けられることによる賃金コストの無制限な増大を回避して、定年到達者の雇用のみならず、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要があること、定年になった者に対しては、一定の要件を満たせば在職老齢年金制度・・・や、60歳以降に賃金が一定割合異常低下した場合にその減額の程度を緩和する制度(高年齢雇用継続給付)があること、さらに、定年後の継続雇用制度は、法的には、それまでの雇用関係を消滅させて、退職金を支給した上で、新規の雇用契約を締結するものであることを考慮すると、定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない

社会の実相として、60歳の定年後に継続雇用の措置が採られることが多く、その際60歳までの処遇と比べて低い処遇になることが一般化していることについては、様々な事情を考慮すれば、一般的には合理的なものと考えられるとの見解が公的に示されている」

 

ウ 運輸業における引き下げの実態

「控訴人が属する運輸業を含めて、定年後の継続雇用制度の導入の状況についてみると、独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成26年5月付けの「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果・・・によれば、企業全体の傾向として、継続雇用制度を採用する会社が多く、その多数が、定年前後で継続雇用者の業務内容並びに勤務の日数及び時間を変更せず、継続雇用者に定年前と同じ業務に従事させながら、定年前に比べて賃金を引き下げていることが認められる

「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」

 

エ 原告(被控訴人)らの不利益の程度

「控訴人は、被控訴人らを含めた定年後再雇用者の賃金について、定年前の79パーセント程度になるように設計しており、現実に、定年1年前の年収と比較すると、被控訴人A1について約24パーセントの減、被控訴人A2について約22パーセントの減、被控訴人A3について約20パーセントの減となっており・・・、控訴人の想定と大差なく、かつ、前記のとおり控訴人の属する規模の企業の平均の減額率をかなり下回っている

「このことと、控訴人は、本業である運輸業については、終始が大幅な赤字となっていると推認できること・・・を併せ考慮すると、年収ベースで2割前後賃金が減額となっていることが直ちに不合理であるとは認められない

 

オ 社会における一般的状況及び代償措置

もともと定年後の継続雇用制度における有期労働契約では、職務内容等が同一で、その変更の範囲が同一であっても、定年前に比較して一定程度賃金額が減額されることは一般的であり、そのことは社会的にも容認されていると考えられること、控訴人が、①無期契約労働者の能率給に対応するものとして有期契約労働者には歩合給を設け、その支給割合を能率給より高くしていること、②無事故手当を無期契約労働者より増額して支払ったことがあること、③老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったことがあるなど、正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない

 

カ 基本給の増額及び退職金の支給における相違

「正社員の場合には、勤続するにつれて基本給が増額され、3年以上勤務すれば退職金が支給されるのに対し、嘱託社員の場合には、勤続しても基本賃金その他の賃金の額に変動はなく、退職金が支給されることもないとしても、被控訴人らがいったん退職して退職金を受給していること、その年齢等を考慮すると、本件の有期契約労働者が長期にわたり勤務を続けることは予定されていないことを考慮すると、不合理性を基礎付けるものとはいえない

 

キ 被告(控訴人)の賃金コスト抑制の意図

「定年退職者の雇用確保措置として、継続雇用制度の導入を選択することは高年齢者雇用安定法が認めるところであり、その場合に職務内容やその変更の範囲等が同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されていると考えられるから、前記の控訴人の意図は、労働契約法20条にいう不合理性を当然に基礎付けるものではない」

 

ク 労使間の協議

「労働条件の改善は、いずれも、控訴人と本件組合が合意したものではなく、控訴人が団体交渉において本件組合の主張や意見を聞いた後に独自に決定して本件組合に通知したものであり、また、控訴人は、本件組合が、定年後再雇用者の賃金水準について実質的な交渉を行うために、現状と異なる賃金引き下げ率による試算や経営資料の提示等を繰り返し求めてきたのに対し、その要求に一切応じていない・・・という事情はあるものの、控訴人と本件組合の間で、定年後再雇用者の賃金水準等の労働条件に関する一定程度の協議が行われ、控訴人が本件組合の主張や意見を聞いて一定の労働条件の改善を実施したものとして、考慮すべき事情である

 

