健康管理③—受診命令に応じない社員への対応

【質問】

社員Xは、営業車を運転中に交通事故を起こして以来、感情の起伏が激しくなり、会議等において突然大声で話し出したかと思えば、デスクに戻っても仕事をするでもなく、モニターをじっと見つめて一日を過ごすこともあります。

様子がおかしいため、部長命令でXに当社のかかりつけ医の診察を受けるよう勧めていますが、一向に受診しようとしません。

会社からXに対して、業務命令として受診させることはできるでしょうか。また、今後も状況が改善されないようであれば、解雇することも考えていますが、問題はないでしょうか。

 

【回答】

会社は、就業規則に受診義務に関する規定があればもちろん、ない場合であっても、合理的かつ相当な措置であれば、Xに対して業務命令として受診を命じることができます。

もっとも、Xが受診命令に応じない場合であっても、精神疾患が業務中の交通事故に起因するものであれば、原則として一定期間Xを解雇することはできず、また、解雇権濫用法理による制限にも服することに注意が必要です。

 

【解説】

1. 会社による受診命令の可否

長時間残業等により社員が体調を崩し、精神疾患等を患った場合、会社は当該社員に対して安全配慮義務違反等に基づく損害賠償責任を負う可能性があります

この点、労働安全衛生法66条の8第1項は、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保険師その他の厚生労働省令で定める者・・・による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。」としており、会社は、精神疾患のおそれのある社員に対して、精神科医等による診断・治療を受けさせる必要があります

もっとも、自主的な残業による精神疾患の場合等においては、当該社員が自ら精神疾患を患っていることを自覚していない場合もあり、当該社員が診察を拒むこともあり得ます。そこで、会社は、社員に対して業務命令として専門医等の診察を受けるよう命令することができるかが問題となります。

 

2. 就業規則上、受診義務について規定されている場合

この点、会社の就業規則中に、社員に対する専門医等の受診義務等を定めている場合、当該就業規則の内容が合理的であれば労働契約の内容となるため(労働契約法7条)、社員に対して受診命令を下すことができます(電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日労判470号))。

 

3. 就業規則上、受診義務について規定されていない場合

これに対して、就業規則中に受診義務等を定めていない場合であっても、受診命令等が労使間の信義・公平の観念に照らし、合理的かつ相当な措置であれば、社員に受診命令等を命じることができる、とされています。

たとえば、京セラ事件(東京高裁昭和61年11月13日労判487号)において、裁判所は、会社が専門医の診断を求めることが、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし、合理的かつ相当な理由のある措置であると評価される事案で、就業規則等に定めがないとしても指定医の受診を指示できる、と判示しています。

 

4. 精神疾患を理由とする解雇の可否

社員が会社による受診命令に従わない場合、精神疾患による能力不足を理由とする普通解雇事由に該当するものとして、当該社員を解雇することが考えられます。

もっとも、精神疾患が業務に起因する場合、療養のための休業期間及びその後30日間は、会社は原則として当該社員を解雇することはできません(労基法19条1項)。

また、かかる解雇制限の適用を受けない場合であっても、判例上、解雇権濫用法理に基づき一定の制限を受けます。

たとえば、躁鬱病に罹患し、躁状態にあることを理由に解雇した事案において、就業規則所定の休職制度が同一の理由による休職も予定されており、前回の休職期間が就業規則所定の休職期間を超えていないこと、従業員の病状も回復可能性がなかったといえないこと、会社は病気で通常勤務できない2名の雇用を継続しており、当該社員だけを解雇するのは平等取扱いに反すること等を認定し、裁判所は、会社による解雇は合理的理由を欠き解雇権濫用に該当し、無効と判示しています(K社事件(東京地裁平成17年2月18日労判892号))。

 

5. ご相談のケースについて

会社は、就業規則に受診義務に関する規定があればもちろん、ない場合であっても、合理的かつ相当な措置であれば、Xに対して業務命令として受診を命じることができます。

もっとも、Xが受診命令に応じない場合であっても、精神疾患が業務中の交通事故に起因するものであれば、原則として一定期間Xを解雇することはできず、また、解雇権濫用法理による制限にも服することに注意が必要です。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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