特許法—取引先との共同出願①

 

【質問】

当社(X社)は家電の部品メーカーとして、長年大手家電メーカーY社に部品を納入してきました。

当社では競合他社との競争に勝ち抜くべく研究開発に力を入れてきましたが、その成果が実り、業界内では画期的といえる技術を発明することができました。

ところが、この新技術の発明を聞きつけた取引先Y社から、「X社さんが開発した技術は大変素晴らしい。費用は我が社で負担しますから、今後も我が社とともに発展していくためにも、ぜひ共同で特許の出願をしましょう。」との要求を受けており、どのように対応すべきか苦慮しています。

当社にとってY社は大口取引先ですし、今後も取引関係を良好に保っていくためには共同出願を受け入れるのもやむを得ないかと思いますが、何か気をつけるべき点はあるでしょうか。

【回答】

Y社との共同出願には出願に伴うコストを単独で出願する場合よりも抑えられるというメリットがある一方で、共有者となったY社がY社自身又は下請け等に委託して当該特許を用いた部品を製造できるようになる結果、Y社との取引が増加するどころか、最悪の場合取引を打ち切られるおそれがある等、大きなデメリットを被るおそれがあります。

そのため、たとえ重要な取引先であっても、共同出願に応じるかは慎重に検討する必要があります。

【解説】

1. 特許を受ける権利

まず、「特許権」と「特許を受ける権利」を区別して整理することが大切です。

発明者が発明を完成すると、「特許を受ける権利」(特許法33条1項)が自然に発生しますが、独占的実施権や排除権を有する「特許権」として保護されるためには、「特許を受ける権利」に基づき特許出願し、審査を経て登録される必要があります(特許法66条1項)。

このように、「特許を受ける権利」がなければ特許権を取得することはできませんが、この「特許を受ける権利」は他人に譲渡することもできます(特許法33条1項)。

したがって、発明者でもなく、また真の発明者から「特許を受ける権利」を承継していない第三者が特許出願をしても、当該第三者による出願は拒絶され(特許法49条7号)、たとえ登録されていても無効事由になります(特許法123条1項6号)。

2. 共同出願と特許権の共有

共同出願とは、出願人名を連記して特許出願することをいい、共同出願により特許権が成立した場合、その特許権は共有となります。特許権の共有に関しては、主に以下の3点が特徴として挙げられます。

①    各共有者は、特約がない限り事由に当該特許権を実施できる(特許法73条2項)

②    各共有者は、他の共有者の同意がない限り、専用実施権や通常実施権の設定ができない(特許法73条3項)

③    各共有者は、他の共有者の同意がない限り、その持分の譲渡、質権設定をすることができない(特許法73条1項)

3. 取引先との共同出願をする上での留意点

中小企業が特許を取得する過程で、本来当該中小企業が単独で発明したにもかかわらず、当該特許の発明に関与していない取引先からの要請に応じて当該取引先との共同出願がなされるケースはままありますが、そのメリット・デメリットを十分に考慮しないまま安易に共同出願したことにより、後日深刻なトラブルとなるケースが散見されるため注意が必要です。

以下では、発明権者である中小企業A社が、大口取引先B社の要請に応じて共同出願した場合を前提に説明します。

4. 取引先との共同出願をすることのメリット

取引先B社の要請に応じて共同出願する場合、特許出願等の手続や特許取得後の管理等についてB社が負担してくれたり、共同出願に伴う費用を全額ないし折半にて負担してくれる等、単独発明者であるA社にとって特許の取得・管理に係るコストを節約できるといったメリットがあり得ます。

5. 取引先との共同出願をすることのデメリット

もっとも、前述のとおり、特許権の共有となった場合、①特約がない限り各共有者は単独で特許を実施することができるようになるため、他の共有者(B)に製造能力があれば今後は共有者(A)から特許を用いた部品等を購入せずに自社のみで完成品の製造販売が可能となるため、B社との取引関係を強化するどころか、むしろ最悪の場合、発明権者であったA社は取引先B社を失うおそれがあります。

また、たとえ取引先B社自身に製造能力がなく、B社が下請けに製造を委託した場合であっても、下請けがB社の指示に従い、全量をB社に納入し、商標等もB社のものが付されているような状況があれば、下請けはB社の手足として、その実施は共有者であるB社による「特許権の実施」と判断される可能性がある(仙台高裁秋田支部昭和48年12月1日半時753号、最高裁昭和49年12月24日)ため、やはり発明権者であったA社の承諾なくB社自身の判断で製造することができてしまいます。

さらに、前述のとおり、②特許権を第三者にライセンスする場合、他の共有者の同意が必要となるため、仮に中小企業A社が自社の生産能力では追いつかないため下請け先や関連会社等にライセンスし、製造委託しようとしても、他の共有者であるB社の同意がない限り、かかる製造委託は認められないことになります。

加えて、前述のとおり、③特許権に対する自社の持分を譲渡するに際して、他の共有者の同意が必要となるため、中小企業A社が自社の特許権を売却して他のビジネスを開拓しようとしても、他の共有者である取引先B社の同意が必要となるため、取引先B社との関係が不良であれば譲渡することも困難となります。

以上のとおり、共同出願による特許権の共有には、中小企業にとってはメリット以上にデメリットが大きくなる傾向があるため、安易に共同出願に応じることには慎重であるべきといえます。

6. ご相談のケースについて

前述のとおり、Y社との共同出願には出願に伴うコストを単独で出願する場合よりも抑えられるというメリットがあります。

一方で、共有者となったY社がY社自身又は下請け等に委託して当該特許を用いた部品を製造できるようになる結果、Y社との取引が増加するどころか、最悪の場合取引を打ち切られるおそれがあります。

その他、X社が関連会社等へ本件特許をライセンスし製造委託をしようとしてもY社が同意しない限り認められず、またX社の持分を譲渡しようとしてもY社の同意がない限り認められないなど、決して小さくないデメリットを被るおそれがあります。そのため、たとえ重要な取引先であっても、共同出願に応じるかは慎重に検討する必要があります

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。

また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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