取締役の退任—取締役の辞任と法的責任

 【質問】

知人の伝手で、5年ほど前から輸入販売代理業を営んでいる会社の取締役に就任していますが、社内での人間関係のトラブルから、取締役を辞任することを考えています。

会社が辞任届を受け取ってくれるか心配ですが、それでも辞任できるでしょうか。

また、無事に辞任できたとしても、その後も取締役として責任を負うようなことがあるでしょうか。 

【回答】

取締役の辞任を希望する場合、会社、具体的には会社の代表権を有する代表取締役等に対して辞任届を提出するとともに、会社に対して辞任登記申請を行うこととなります。

取締役の辞任は一方的な意思表示で行うことができますが、ご相談のケースでは社内の人間関係に問題があるとのことですから、辞任届が会社に対して到達したことを明確にすべく、弁護士に相談の上、内容証明郵便を送付してもらうことも一案です。

また、取締役辞任後も特段の事情がある場合には例外的に第三者に対して責任を負う場合がありますので、会社が辞任登記申請に応じてくれない場合には、会社に対する辞任登記手続請求訴訟を提起することも検討することとなります。

【解説】

取締役の辞任

取締役と会社との関係は民法の委任に関する規定に従うため、取締役はいつでも自己の意思で辞任することができます(会社法330条・民法651条1項)。そして、辞任の意思表示は、かかる委任契約の相手方である会社、具体的には代表取締役等に対して行うこととなります。

なお、辞任は取締役の単独行為ですから、一方的な辞任の意思表示が会社に到達したときに辞任の効力が生じ、会社の承諾は必要ありません

ただし、当該取締役の辞任により欠員が生じる場合は新任の取締役が就職するまで取締役の義務を免れることはできず(会社法346条1項)、また、辞任によって会社が不利益を被るような場合には民法651条2項に基づく損害賠償責任を負う可能性があることに注意が必要です。 

会社が辞任登記手続を行わない場合—辞任登記手続請求

取締役の氏名は登記事項であるため(会社法911条3項13号)、取締役を辞任した場合、変更登記が必要となります(会社法911条3項13号、915条1項、商業登記法54条4項)。

そのため、取締役を辞任したにもかかわらず、会社が取締役の退任登記をしない場合、当該(元)取締役は、会社に対して、自らが取締役を退任した旨の変更登記手続を請求する訴訟を提起することができます

かかる退任登記手続請求が認められ、判決が確定した場合、(元)取締役に登記申請についての代理権の授与が強制され、(元)取締役は会社の代理人として登記を申請することができます。

なお、辞任により定款又は法律に定める取締役の人数に欠員が生じる場合には、前述のとおり新任の取締役が就職するまで取締役の義務を免れることはできず、いまだ登記事項の変更を生じていないと解されることから、たとえ辞任登記手続請求に勝訴し登記申請をしても却下され、新たに選任された取締役が就任するまで辞任登記をすることはできないことにご注意ください(最三小判昭43年12月24日)。

辞任登記未了取締役の法的責任

会社に対して辞任届を提出したものの、会社がかかる辞任登記手続を行わなかった場合、登記簿上はいまだ取締役としての氏名が残っていることから、会社法908条1項により、善意の第三者に対して責任を負うとも思えます。

もっとも、判例は、辞任登記未了の元取締役の第三者に対する責任について、①辞任後もなお積極的に取締役として対外的・対内的な行為をあえてしたか(最三小判昭37年8月28日)、または、②不実の登記を残存させることにつき登記申請者に明示的な承諾を与えていた等の場合にのみ責任が認められる(最高裁昭和62年4月16日)、としており、特段の事情がない限り、辞任登記未了取締役は第三者に対して責任を負わない、としています。

また、近時の裁判例も、かかる登記簿上の取締役の責任に関する理論を用いて取締役の第三者に対する責任を認めることについて慎重な態度を取っています。

ご相談のケースについて

取締役の辞任を希望する場合、会社、具体的には会社の代表権を有する代表取締役等に対して辞任届を提出するとともに、会社に対して辞任登記申請を行うこととなります。

取締役の辞任は一方的な意思表示で行うことができますが、ご相談のケースでは社内の人間関係に問題があるとのことですから、辞任届が会社に対して到達したことを明確にすべく、弁護士に相談の上、内容証明郵便を送付してもらうことも一案です。

また、取締役辞任後も特段の事情がある場合には例外的に第三者に対して責任を負う場合がありますので、会社が辞任登記申請に応じてくれない場合には、会社に対する辞任登記手続請求訴訟を提起することも検討することとなります。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。

また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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