【上場・非上場会社向け】取締役の責任—退任取締役の競業避止義務

【質問】

私は現在IT企業A社の取締役を勤めていますが、このたび新たなビジネスチャンスを独自につかんだことから、A社の取締役を退任し、自分で会社を興してビジネスをはじめようと考えています。

取引先等、新たなビジネスはA社と競合する領域があり、また、A社の見所のある社員も何名か引き抜こうと考えているのですが、会社法上、何か問題があるでしょうか。 

【回答】

取締役退任後であれば、会社と競業するビジネスであっても、原則として自由に行うことができます。

ただし、退任予定段階において、不当な態様で従業員を引き抜いた場合には、取締役の忠実義務に違反し、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

【解説】

取締役の競業避止義務

取締役の競業は、会社のノウハウや顧客情報等を奪う形で会社の利益を害するおそれが高いことから、取締役が自己又は第三者のために「会社の事業の部類に属する取引」をしようとするときは、その取引について重要な事実を開示して株主総会の承認(取締役会設置会社以外の場合。会社法356条1項1号。普通決議)/取締役会の承認(取締役会設置会社の場合。会社法365条1項)を受ける必要があります。

また、取締役会設置会社においては、競業取引をした取締役は、取引後遅滞なく当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項・976条23号)。

「会社の事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)及び市場(地域・流通段階等)が競合する取引をいい、会社が進出を企図し、市場調査等を進めていた地域における同一商品の販売は規制対象になります(東京地裁昭和56年3月26日判時1015号)。

また、「取引」には、販売・購入の双方を含み、たとえばある物品の製造・販売を目的とする会社であれば、その原材料を購入する取引も競業となり得ます(最高裁昭和24年6月4日)。

違反の効果

取締役が、株主総会・取締役会の競業の承認を得ないで取引をしたときは、当該取引によって同人又は第三者が得た利益の額を損害額として推定し、会社は同人に対して損害賠償を請求できます(会社法423条1項・2項)。

また、総株主の同意がない限り、事後承認は認められません(会社法424条)。

ただし、株主総会・取締役会の承認を得たとしても、取締役の会社に対する責任が完全に免除された訳ではなく、当該競業により会社に損害が生じれば、当該競業行為に関し任務懈怠のある取締役は責任を免れないと解されていることに注意が必要です。 

取締役退任後の競業

競業取引規制の対象となる「取締役」は、業務執行に関与する代表取締役又は代表取締役以外の業務執行取締役のみならず、すべての取締役が含まれますが、取締役退任後の競業は原則として自由に行うことができます

また、取締役退任後の競業を禁止する取締役・会社間の特約は、取締役の職業選択の自由(憲法22条1項)に関わるため、①取締役の社内での地位、②営業秘密・得意先維持等の必要性、③地域・期間など制限内容、④代償措置等の諸要素を考慮し、必要・相当性が認められる限りにおいて公序良俗に反せず有効と解されています(東京地裁平成5年10月4日金判929号、東京地裁平成7年10月16日判時1556号等)。

退任予定の取締役による従業員の引き抜き

これに対して、退任後に会社と同一又は類似の事業を開始することを企図する取締役が、在任中に部下に対して退職して自己の事業に参加するよう勧誘することが、取締役の忠実義務違反となることがあることに注意が必要です(東京高裁平成元年10月26日金判835号、前橋地裁平成7年3月14日判時1532号)。

もっとも、部下への退職勧誘全てが忠実義務違反となるわけではなく、①取締役の退任の事情、②退職従業員と取締役の関係(自ら教育した部下か否か)、③人数等会社に与える影響の度合い等を総合誌、不当な態様のもののみが忠実義務違反となる、と解されています。

ご相談のケースについて

取締役退任後であれば、会社と競業するビジネスであっても、原則として自由に行うことができます。

ただし、退任予定段階において、不当な態様で従業員を引き抜いた場合には、取締役の忠実義務に違反し、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。

また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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