ケ 小活

 以上の事情を総合考慮し、本件控訴審判決は、「本件相違は、労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであるということはできず、労働契約法20条に違反するとは認められない」として、本件相違は労働契約法20条に反せず適法であるとして、本件一審判決を覆しました。

 なお、不法行為の成否については、「控訴人が、被控訴人らと有期労働契約を締結し、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を20ないし24パーセント程度切り下げたことが社会的に相当性を欠くとはいえず、労働契約法又は公序(民法90条)に反し違法であるとは認められ」ず、「その余の点について判断するまでもなく」、原告らに対する不法行為は成立しない。

 

 5. 本件控訴審判決の評価

本件控訴審判決は、労働契約法20条の文理解釈として妥当なものであり、また、日本における非正規雇用に関する格差是正規制の展開を踏まえつつ、社会における労働実態を反映した妥当な判決だったといえます。

もっとも、平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」(以下「施行通達」といいます。)第5の6(2)オによれば、「法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること。」と規定している一方、本件控訴審判決は、基本的には賃金全体としてみて「不合理」か否かを判断しており、その判断の差異に、各手当等の条件を考慮しています。

そのため、一見すると、本件控訴審判決は、個々の労働条件ごとに不合理性を判断することを求める施行通達と矛盾するようにも思われます。

もっとも、施行通達も、賃金総額は同一であるにもかかわらず、形式的に各手当の金額に相違がある場合に、当該相違を一律に不合理か否か判断すべきことまで求めているとは思われず、施行通達の存在は本件控訴審判決に対する本質的な問題点とはならないものと思われます。

 

 6. 本件控訴審判決を踏まえた今後の対応

本件一審判決は、「職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合には、特段の事情がない限り、有期契約社員と無期契約社員とで賃金に相違があることは不合理なものとして無効となる」と判示していたことから、有期契約社員の賃金の引き下げを検討していた企業の中には、有期契約社員と無期契約社員とで職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲に差異を設け、本件一審判決の射程が及ばないよう対策を実施ないし検討していた企業もあるかもしれません。

本件控訴審判決により、たとえ職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であったとしても、使用者における賃金引き下げの必要性や有期契約労働者の不利益の程度、代償措置の有無や当該業界における引き下げの程度等、その他の事情を総合考慮し、無期契約労働者との間での賃金の差が「不合理」か否かを判断することが明確になったものといえます。

ただし、逆に言えば、本件控訴審判決により、職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違を設けたからといって、その他の事情次第では、有期契約労働者と無期契約労働者との間での賃金の差が「不合理」ではない(=合理的)、とは限らないことがより明確になったともいえます。

また、本件長澤運輸事件と同時期に、定年前に事務職であった社員に定年後再雇用後の職務としてパートタイムでの清掃業務を提示したことが高年齢者雇用安定法の趣旨に反し違法であるとされた高裁判決(トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日))が出たこともあり、定年前後で職務の内容を変えすぎても別途違法と評価されるリスクがあることにも留意が必要です。

 

 7. まとめ

本件はマスコミでも取り上げられ大きな注目を集めた裁判例であり、本件一審判決については、2016年8月号ニュースレターでも詳しく解説したとおり、労働契約法20条の適用を広く認め、労働者にとっては有利な判決として評価する意見も見受けられた一方、高年齢者雇用安定法により義務づけられた高年齢者雇用確保措置として再雇用したものであり、また、多くの企業では定年前に比べて再雇用者の賃金を3割程度引き下げていること等から、嘱託社員と正社員との賃金に差を設けることは不合理な差別とはいえず、行き過ぎた判決であるとの批判も見受けられたところです。

 本件控訴審判決は、社会の実態に沿った妥当な判断といえますが、本件と同時期に、正社員と契約社員との間での作業手当や通勤手当等に格差を設けることが、期間を理由とする「不合理」な差別として労働契約法20条に違反するとされた事例(ハマキョウレックス事件高裁判決。詳細については2016年10月号ニュースレターご参照)が出されたこともあり、いまだ労働契約法20条の解釈基準が確立されたものとはいえません

現在、政府において「同一労働同一賃金ガイドライン」について議論され、昨年末に同ガイドライン案が公表されたところでもあり、労働契約法20条の解釈を巡っては、同ガイドラインの帰趨や今後の裁判例の集積を待つ必要があるものと思われます。

 
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