【質問】

当社は広告物の印刷業を営んでおり、原稿の締切直前はいつも繁忙期となり、一部の社員は休日に出勤する場合もあります。そのため、当社の就業規則では、こうした繁忙期に休日出勤した社員に対して代休を付与することとしていますが、とくに休日出勤に係る割増賃金を支払う旨の規定は置いておりません。
ところが、このたび、休日出勤をした社員Xから、代休取得申請とともに、「休日出勤をしたのだから、その分の割増賃金を支払って欲しい」との請求を受けました。当社はXに対して、代休だけでなく割増賃金も支払わなければならないのでしょうか。

【回答】

代休を取得したとしても、Xが休日に出勤して休日労働をした事実に代わりはありませんので、会社はXに対して代休取得を認めるとともに、休日労働に係る割増賃金を支払う義務を負います。
なお、実務上は、代休日の消滅した賃金請求権と、当該割増賃金を相殺して、割増部分のみ支払うのが一般的です。

【解説】

1. 休日振替と代休

代休と類似した概念として休日振替があるところ、休日振替とは、定められた休日と所定労働日を「事前に」変更することをいい、振替の結果休日とされた日のことを振替休日といいます。
これに対して、代休とは、事前に休日の変更をせず、休日労働させた代わりに、「事後的に」所定労働日の労働義務を免除して休ませることをいいます。
このように、両者は事前の振替か事後の振替かという違いがあるとともに、労基法上の取扱いも異なります。
具体的には、休日振替によって、本来の休日が労働日となるため、当該休日における労働について三六協定(労基法36条1項)も休日労働の割増賃金の支払も不要となります。ただし、休日振替によって労働時間が週40時間を超えることになる場合は、超えた部分が時間外労働となるため、三六協定又は臨時の必要の要件(労基法33条1項)、時間外労働割増賃金(労基法37条1項)が必要となることに留意する必要があります。

2. 代休の付与

これに対して、代休の場合、休日振替と異なり休日は休日のままとして取り扱われるため、社員を休日に労働させた事実はそのまま残ります。
したがって、上記三六協定又は臨時の必要の要件、割増賃金等の休日労働に係る規制が適用されることになります。
なお、労基法上、会社には社員に対して代休を与えるべき義務は規定されていないため、就業規則等、労働契約で代休を付与する旨の定めがない限り、社員に対して代休を付与する義務はありません。
また、就業規則等において代休に関する規定を置く場合であっても、それが労基法上の制度でない以上、取得手続や申請期間等の代休のないようについては会社が自由に定めることができるとともに、代休日の定め方について週休制原則(労基法35条)は適用されません。

3. ご相談のケースについて

Xに対して代休を与える必要があるかは、労基法の問題ではなく、就業規則等に代休付与に関する定めがあるか否かによります。ご相談のケースでは、会社の就業規則中に代休付与に関する規定があるとのことですので、労働契約上、会社はXに対して代休を付与する必要があります。
次に、Xに対して割増賃金を支払う義務があるかですが、代休を取得したとしても、Xが休日に出勤して休日労働をした事実は変わりませんので、会社はXに対して代休とともに休日労働に係る割増賃金を支払う義務を負います。
なお、実務上は、代休日の消滅した賃金請求権と、当該割増賃金を相殺して、割増部分(35%)のみ支払うのが一般的です。

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

【参考文献】
菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)